【01】 爽香は、トレーニングづけ
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【あらまし】
デビュー戦に敗れたボートレーサーの爽香は一生懸命練習することを決意する。
爽香はターンの時、他艇の水しぶきを浴びてもひるまないように、丹沢と由利にバケツの水を思いっ切り顔にぶつけてもらうのだった。
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【主な登場人物】
速水爽香 20歳女 女子ボートレーサー
丹沢純也 30歳男 住民課職員、純粋な性格
由利源吾 30歳男 税務課職員、丹沢の親友
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爽香の胸には、
以前丹沢から言われた言葉が
深く刻み込まれていた。
丹沢「私はあなたに期待してるんです。そして信頼もしてます。あなたに夢をかけています。あなたの舟券を買ったのは、私があなたに勝って欲しいという夢なのです」
その言葉を思い返すたび、
爽香の全身に力が漲った。
走り込み、腹筋、
体幹トレーニング——
爽香はこれまでの人生で
一度もなかったほどの必死さで、
自分をギリギリまで追い込んだ。
毎日、体を極限まで
痛めつけるように鍛え上げた。
荒川の土手を走りながら、
爽香はハァハァと息を吐き、
ぶつぶつ呟いていた。
爽香「あたし、生きていけるのかしら……?」
爽香「元々、ボートレーサーになることだって母親に反対されてた」
爽香「デビューして一ヶ月以上経つのに、賞金はゼロ」
爽香「アパートの家賃は滞納中」
爽香「おばあちゃんの大事な絵だって、市役所の人に売却しちゃったし」
爽香「挙句の果てに、レース場の係員から引退のすすめ……」
爽香「……あたし、本当に生きていけるのかな」
土手に横たわり、
激しい腹筋運動をしながら呟く。
爽香「生活費がない」
爽香「自分の居場所がない」
爽香「頼れる人もいない」
爽香「相談する相手すら……いない」
爽香「あたし、生きていけるのかな……!」
さらに、プルプルと腕を震わせながら
体幹トレーニングに耐える。
爽香「なんとしても勝たねば」
爽香「なんとしても賞金を得なければ」
爽香「なんとしても、絶対に負けない技術を身につけなければ……!」
爽香「そうしなきゃ、生きていけないんだから!」
頭の中で絶望と闘志を
交互に巡らせながら、
ひたすら体を鍛えた。
そうして思考に没頭することで、
苦しい練習時間があっという間に過ぎ去り、
筋肉の悲鳴を麻痺させることができる気がした。
走りながら、
爽香はレースの場面を思い描いた。
爽香(あたしは第1ターンマークで、思い切って突っ込んで旋回できない。どうしても恐怖心が先に立って大回りするか、先輩レーサーより一歩遅れてしまう……。もし、あの狭いレーサー同士の隙間を切り裂くように抜け出せたら、どんなに気持ちがいいだろう)
過去の苦い敗戦が頭をよぎる。
爽香(スタートラインから第1ターンマークまではトップで到達できているのに、いざ旋回するとき、旋回スピードを落としすぎてしまう。なぜなの? 恐怖心? それとも遠慮……? ううん、もう先輩たちに遠慮なんてしていられない。賞金を稼がなきゃ、明日食べるものすらないんだから。落水や転覆の恐怖を克服しなきゃ。そのためには、どうすればいいんだろう?)




