生徒会長の機嫌取り
……というわけで、今日も私は、言葉ちゃんのところへ向かっていた。別に呼ばれてはいないが……ないのだが……。まあ、もはや習慣だ。
その後は特に話しかけられることもなく、スムーズに生徒会室に辿り着く。扉をノックすると、どーぞ、とすぐに声が返って来た。……だから私は、失礼します、と扉を開けた。
「言葉ちゃん」
「……ああ、とーこちゃんか。いらっしゃい」
中に入って私が彼女の名前を呼ぶと、言葉ちゃんは一瞬顔を上げた後……すぐに、興味を失ったように持っている書類に目を戻してしまう。……その顔は、今さっき聞いた声の如く、機嫌が悪そうだった。
……正直、話したくない、が。
「……まだ、機嫌悪いんですか?」
「……別に悪くねーし」
いや、その顔で、その声色で、それは無理があるというものだろう。私は思わずため息を吐いた。
というのも、体育祭の日、あの二人三脚の後……言葉ちゃんは聖偲歌先輩、そして、瀬尾風澄先輩との接触に、成功したらしい。そこで言葉ちゃんは、二人を追い詰めることに成功したと。……が、問題はそこから。雷電先輩の雷、そして私が彼を止める際に起こした大爆発の光や衝撃に怯んだ一瞬の隙を突かれ、逃げられてしまったらしい。そのせいで、言葉ちゃんはここ数日機嫌が悪い。とても悪い。私より年上なんだから、自分の機嫌くらい自分でコントロールしてほしい。
その後2人に接触することも出来ず、そして言葉ちゃんの業務がたまる一方。……大半は風紀委員会から投げられた書類らしい。見事に嫌がらせをされているようだ。可哀想に。手伝おうか、とも思ったし、そう言ったが、いい、と短く返された。……一体何を意地になっているのか。
「……別にここにいても君がやることないし、どっか行っててもいいよ」
「……そうは言われても……」
特にすることも見当たらない。まあ事件の調査を進めればいいんだろうけど。何度だって言うが、私が役に立てる気がしない。
それに……はあ、言いたくないが。
「……私のことを見せろと言ったのは貴方です。私は、貴方といます」
その発言に、言葉ちゃんの手が止まった。そして、ゆっくり顔を上げた。その表情は、驚愕……それ一択だった。
「……驚いた」
「……何がですか」
「君がそんな真っ直ぐ言ってくるとは……」
「……誰が言わせてるんですか……」
散々私はこの人を、「恥ずかしい人」だなんて言ったが……私も大差ないかもしれない。だから私は、彼女から目を逸らした。
「……そっか……でも……ううん、いや……うん……」
私の発言に、彼女なりに何かを考えてくれたらしい。先程までの刺々しい雰囲気はどこかにいって、俯いて、真面目な表情で悩み、言葉を探している。私は顔を上げ、その口から出る言葉を待った。
やがて彼女の深紅の瞳が私を捉える。そして口を開いた。少し、申し訳なさそうに。
「……でも、やっぱ……君には、生徒会の仕事はやらせてあげられない。一応これは、僕の仕事だし……君は一般生徒だし……」
「……そうですか」
「だから……もう1回、事件に関わった人たちのところ、回ってきてくれる? もしかしたら、思い出したこととか……新しい発見とかが、あるかもしれないから」
「……分かりました」
そこまではっきり、機嫌が悪いわけでもなく、冷静に言われたら……反論する余地はない。大人しく引き下がることにした。……とりあえず機嫌の悪さが治っただけ、良しとしよう。
言われた通り、事件の調査でもするか、と踵を返した瞬間、それと、と呼び止められた。まだ何かあるのか、と振り返ると、目に映ったのは……少しきまりの悪そうな、微笑。
「……灯子ちゃんに当たっちゃって、ごめんね」
……別に当たられたとは感じていないが。私は微笑みを返すわけでもなく、ただ冷静に、小さく口を開く。
「……自分の機嫌くらい、自分で取ってください」
そして、それと、と付け足すのは、今度はこちらの番だった。
「……特に、聖先輩や瀬尾先輩の前では」
そう言うと、言葉ちゃんは気まずそうに苦笑いを浮かべる。確かに、君が正しい。言葉ちゃんのその発言を聞き届けて、私は今度こそ生徒会室を後にした。
というわけで、私は事件に関わった人を探すことになった。……まだこの学園にいるだろうか……。ええっと、事件に関わった人を整理すると……。
まず、持木兄妹。最初に異能力を暴走させた持木帆紫くんと、その妹であり私の友人の、持木心音──通称ココちゃんだ。
2人はいつも一緒に帰っているから、もし片方がいれば、もう片方もいると考えていいだろう。
次に、先日の体育祭で異能力を暴走させた雷電閃先輩、そして彼の友人であり、一度私と共に事件調査をしてくれた自称オカルト少女、墓前糸凌先輩。
墓前先輩は別館に住んでいるという話だし、そっちを探せばいい。でも雷電先輩は……学園内では一度も会ったことがないから、どこにいるか分からない。まあ、適当に探してみるか。
……あとは……。
「……聖先輩と、瀬尾先輩」
廊下の端、立ち止まって、私はそう呟く。
私はもう、2人とは結構会って話した。恐らく言葉ちゃんよりも言葉を交わしているだろう。……でも、1回目は瀬尾先輩に弾き飛ばされた。2回目は、聖先輩の異能力で動けなくなった。
……私は、あの2人の異能力を前に、成す術もなかった。
そんな私が、また2人に会ったとして……一体何が出来るというのだろう。




