嫌でも納得してしまう
「……」
邪魔にならないところで立ち尽くす私を見る人は、誰もいない。正確には、気にすることなく、通り過ぎてしまう。……だから私は、立ち止まり続ける。
得られた情報も、「聖先輩は何か事件に関わっているらしい」。その確信だけだ。あんなに時間はあったのに。私は何も出来ていない。
元々自分に自信があったわけじゃない。でも、もっと……何か、出来ることがあったんじゃないか。
そう、思ってしまう。
……こんな面倒な事件に巻き込まれて、本当は、今すぐ投げ出してしまいたいのに。
頭の片隅では、分かっているのに。立ち止まるこの時間こそ、無駄なのだと。
……迷うくらいなら、やるべきだ、と。
すぅ、と、ゆっくり息を吸う。そして、長く息を、吐き出して。
そうすると、もやもやしていた思考が、すっきりと澄んでいくようだった。
……反省をするのはいいことだ。でも、それで立ち止まってばかりでは意味がない。動かなければ。
私に出来ることを、するために。
「あっ、灯子ちゃん!」
そこで前から良く通る声が聞こえてきた。顔を上げると、そこには……。
「今授業ない感じ? お疲れ様ー」
「閃~、転校生にももう手出したの? 早くない~?」
「さっすが閃、イケメン~」
「そんなんじゃねぇって!! ただのコーハイだよ。……ねっ、灯子ちゃん!」
「…………………………」
先日の体育祭以来の、雷電先輩。そして、彼の腕や腰に手を回す、女子生徒たちだった。
もはや条件反射で私は後退る。何と言うか、こう、リアルハーレムを見せつけられると、少し、引いてしまう……。
「……脳味噌下半身……」
「だから違うって!? 糸凌の言葉を鵜呑みにしないで!?」
「いや……正直……この光景を見て納得したというか……」
「納得しないでーーーー!!!!」
悲痛なまでの雷電先輩の叫び声で、私はその発言を信じてあげることにした。……正直、女子生徒2人を当たり前のような顔で侍らせている時点で、ちょっと距離を取りたくなってしまうけれど。
ちなみにその女子生徒2人は落ち込む雷電先輩を励ますことなく、ただゲラゲラ笑っている。この状況を楽しんでいるらしい。……この人たちにとって、雷電先輩って何なのだろう……。
ちょっと話がややこしくなるから、お前らはどっか行った!! と雷電先輩が女子生徒2人を追い払う。分かったー。閃ー、またねー、ばいばーい。と、2人はあっさり離れていった。……やはりよく分からない距離感だ。
「……あの2人は?」
「ん? よく遊んでる友達」
「……好きとかではなく?」
「まあ、付き合ってた時期はあったかな」
「……」
今は違う、ということだろう。後腐れなく、こうして距離が近いままいられるとは……私とは、まるで別世界だ。
「で、俺に何か話?」
「え?」
「あ、違った? 何かそんな予感して」
「……」
どんな予感だよ……とは正直思ったが、話があるし、探していたのも事実だ。小さく頷いておいて、それから私は口を開いた。
「……先日の件の、話を聞きたくて」
「……あー」
私の、その言葉だけで、何のことか思い至ったらしい。雷電先輩は、気まずそうな笑みを浮かべた。……あまり聞いてほしくなさそうだ。だが、それに配慮するほど私は優しくない。
「……当時のことで、何か覚えていることはありますか?」
「うーん……正直、記憶は曖昧なんだよね。……なんか、意識が遠のくような感覚がして……嫌な予感がしたから……」
直近の記憶が曖昧、というのは、持木くんも言っていたことだ。そんな中、雷電先輩は、頑張って記憶を辿ってくれているらしい。彼は少し私から視線を外し、静かな声で言った。
「……逃げろって、糸凌を突き飛ばしたことは、鮮明に覚えてる」
「……」
暴走する雷電先輩を前に、呆然としていた墓前先輩を思い出す。そして、大事な友人を助けることを、私に任せてくれた。
真顔で、でも、自分には何も出来ないという歯がゆさを、抱えながら。
……。
「墓前先輩、馬鹿だな、って言ってましたよ」
「何で!?!?!?!?!?」
「でも、馬鹿でも俺の友達なんだって」
私が続けて言うと、雷電先輩は黙る。そして、照れたように頬を掻いていた。
「そして、貴方を助けるのを、私に頼みました」
「……うん。灯子ちゃんと戦ったことも、なんとなく覚えてる」
君と戦いたがっている人に嫉妬されて大変だよ、なんて雷電先輩は笑う。その表情は大変そう、というより、気まずさを誤魔化しているようだったけど。
「……怪我したんでしょ? ごめんね?」
「いえ、仕方ないことですから、気にしないでください。……それに、雷電先輩の方が、私より怪我してたじゃないですか」
私の起こした大爆発のせいで。
そうだけど、と雷電先輩は言ってから……何故か、私の手を、優しい手つきで取った。
「それでも、君は女の子なんだから。……肌は大事にしないと」
「……」
何となく、悟る。
この人がモテているのは、恐らくこのような言動のせいだ、と。
「……別に、女とか男とか、性別は関係ないと思いますけど」
「そうだけど~、俺が言いたいのは、君に怪我をさせたのが申し訳ないってい……いっでぇ!?」
雷電先輩のセリフが途中で切られ、そして、目の前から消える。何だ、と自分の手から顔を上げると、そこにいたのは……。




