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  作者: 森村征爾
16/19

第十六話  盗撮

歓迎会の翌日から、空気はさらに露骨になった。

私が女性の家へ近づこうとすると、必ず誰かがいた。

畑に鍬を立てたままこちらを見る老人。

何度も同じ道を往復する犬の散歩の老婆。

理由もなく軽トラックを停め、窓越しに煙草を吸う長谷川。

偶然ではない。

もはや隠す気もなかった。

女性も何かを察したのだろう。

道で会っても、以前のように声はかけず、困ったように小さく会釈するだけになった。

完全に包囲されている。

このままでは、私も彼女も潰される。

その夜、寺総代として寺へ呼び出された。

用件は、週末の法事準備だった。

供物の確認。

座布団の入れ替え。

本堂裏の掃除。

名ばかりの役目だった。

本堂の灯りは遅くまで点いていた。

私が裏口から入ろうとしたとき、庫裏の座敷から声が聞こえた。

古老たちの声だった。

戸は閉まっていたが、わずかな隙間がある。

私は足を止めた。


「まだ慌てることはない」

聞き慣れた低い声。


「今のままなら、あれは黙る」

別の老人が笑った。


「女も最近は大人しい」

喉の奥が固まった。

私のことだ。

「長谷川、お前は明日から港見とけ」


「はい」


「船に乗る気配あったら、すぐ知らせえ」


「図書館にも言うとくか」

「いや、あれは放っとけ。余計なことはせん」

畳を擦る音。

湯呑みの置かれる音。

そして、別の声がした。


「写真、こっちへ回せ」

紙の擦れる音が続く。

私は吸い寄せられるように、隙間から中をのぞいた。

座敷の中央に、何枚もの写真が広げられていた。

私が女性と畑道で話している写真。

港で並んで歩いている後ろ姿。

女性の家の前で立ち止まる私。

それだけではなかった。

私の家の台所。

窓際の机。

脱ぎ捨てた上着。

室内だった。

頭の中が真っ白になった。

誰かが入ったのだ。

私の留守に。

老人が写真を指で叩いた。


「これ見い。まだ警戒心が足らん」

別の老人が鼻で笑う。


「一人もんは扱いやすい」


「寺総代やらせときゃ、逃げにくい」


「女とは、そのうち切れる」

笑い声が重なった。

私の人生が、その場では酒の肴だった。

怒りより先に、寒気が来た。

この島では、話しかけてくる者も、

親切にする者も、

無視する者も、

役割なのだ。

人付き合いですら自然ではない。

すべて、こちらを囲うために動いている。

そのとき、座敷の中で誰かが立ち上がった。

足音が戸口へ近づく。

私は反射的に身を引き、柱の陰へ息を潜めた。

戸が少し開く音。

沈黙。

数秒後、戸は閉まり、足音はまた座敷へ戻っていった。


「続けようや」

誰かの声とともに、再び笑いが起きた。

私は音を立てぬよう裏口から離れ、闇の中へ出た。

夜風が冷たかった。

だが胸の奥には、別の熱があった。

ここにいれば、飼い殺しにされる。

女も巻き込まれる。

もう迷う時間はなかった。

逃げる。

ただ逃げるのではない。

この島のやり方ごと、外へ持ち出してやる。

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