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14:昇進式


Vatican VCSO headquarters


阿修羅は久しぶりの休みを楽しんでいた、あまり休みが無く、戦い漬けだった毎日だったので休みはありがたい。

阿修羅は日本にいた頃によく聴いていた曲をかけた、暇な部屋での唯一の娯楽だ。


阿修羅は軽く鼻歌を歌いながら、本を読んでいたその時、ホーリナーに支給される携帯電話が鳴った、音楽を消して通話ボタンを押し、耳を近付ける。


「やりましたよお姉様!」


電話口で大声を張り上げるシャーリ、阿修羅は軽く耳を離すと、ゆっくりと近付けた。


「ど、どうしたの?」

「受かったんです!私ソルジャーになったんです!」

「本当に!?良かったわね」

「来週からもう初任務ですよ、その前に明日の天使昇進式があるんですけどね」


育成所の生徒からソルジャーになるためにはそれなりの式がある、半年に一回あるソルジャー昇進試験を突破した者が、一人一人その意気込みと誓いを立てるというもの。

単なる儀式なので、失敗したからといって、ソルジャー落ちするという事は無いが、大勢が見守る中で前に立つというのは、かなりのプレッシャーがある。


「今回は10人だけだったので持ち時間が長いんですよねぇ」

「見に行ってあげようか?」

「そんないいですよ、神選10階のお姉様が出るようなモノでも無いですし」

「楽しそうだし行くわよ」


電話口で慌てるシャーリをよそに阿修羅は電話を切った、あまりVCSOの事を知らない阿修羅にとって、VCSOで起こる全てが新鮮だった、特に神選10階は特権階級で、阿修羅の欲求を満たしてくれる。

それに友達の晴れ舞台を見ないわけにはいかない、そういう野次馬魂的なモノが、阿修羅を行動にかきたてた。




翌日、阿修羅は団服を着て広場に出た、既に準備がされていて、任務に出ていないソルジャーや、育成所の生徒達がいる。

阿修羅はその人混みを掻き分け先頭に向かった、端の方で邪魔しなければ見せてもらえると思ったからだ。

阿修羅は先頭までたどり着くと、仕切ってる偉い人を見つけた。


「あのぉ、すみません」

「邪魔邪魔、忙しいから後にして」


偉い人は阿修羅を見ずに追い払おうとした、自分にも否がある阿修羅は腰を低くしながら顔を出す。


「ちょっと良いですか?」

「だから邪魔だっ―――」


偉い人は振り向き、阿修羅を睨むと真っ青になって固まった、割りと慣れた反応にだが、何故か阿修羅は頭を下げる。

神選10階だからといって人より偉いとは思っていない阿修羅は、神選10階は同僚、それ以外は見下す事は無く、なるべく対等に見ている。

偉い人は片膝を付き、深々とひざまづいた、阿修羅は慌てて同じ目線になると、何故か謝る。


「阿修羅様とは知らずに大変ご無礼を!」

「はぁ、それより昇進式を見学しても良いですか?」

「そんな滅相もない、神選10階様が見られるようなモノでは………」

「今後私の背中を預ける人達ですよ、やっぱり見ておきたいじゃないですか?」

「そ、それではすぐに準備させますので!」


偉い人は走って何処かに行ってしまった、阿修羅は困り果てて、壇上に腰掛けると、辺りを見回した。

ソルジャーや育成所の生徒は阿修羅を見ている、憧れや羨望、純粋に見とれている者、野次馬的な者まで様々だ、しかし皆遠い存在を見るような目で見ている、女子寮の生徒を除いては。

