1話 狂う調子
本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。
※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。
※章ごとに話数を分けて投稿しています。
日はとっくに暮れ、街灯の明かりが夜に色を添えている。外を見やれば、帰路へ着く人々の姿がある。
蓮華は背を大きく伸ばした。
管理官への任務完了の報告書と、あわせて刀の監視報告書の二つを書かねばならず、想像以上に時間がかかった。
前者はともかく、後者は退魔二課でも報告書を上げる案件である。戦闘詳細をはぶく誘惑に駆られながら、所見を述べた報告書を提出した。
それまで、刀は隣の席でじっと待っていた。周りの局員の目が怖いのか、今にも机の下に隠れそうなほど、身を縮ませている。
「帰るわよ、カタナ」
「う、うん……」
刀は席から立ち上がった。が、蓮華の顔をうかがい、視線を上げては下げるを繰り返す。
「なに? なにか分からないことでもあった?」
「ううん、そうじゃないんだけど……」
曖昧な物言いだ。先の戦闘とは打って変わり、刀は悪事を働いた子どものように、視線を天井に泳がせる。
「言いたいことがあるならはっきりしなさい。こっちが気になるわ」
「あ、はい……。あの、その、恥ずかしい話、今着てる服以外に服がなくてですね」
「――は?」
想定外の話に、蓮華の思考が止まった。
「だ、だからっ! 昨日と! 今日の服は一緒なの!!」
刀は顔を真っ赤に染め、身に着けている黒のタートルネックと黒のジーンズを指差した。
ただ単に、服を選ぶ時間がなかったからと思っていたのだが、それ以前の問題だ。
「訓練所出る時に支給されたのがこれだけだったから他に持ってなくて、だからごめん! 買い物についてきてくれるとありがたいなって! し、支度金はもらってるから!」
彼女は早口でまくし立て、ジーンズのポケットから白い封筒を取りだした。支度金にしては封筒はあまりにも薄く、ずっとポケットに入れていたのか、ぐちゃぐちゃだった。
「――はあ、それなら早く言いなさい。つきあうから。あと、それじゃまともに買えないわよ。ツケておくから、この際必要なもの全部買っておきましょ」
「いや、別にそこまでは」
「来月返してもらえばいいから。ほら、さっさと行くわよ」
蓮華は彼女の首根っこをつかみ、局をはなれた。すぐさま近くのアパレルショップに刀を放りこんだのは言うまでもない。




