亜莉 2
*** Ari ***
あれから ひとしきり、カズヤは皆に からかわれていた。
かなり手荒に… はたから見れば、集団リンチだろう。
さっきにも増してすごい騒ぎだったが、疲れていた私は もう放っておいた。
いつものことだし、彼もすごく楽しそうだったから、いいだろう。
それはそうだ。 あのレイカが、わざわざ 会いにきたのだ。
「…あー、なんかどっと疲れた… 早く帰ってシャワー浴びよ…」
更衣室まで行くのもしんどいし、用具室で手早く着替えてしまおう。
ふだんから 急ぎの時などは、隣の用具室に 着替え中の札をかけて、更衣室代わりにしているのだ。
その時 カズヤの声が聞こえてきて、私は 一瞬 ドキリとした。
「亜莉、スコアどこだ?」
「あ、私持ってる、ちょっと待って」
「早く貸せよ」
そう言うと カズヤは、何の躊躇もなく ドアを開けた。
「っっ!!?」
「あ、わりーな」
悪びれる様子もなくそう言うと、私のかばんから 目的の物を取り出し、そのまま出ていってしまった。
私はまだ、上は下着一枚だというのに、だ。
着替え終わって 部室に戻った私は、すぐにカズヤに 異議申し立てに行った。
彼は 私が出てきたドアのすぐ脇のイスに腰掛け、スコア表に見入っている。
何事もなかったようなその様子が なんとも憎らしい。
「ちょっと、札 出てたでしょ、いきなり開けないでよね」
「わりーわりー、ちょっとスコア欲しかったから。
別にいいだろ、見るもんなんか 何もねーし」
「な、何もって…!! あんた、いい加減に…っ!」
「そんなに騒ぐなよ。 お前、それ以上 減るとこねーじゃん」
「そ、そういう問題じゃないでしょ!?」
「お前ら、また揉めてんのか? 今度は何だよ。 早く帰ろーぜ」
「ちょっと聞いてよ、カズヤったら…」
いきなり カズヤが 私の顔の前に 腕をバッと伸ばした。
「なっ…」
「お前、めんどくせーから もう絶対あそこ使うな」
驚いて 怒鳴ろうとした私を、逆に強くにらみつけ、不機嫌そうに言い捨てた。
「あー 腹減った、なんか食ってこーぜ。 あそこのラーメン、今 半額だろ?」
そのまま 皆の方に振り返り、何事もなかったように話題を変えた。
黙っとけってこと?
なんで私が 怒られなきゃならないの? 被害者は私のはずなのに。
まるで私が、くだらない事で 彼に絡んでるだけみたいじゃない。
私は 腹の虫が治まらない。
なんとか皆に、彼の非道さと この苛立ちを訴えたいが、もう誰も 私の話など聞いてはくれない。
女の子の下着姿を見ちゃったのに、ろくに謝りもせずに、ただの迷惑だって態度はないと思う。
そりゃ 私は、胸もないし色気も全然ないんだろうけどっっ!!
あのレイカに会った後で 私を見ても、どうでもいいんだろうけど!
もともと私には、何の興味もないんだろうけど…
……
私だって、一応女の子なのになぁ。
彼に意識させるなんて、やっぱ無理なのかな…
私はもう怒る気にもなれず、力なく 皆の後ろを歩いた。
私は 小学生の時は男の子と一緒にサッカーをやっていたが、
中学では女子サッカー部はなかったので、マネージャーになった。
カズヤとは 中学からずっと一緒だった。
うまが合うのか じゃれたりケンカしたりしながら、私たちはいつも一緒にいた。
そして、私は いつからかずっと、カズヤを追い続けてきた。
次からは男の子バージョン。
次回はカズヤです。