その中から一人の少女が満面の笑みで前に出てきた、阿修羅もよく知った顔。


「お姉様!」

「ミル、久しぶり」


ミルは壇上に座っている阿修羅の太股に両腕を乗せ、その上に顔を乗せて上目使いで阿修羅を見る、回りのソルジャーは顔面蒼白、女子寮の生徒は羨望の眼差しを送る。


「ききき、君!何をしている!」


戻って来た偉い人は世界の終わりのよう顔でミルを見た、阿修羅とミルは至って普通の顔で偉い人を見る。


「あ、オリフィエル様すみません、ちゃんと列に戻ります」

「違うだろ!阿修羅様になんたるご無礼を!」

「良いんですよ、ミルは私の大切な友達ですから」


阿修羅は軽くミルの頭を撫でると、ミルは満面の笑みを浮かべる、偉い人もといオリフィエルはどっと疲れたらしい。


「オリフィエルさんっていうの?」

「はい、オリフィエル様は育成所の一番偉い人なの」

「そうなんですか、そんな偉い人に上からモノ言ってすみませんでした」


阿修羅は壇上から飛び下りると頭を深々と下げた、オリフィエルはそれにつられて頭を下げる。


「阿修羅様、そんな頭を下げないでください」

「でも私は傭兵風情ですし」

「しかし神選10階様ですし―――」

「阿修羅!何やってるんスか?」


阿修羅とオリフィエル、そしてミルが声の主を捜すと、そこには買い物袋をぶら下げたヘリオスが。

オリフィエルは再び頭を下げるとヘリオスは笑顔で挨拶した。


「何してるんスか?」

「昇進式を見ようと思ってね」

「楽しそうッスね、俺も―――」

「ヘリオス、俺に付き合うんじゃないのか?」


後ろの方から出てきたダグザ、ヘリオスは暫くの沈黙の後。


「ゴメン阿修羅!今日はダグザに付き合わなきゃいけないから、また今度誘って」

「いや、元から誘って無いから」

「バイバイッスよ」


ヘリオスはダグザの後ろに着いて走って行った、最近のダグザは何かおかしい、それに気付いてた阿修羅は、ヘリオス達の後を追おうとしたが、もう始まるとの声に断念した。



式が始まると、ソルジャーの団服を纏ったシャーリを入れて10名が出てきた、壇上の席に座ると、目の前はソルジャーや育成所の生徒で埋め尽されている。

シャーリは阿修羅を見付けると、より一層体がこわばり、無駄に力が入った姿勢になる。


式の内容は長々としたカミゥムマーンへの誓いに始まり、ソルジャー総隊長のお言葉、オリフィエルのお言葉、そして新しくソルジャーになった者達の誓いの言葉、最後にカミゥムマーンこと通称元帥の言葉で終る。

そして阿修羅の右側には元帥、左側にはソルジャー総隊長と、有り得ない顔ぶれに挟まれた。

元帥は色んな意味でやりづらいが、恐縮する程ではない。

しかしソルジャー総隊長は、岩のようにゴツゴツした顔立ちに、ステージ4のように大きな体、見た目だけならホーリナーの100倍は強そうなお方だ。


「何で阿修羅ちゃんがココにいるの?」

「お友達がソルジャーになるからよ」

「育成所にお友達?随分珍しいお友達がいるんだね」


元帥ヘラヘラしたままの受け答え、その間にも使いの者が元帥にチーズケーキを届ける。


「阿修羅ちゃんもいる?」

「はぁ、いらないわよ」


二人のやりとりを微動だにせず聞いている総隊長、その空気で分かる威厳で、阿修羅の背筋は自然と伸びる。

無駄に長いカミゥムマーンへの誓いも微動だにせず聞いている、その姿を軽く尊敬を含めて見る阿修羅。


「………では総隊長、お願いします」


司会の人が言うと、姿勢が良いまま立ち上がり、綺麗な歩き方で壇上に上がった、その瞬間にソルジャー全員の顔が変わる。


「ココにいる10人は神選10階様方の礎、己の命を差し出し、神選10階様をお助けする、生き残る事を考えるな、ソルジャーの命一つで神選10階様のお命を助ける、それが我々の使命だ!」


総隊長はそのまま壇上を下りた、そして阿修羅の隣に座ると、今度はオリフィエルが壇上に上がった。

阿修羅は隣の総隊長を嫌な目で見る、それは壇上で話した事だ、どうしても阿修羅は納得出来なかった、いくら偉い人でも、命を無駄にする人間は許せない。


「流石にあれじぁあソルジャー達が可哀想じゃないですか?」

「いえ、それくらいの覚悟でなければ困ります、我々は阿修羅様達の盾なのですから」

「違います、ソルジャーは私達を助ける言わば弓矢です、私達の背中を任せられる人達です。

それに日本でよく使われる表現では、1本の矢は簡単に折れてしまいますが、3本まとまれば折れません、ソルジャー一人一人はホーリナーに比べたら弱いかもしれませんが、ソルジャー特有の団体戦術は郡を抜くものがあります。

