4話 刀の異常性
対異総合管理局には、局員専用の病院が併設されている。仕事柄、他の病院と連携することが難しいからだ。
ここでは、任務遂行中に怪我した局員を、あちこちに見かける。入院患者同士で会話を楽しむ者もいるが、蓮華はこういった雰囲気が苦手だった。
医者になれば不特定多数の人と話すのだから、慣れるべきなのだろうが。
幸運にも、目的の人物は呼びだしをかけて、五分も経たぬうちにやってきた。いつものにこにこ笑顔だ。
「蓮華さん、急に呼びだして何事ですか? 楠木さんはどうわっ」
海堂のネクタイをつかみ、そのまま身体を引き寄せる。あまりにも思いきり引っ張ったため、少し彼との距離が近すぎる気もしたが、かまっていられない。
「カタナならそこの受付に待たせてるわ。それよりちょっと話」
「はぁ、手短に願えますか。まだこっちの仕事終わってませんので」
「カタナの訓練所での指導内容がどんなものだったか、探り入れられる?」
「? どうしてまた」
海堂はネクタイを直しながら、怪訝な顔をする。
「彼女の戦いっぷりは異常だわ。木刀を持った時とは全然違う」
「というと?」
「心身が戦闘に特化しすぎてるのよ。兵器かなにかにするつもりか知らないけれど、もしこれが局の育成方針なら、カタナに対する脅威を煽ってるだけだわ」
刀と内に眠る黒鬼を恐れるのであれば、適度な訓練だけですませておくこともできたはずだ。
「蓮華さん、それは考えすぎではありませんか? あそこでは、訓練生は真剣や模造刀を使いません。この事態は誰も想定しなかったのでは?」
確かに手合わせした際は、退魔一課の人間と比較して普通だと、蓮華も判断した。
いくら実家の剣術を覚えているからといえ、持つ武器で性格が一変すると誰が予想できただろうか。訓練所の教官たちも同じではないか。
海堂の指摘はもっともで、言い返すほどの意見が思いつかない。
「だといいんだけれど、今日はいろいろあって疑心暗鬼になりそうよ。技術二課に頼んでた武器は中途半端な作りだったし、退魔二課の監視はついたし、どうも局は黒鬼の排除にかたむいているようで。言ってることとやってることが矛盾してる」
「表面上はまとまってはいますが、管理官たちの意見はおそらく二分しています。それぞれが黒鬼の件に絡もうとしているんでしょう。主に新田管理官と白沢管理官ですが」
「……やっぱりそれか」
思わずため息が漏れる。新田は蓮華が休職する前まで、退魔一課の管理官たちのトップに立っていた。
課長や部長クラスの人間とも親しいらしく、重要な任務の指揮はほとんど彼が執っていた。ただ人脈作りはともかく、事件への対応力はお世辞にもあるとは言えなかった。
だが、今は白沢の政治力と統率力に、新田が押されている。彼女になびいた新田派の管理官たちも多いはずだ。
「もし楠木さん絡みの妨害が続くようなら、どちらかの派閥を味方につけたほうがよいかもしれませんね」
「権力争いに加担する気はないわ、めんどうくさい」
手駒に使われるまねは、死んでも願いさげだ。局に強制的に縛られているというのに、さらなる束縛は得にもならない。
海堂もそれを知っている。
「蓮華さんはそうおっしゃると思いました。いちおう、楠木さんの育成方針がどうだったか探ってみます」
「ありがと、頼んだわ」
すぐさま受付にとって返す。
気付かれぬようそっとのぞいてみると、刀は近くの棚におかれていた雑誌を読んで待っていた。




