会議
「……敵地潜入?」
昨日、あれだけ桶に向かって吐き、メンタルの不調を見せていたラルムだったが、人の目がある外では僕の知る『騎士』の名に相応しい姿となっていた。
そのラルムは今、この野営地にいる指揮官全員を集めての会議に参加していた。
「はい」
その会議で話すのは一人の金髪の男性だった。
「昨日の攻防。あれはギリギリ……というよりも、我々の敗北と言えるでしょう。イレギュラーが無ければ、我々はあのワームの魔物に押しつぶされて前線が崩壊。そのまま負けていてもおかしくはありませんでした。このまま戦いを続けていてもじり貧です」
「それで、敵地潜入だと?」
「はい。防御に回り、我々は敗北したのです。ならば、やるべきは攻勢しかありません。ですが、全軍で攻勢に出たとしても敗北は必須。敵地に潜入し、指揮官の暗殺を行う。それが我々に出来る唯一の攻勢策かと」
「まぁ、待て。その話をするのであれば、あの魔法が誰のものであるか。それが一番ではないか?」
金髪の男の説明に対し、別の指揮官が口を挟む。
「あの魔法は魔法の最高峰。五大属性の魔法すべてを合わせ、魔を打ち払う光を生み出す特異な複数人による儀式を前提とした大魔法だ。あれを個人で放てる個人など……それこそ、魔女くらいしかっ」
魔女くらいしか個人で使えないと言われる大魔法。
それを僕も個人で使えちゃうんですねっ。魔女も僕たち勇者パーティーの一人だ。最高峰の魔法を使える人間が二人もいるパーティー。
勇者パーティーとは、伊達じゃないのだ。
「……あの、魔法の形はあいつじゃなかったと思うが」
この場に響かせる声ではなく、おそらくはただの独り言をラルムはぼそりとつぶやく。
「如何なさいましたか?」
だが、それでもラルムの言葉だ。
周りは彼女に聞き返し、その言葉を待つ。
「いや、何でもない。あの魔法に関しては考えても仕方ない……というか、あの時系列を考えれば、このスライムが関係しているだろう」
ラルムはずっと頭の上に乗せていた僕を手に取り、机に乗せる。
「あの魔法が放たれた次の瞬間、このスライムが現れたのだ。つまり、そういうことだろう」
「……スライムが、ですが?恐れながら、あれはスライムに使えるようなものでも」
使えますぅー。
まぁ、ただ僕が前世の魔法力を引き継いだ人間であるだけなんだけど。
「使ったのはこいつではないのかもしれない。とはいえ、無関係とは言わないだろう。私たちはこのスライムを大切にするほかないだろう」
「大切に……あくまで、魔物ですよ?危険なのではっ」
「それは考えるだけ無駄な思考だ。認めよう。我々は昨日、一度敗北した。あのワームに前線を破壊され、魔物と魔族が雪崩込んで前線が崩壊。私含め近衛騎士団は敵地で孤立。逃げることも出来ず、私もろとも全員殺されていただろう」
あまりに言い過ぎている、だが、何処まで行っても現実でしかない言葉に周りの皆が口を閉ざす。
「だからこそ、このスライムが我々の救世主なのだ。私たちが罠に嵌められている可能性はない。何故なら、もう既に敗北していたのだ。罠に嵌めずとも、ただ放置をしているだけで我々の敗北だった」
「……それも、そうですが」
「それで、敵地潜入だったな?」
「えぇ、はい。それしか、我々に出来る策がないと思いまして」
敵地潜入。
悪くない策だとは思う。僕が多用していた作戦だ。防御でも、攻撃でも打つ手なしだと感じた時はよく、僕が単独で敵地に潜入して、様々な作戦を実行していた。
とはいえ、それは僕だから出来た芸当でもある。
空間断絶による即死技を持ち、色々なことが出来た器用な僕だからこそ出来た芸当だと思うのだが……。
「確か、敵の拠点の位置は把握できたのだったか」
「えぇ、繰り返し斥候を放つことで何とか割り出しました。一方的に陣地の位置を知られている状況では無くすことに成功しました」
「ふむ。では、その拠点に単独で潜入するのは私か?」
「はい」
ラルムが!?
背後から聞こえてきたラルムの言葉に僕はただ驚愕する。
「馬鹿げている!」
「な、なにを考えておる!ラルム様に敵地への潜入をお願いするなど!?もし、万一のことがあればどうするつもりだ!」
「不敬であるぞ!何を思って頷いた!」
そして、僕の驚愕に共感するかのようにこの場の指揮官全員が異論を唱え始めた。
「いや、やろう」
だが、それらすべてを押しつぶすようにラルムが口を開く。
「いや……それはっ」
ラルムが同意してしまったことで、反対していた指揮官たちの声が尻すぼみしていく。
「私は準備してくる。トスパン。お前は準備をしろ」
それでも、反論の言葉をあげていた指揮官の言葉を打ち切るようにラルムが立ちあがる。
「ハッ……もう?なさるので?」
「あぁ、する。敵も攻勢後だ。ここが一番いいだろう。出来るか?」
「お任せを」
「うむ。では、任せた」
ラルムは指揮官が集まっていた天幕を後にする。
「……レイが、よくやっていた任務だ」
「(えっ?)」
その去り際、ぼそりとラルムが言葉を呟く。
「私が、……レイの代わりに」
ま、待って……、待ってよ。違う。それは……違うよ、ラルム。
君は、僕じゃない。僕に持っていないものをラルムは持っていて、僕の真似事なんてする必要はっ。
ただ、僕がやっていたから。その代わりになることを望んで───そう、思わせる彼女の言葉に僕は何も言えなくなってしまった。
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