だから盾なんて言わないで下さい、敵の攻撃は剣でも防げます、弓矢がその間に相手を射抜けば、誰も傷付かずに済むじゃないですか?」


総隊長の難しい顔は嘲笑うような顔になった、天使の笑顔というのはみじんも感じられない、阿修羅はその笑い方が嫌でたまらなかった。


「矢も所詮は囮、目を背けるのも矢の役目です、我々は捨て駒なんですよ」


阿修羅はムスッとして壇上を睨んだ、調度元帥が壇上への階段を上っているところだった。

元帥はマイクの前に立つと、阿修羅の方をちらっと見て、笑って手を振った、阿修羅はため息と共に目を反らすと、自然は総隊長の左手首に当たる、そして少しだけ見えるその腕輪、阿修羅は目を大きく見開いた。


「それ、ディアンギットの腕輪ですよね?」

「いかにも」

「ってことは、総隊長さんはソルジャーじゃなくてホーリナー?」

「近からずとも遠からず、元はアルゼンチン支部でホーリナーをやっていたが、神選10階に憧れていた力不足な俺はソルジャーに志願したんです、俺みたいな奴は少なくありません、全隊長の7割は元ホーリナーです」


阿修羅はある事を思い出した、初めてヘリオスに会った時にソルジャー志望か?と聞かれた事。

ソルジャーとはホーリナーやダークロードが見える、特異体質な者が集まっただけの兵隊では無く、神選10階に憧れるホーリナーの集まりでもある。

ソルジャーで認められて神選10階になった例は珍しくない、神選10階の補充で各支部長全員が断った場合、総隊長から神選10階に抜擢されるのだ。

しかし、ソルジャー上がりの神選10階の命は長く無い、一番長くて5ヶ月、それほどソルジャーと神選10階の差は大きいのだ。


式はいよいよメインイベントに突入した、それは神選10階になるのと比較的に似ている、元帥の持っている腕輪のような物を腕に装着し、暫くするとタトゥーのようにナンバーが刻み込まれる、それはソルジャーを示すIDのようなモノ、その時の痛みは皆無だ。


「次、シャーリちゃん」


元帥はいつもの調子でシャーリの名前を呼ぶ、しかも女性には全てちゃん付け。

今回ソルジャーになった者の内、シャーリが最年少だ、18歳でソルジャーになれるとはいえ、昇進試験を突破出来る者はそう多くはない、毎年一人ないし二人くらいしか出ないのだ。

元帥は緊張してるシャーリの腕に腕輪を装着すると、にっこりと笑ってシャーリの目を見た、ソルジャーにとって元帥は別世界の生き物、それを前にしたシャーリが冷静でいられる訳が無い。


「はい、終わり、それじゃお願いね」


元帥はシャーリをマイクの前に立たせる、シャーリはガチガチに緊張し、冷や汗プラス顔面蒼白でマイクの前にたった。


「こここ、今回、ささ、最年少で、ソルジャーに、な、った、シャーリでぇす」


シャーリは思うように喋れない、そんなシャーリに見かねて、阿修羅は小さな声でシャーリを呼ぶと、シャーリに小さくガッツポーズを送った、シャーリは元気を取り戻し、笑顔で頷くと、力のある目でソルジャー達を見た。


「ふぅ、今回最年少でソルジャーになったシャーリです、神選10階様のためにも、この命尽きるまで全力を尽くす事を誓います」


阿修羅は教科書通りのシャーリに誓いが嫌だった、前にシャーリは阿修羅の前で『ソルジャーにはなりたいけど死にたくない』と言っているのだ。

ソルジャーの暗黙の了解で、神選10階を守って死ぬ事程本望な事はないらしい、それ故に生きたいと漏した者は皆に白い目で見られる。


10人全員の誓いが終わり、普通なら元帥からのお言葉になるはずなのだが、元帥は阿修羅を見ながらニヤニヤ笑っている、阿修羅は嫌な予感が頭を占領した。


「本来なら僕が激励の言葉か何かを言うんだけど、君達が死んでも守りたい神選10階様がいるから、その人のお言葉も聞いちゃおうか?」


広場が盛り上がるのと同時に阿修羅からため息が漏れた、拒否したいところだが、広場の盛り上がり方を見て断れる者はいない。


「それじゃあ、神選10階、呪われた第10階の―――」


元帥が言い切る前に、阿修羅が物凄い速さで壇上にいる元帥の顔面を蹴り飛ばした、広場は二つの意味で息を呑んだ、一つは元帥を蹴り飛ばした事に、そしてもう一つは阿修羅のスピードに。

元帥は前を見ていたので見えなかったが、反応出来た総隊長でさえ気付いたら阿修羅が壇上にいた、ソルジャーに至っては気付いたら元帥が吹っ飛んでいた、更にあれだけの不意打ちにも関わらず元帥は無傷、蹴られる寸前で腕ガードしたのだ。


