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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
六章 たそがれにさく
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1話 喧噪を斬る

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

 日が暮れ、人気が少しずつなくなっていく時間。黄昏(たそがれ)どきはさまざまな気持ちを思い起こす。

 空の様子にさびしいと感じるもの、夕陽の美しさに心奪われるもの、億劫(おっくう)な仕事から解放され、(あん)()の息を吐くもの。

 一日の終わりを迎え、明日もいい日であれ、と祈るものもいるだろう。

 だがそこに人ならざるモノが姿を見せた時、人は誰しも恐怖と絶望を抱くしかない。

 自身の姿を闇に隠したまま、人を喰らい、恐怖を植えつけ、己の勢力を拡大する。

 もし人々の(いこ)いの場である公園に、そんな化け物が現れたら。一体何人が、対処するすべを持っているだろうか。

 池から巨大な水しぶきを上げ、大蛇が姿を現した。胴の太さは数百年も経た巨木のよう、全長はうかがい知れないが、二階建ての家は軽く越える。

 大蛇は首をもたげ、()(かく)の黒い球を吐いた。球は弾け、強力な酸が、橋を橋桁(はしげた)ごと溶かす。

 さながら孤島と化した橋の上に、蓮華の姿があった。孤立したところを()みこもうと、大蛇がつっこむ。

 しかし(みずち)の突進は無駄だった。彼女は崩れ去った橋からすでに空間転移し、その頭上に矢を放っていた。

「カタナ、まかせた!」

 頭に刺さった矢を落とそうともがきながら、魔は池の中に潜りはじめる。瞬間、一陣の風が池を一直線に割った。底がのぞけるほどの水が弾き飛ばされ、蛟の隠れる場所はどこにもない。

 風の起きた方向には黒鉄の髪の女性が、刃先の欠けた打刀をかまえていた。

 蛟は黒髪の女性――楠木刀へ突撃する。酸の球を吐き、自分の逃げ道を確保しながら、雄叫びを上げた。

 刀はただ、持っていた得物を振り下ろした。弾けた黒い酸が蛇の頭に直撃、のたうつ(じゃ)(ばら)を風の刃が切り刻む。

 消滅するまぎわ、彼は見たかもしれない。()(もの)(たずさ)えたまま、平然と最期を看取る彼女の姿を。


 魔の消滅を確認し、刀は背中のロッドケースに武器を納める。

 蓮華が近付くのを認め、息を吐く。それが彼女の戦闘終了の合図だ。

「お疲れ、蓮華」

 彼女は満面の笑みで親指を立てた。

 戦闘中はどちらかといえば無表情に近いが、普段は表情豊かな人物だ。彼女なりのスイッチの切り替えがあるらしい。

 共に過ごして一ヶ月、彼女に関してさまざまなことが分かってきた。

 刀は少々自分に自信がない。ただし自分への優先順位が低い以外、十分、コミュニケーションがとれる。なににでも興味を示し、子どものように喜怒哀楽を顔に出す。コンプレックスなども人並みに持ちあわせた、どこにでもいる人間だ。

 例えば同年代の女性とくらべると、彼女は自分のがっちりした肩や足腰が気になるようだ。着る服も男物が多いため、すらりと伸びたモデル体形にあこがれを持っている。

 アメリカ人のクォーターである蓮華から見れば、彼女の黒髪がうらやましく思えるのだが、〝蓮華のサラサラ金髪のほうが綺麗〟、とは刀の弁。

 これが共に任務をこなし、生活した一ヶ月で、分かってきた彼女の姿だ。

 だが、それは蓮華と近しい人間が知るのみだ。他の同僚や上司にこの話を伝えたところで、それが一体なにになると言われかねない。刀本来の姿はともかく、彼女は自身に眠る黒鬼によって、人を斬り殺した。その事実は(くつがえ)しようがないからだ。

「お疲れ、見事な太刀筋だったわ。怪我はない?」

「うん、無傷。蓮華こそ大丈夫? 上着に穴が……」

 刀が指摘したとおり、蓮華のジャケットには十センチほどの穴が空いていた。飛び散った酸がかかったのだろう。思わずああ、と顔をしかめた。

「防御の呪符の効果が切れてたみたいね。また買いかえか」

「呪符? あの、あたしが訓練所にいた時に使われてた、あれ?」

「まあそんなものね。貼りかえるの忘れてたわ。怪我はないし、大丈夫」

「いや、湿(しっ)()かえるみたく、軽く言うのどうなの……」

 ジャケットの裏につけていた呪符をはがす。はがした瞬間から風化が始まり、手元にはなにも残らない。

 これは海堂の作った(ふだ)の一枚だ。彼から呪符をもらった当初は不要だと突っぱねたのだが、防御の符は地味に便利で、結界を張らずとも一定のダメージを無視することができた。

 しかし、効果はいつか切れる。なるべく安いジャケットを選んでいるのだが、それでも新品を買うとなると痛い出費だ。

「それより魔との戦闘、ずいぶん慣れたみたいね。貴女の剣術が魔に通用するのは毎度驚かされるわ」

「あはは、それは自分でも不思議。けど暴発させまくってた前より、自分のものにできてきたのもあるのかも」

 蓮華の師匠であるアドルフのおかげで、刀は剣気を段階的に使い分けるまでに成長した。

 また、以前はうまくとれなかった(れん)(けい)も、周りに目を配るくせがつき、合図にもしっかり反応する。

 この様子なら、肩の荷を少し下ろしてもよいかもしれない。一年ぶりの現場復帰で、大役をまかされたと気負った蓮華も、そう思いはじめていた。

「確かに、おかげで魔との戦闘がずいぶん楽だわ。でも、油断はしないことよ。人間、慣れたころが一番危ないから」

「うう、はい。気を付けます」

 刀は全身を縮こませ、何度もうなずいた。

「よろしい。それじゃ、これ貴女にわたしておくわ」

「なにこれ、お金?」

 蓮華はジャケットの懐から、紙の束を刀に手渡した。確かに十万円ほどの札束に見えなくもないが、色のついた和紙にひとつひとつ、なんらかの文字が記されている。陰陽道にもとづいた事柄が書かれているそうだが、詳細は不明だ。海堂に改めて(たず)ねれば、説明してくれるだろう。

「呪符の一式セット。前の相方からもらったんだけど、あまってるから貴女にあげるわ。緑は治癒の符、茶色は防御の符、あと赤いのは火炎の符だったか。貼りつけるか投げれば効果は発揮するから、貴女でも使える」

「あ、ありがと。こういうのあるといいなって思ってたんだ」

 刀は照れくさそうに表情筋をゆるめ、大事そうに上着の内ポケットへしまいこんだ。

「そろそろ引きあげましょう。(じょう)(てい)()がもうすぐ来るわ」

「りょうかーい」

 夕陽が完全に落ちる。人々がいつも眺める、平穏な世界の光景だ。

 明日も何気ない、こんな日が続けばいい。がらにもなく、蓮華はそう思った。


後半戦スタートです。たとえて言えば、エヴァ破でいうと四号機消滅あたりです。どうぞよろしくお願いいたします。

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