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明け星学園  作者: 秋野凛花
1-13「星々は再び煌めく」
97/534

分かりきったことを

 ──


「──!」


 急激に戻る意識に、酔いそうになる。いや、何より、これは……。

 頬を何かが伝う。それは、涙だった。


「……?」


 分からない。どうして私は泣いているのか。何か、今の一瞬の間に、夢を見ていた気がする。忘れたくなかった。忘れたらいけない。それでも、思い出せない……そんな……。

 首を絞められる痛みも、苦しさも、今は不思議と気にならない。ただ胸を打つ、名もない悲しみが、私を覆っていた。


 だがずっとそれに気を取られるわけにもいかない。今目の前に、理事長である百目鬼ももめきれいがいる。彼が私の首を絞めている。……このままでは死ぬのだ。

 考えろ、冷静に、今この状況を、打開する策を……。



小鳥遊たかなしくんに連絡するつもりかい?』

『無駄だ、この手袋には、異能力を打ち消す効力がある。異能力妨害室と同じ技術だ。……この手袋が覆っている範囲にしか効力は無いが、今の君には、これで十分だ』



 ……あ。


 ふと私の脳内を、1つの思考が掠めた。もしかして、という可能性だ。……だが私の中では、それはもはや確信に近づいていた。

 それが本当だとすると……早く行動に移さなければならない。


 考えたのは、きっとほんの1秒に過ぎない。しかし突如として冷静になったことで、ある1つの打開策を導き出すことが出来た。

 ……なんだか頭もすっきりしている。夢を見ていたせいか。……夢を見ていたかすら、分からないのだが。まあそれはいいとして。


 だから私は、異能力を使う。……彼には気づかれないよう、こっそりと。


「……そろそろ死んでもいい頃じゃないのかい?」

「……」

「……意外としぶといんだな、君は」


 それはどうも。その声は、喉を塞がれていて出ないけれど。


 代わりに微笑んで、返事代わりにする。


 すると理事長先生の眉が、ぴくりと動いた。苛立たし気に私を睨みつけると、更に首を絞める力を強くする。強く強く。……先程まで片手だけだったのが、両手に変えて。


「……ぐっ、」


 息が、苦しい。冷や汗が流れて、今度は苦しさから目尻に涙が浮かんで。……でも、諦めない。

 ただ淡々と、異能力を使い続ける。


「……?」


 流石に理事長先生も、私がやけに余裕気なことに、疑問を持ったのだろう。訝しげな表情を浮かべる。私は……ただ、微笑み続けた。


「……何故、そこまで笑っていられる? 言え」


 そう言うと理事長先生は、私の体を微かに揺らす。そして喋らそうと思ったのか、喉を絞める手の力を弱めた。……いつでも私の命は、刈り取ることが出来る立場にある。だから弱めても平気……ということか。

 手の隙間から、私は呼吸をする。久しぶりに吸った酸素は()()()()()、美味しくなかった。


「……何故……? そんな、分かりきったことを……」


 しっかり前を見据える。鋭い瞳で、余裕気に、言ってやる。



「貴方は私に勝てないからです」



 遂に理事長先生の額に、青筋が浮かぶ。私のような小娘の全力の煽りの言葉に、苛ついている。それはとても滑稽な光景だと言わざるを得ない。

 だがそんな私の思考も、首を持たれ、再び激しく壁に打ち付けられると、流石にぼやけてくる。普通に頭を打って、視界がぐらぐらしていた。


「……くっ……」

「……あまり大口を叩くなよ。君の命は今、私の手の内にあるんだ……。君のような、異能力の扱いにも長けていない弱小者が、私のような大きな闇に敵うと思うなよ!!」


 怒りに身を任せ、私に向けた侮辱の言葉を吐く理事長先生。

 ……台詞が、中学2年生の何故かカッコいいと思っている台詞そのままだ。全く怖くもなんともない。叫んだことで飛んできた唾が汚いな、と思うが、そこはもう少しの辛抱だ。


 もっと息を吸え。怒れ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……最期にもう一度問う。……私の計画に、協力する気は?」

「……何度でも言います。ありません。これっぽっちも」


 というか、ここまで煽られて、今更同じ計画を共に成し遂げられるとでも思っているのだろうか、この人は。

 私の心の中で言ったツッコミは、もちろん回収されない。理事長先生は顔を怒りで真っ赤にしたまま、笑い。


「なら、今度こそ──死ね」


 そして、再び首がきつく絞められ──。

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