「いきなりは無しでしょ、まぁ僕はMだから嬉しいんだけどね」

「はぁ、最悪な上司ね」


阿修羅は自分に注がれるいくつもの視線に気付いた、そして蹴り飛ばされた元帥は、阿修羅に喋るように促す。

阿修羅は渋々マイクの前に立つと、広場を埋め尽すソルジャーと育成所の生徒が目に入った。


「元帥から紹介があった第10階、戦闘神の阿修羅です、この中のソルジャーで私と任務を共にした人も少なくないと思います。

そこまで多くないソルジャーとの任務経験の中で、確かにソルジャーの方々は勇敢です、でも‘私達’のタメに命を使うのと、命を無駄にする事を履き違えている人がいます。

神選10階の殆どは貴方達を大切な存在だと思っています」


殆ど、それはタナトスとモリガンを抜いた全員の事、タナトスはソルジャーを虫以下にしか思っていない、モリガンは邪魔と言ってソルジャーを除け者にしてしまう。


「私達を助けようとした人は助けられます、でも命を無駄にする人は他人にまで危害が及ぶ、貴方達の命をけっして無駄にはしないで下さい。

ソルジャーとして一まとめにした命は沢山あります、でも、一人一人の命を一つずつしか無いんです、せめてその命、貴方達の一番大切な人のタメに使って下さい」


広場はざわついてる、総隊長と言ってる事が違う故の同様、そして阿修羅の甘さへの嘲笑。

それが分からない程阿修羅は馬鹿ではない、ダグザに比べればそれほどではないが、それなりに頭の良い阿修羅は、最初からこうなる事が分かっていた。


「はぁ、分からないのかな?貴方達に無駄な事をされると困るの、ステージ5をたこ殴りにして、やっと殺せるくらいで意気がらないで、私達が相手にしてるのはエビルユニオン。

それに貴方達が死にそうなのに見捨てる程非常でもない、出世のためか私達を崇拝してるのかは分からないけど、生き残りなさい、貴方達ソルジャー一人の命で私達が助かるほど私達は弱くない、神選10階をナメないで」


広場がシラケる、そして元帥はニヤリと笑った。

阿修羅はシャーリに一言謝り壇上から降りると、そっと椅子に座り、足を組んで壇上の元帥を睨む。


「阿修羅ちゃんキツイ事言うでしょ?」


元帥はマイクを通しても話しかけるように喋る、大物故の余裕か、緊張を知らない無頓着かは分からない。


「でもね、ココにいるソルジャー43隊872人、多分相手次第じゃあ神選10階に傷一つ付けられないよ、現にさっきの阿修羅ちゃんの蹴り、反応すら出来なかったでしょ?

分かる?神選10階は一人一人が人間兵器、目の前に敵だけなら十分に力を発揮出来る、でも兵隊を気にしてると兵器も殺りづらいんだよね。

阿修羅ちゃんが言いたいのは、豆鉄砲風情がミサイルと同じ働きが出来ると思うなって事」


ソルジャー達は沈んでしまった、神選10階直下の軍隊として誇りを持っていた彼らだが、神選10階側の言い分を聞いて、その誇りは跡形もなくズタズタに切り裂かれた。


「ハウラーステージ5の氾濫、キルナの裏切り、ヘルソン消耗戦、ロンダのエビルユニオン、イェナの悲劇、……………そしてホーリナーラグナロク」


ホーリナーラグナロク、それは18年前に起った神選10階と悪魔の、ホーリナー史上最悪の戦い、当時のルシファーが‘天竜の巫女’阿修羅あすらを奪おうとし、神選10階と悪魔が正面から戦った。

その時の元帥まで現場に出た、そしてその時第3階だったのが今の元帥、契約神ミトラだ、生き残ったのは第7階の天空神ランギ、元帥(第3階の契約神ミトラ)、第1階の護法神の毘沙門天、阿修羅あすらは自分の命と引き換えにルシファーを殺した。


「今挙げた戦いは僕がソルジャーに命を救われた戦いだよ、神選10階とソルジャーの連携が取れれば、君達がしたかった事も出来る、だから神選10階に合わせて戦ってみな、神選10階も助けられるかもよ」


元帥はそのまま壇上から下りた、元帥が阿修羅を見ると、阿修羅は穏やかな笑顔で元帥を見た、元帥が言った事は阿修羅の願いと同じだからだ。




ソルジャー、つまり天使、天使は神を助ける者、そして、神をさらなる高みへ導く者。

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