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明け星学園  作者: 秋野凛花
1-9「生じた変化と変わらぬ秘め事」
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面倒事回避のため

 私は明け星学園の廊下を1人、歩いていた。次の授業に向かう生徒、今日の授業はもう全て終わったのか、帰っていく生徒、異能力をぶつけ合い、戦う生徒……今日もこの学園はにぎやかだ。

 前ならば私は、その誰からも見つめられたことだろう。それの何と肩身の狭いことだったか。しかし、今は違う。もう私はこの学園に溶け込んできたらしい。こうして廊下を歩いていても、奇異の目を向けられることは無くなった。

 ……まあ、別の意味の視線を向けられることは、多くなったが……。



伊勢美いせみ灯子とうこ!!」



 私の前に、誰かが立ち塞がる。()()()()()、と思いながら……私は、ゆっくり顔を上げた。今目の前に鏡があるとしたら、そこには大層嫌そうな顔をした私が映っていることだろう。

 そこにいるのは、私が名前も知らない……上級生か同級生なのかも知らない……とにかく知らない女子生徒が立っている。ただ1つ分かるのは、その期待に満ち溢れた、爛々と輝いた瞳。……こちらに何を期待しているかは、明白だ。


「私と戦いなさい!!」


 正々堂々。そんな言葉が似合う凛々しい態度。目立つことが嫌いな私と違い、白昼堂々とそんな台詞が吐けるだなんて、何と言うか、感心してしまう。

 案の定、周りから視線が集まる。授業に行こうとしていた生徒も、帰ろうとしていた生徒も、別の所で戦っていたはずの生徒も、気づけば足を止め、こちらを興味津々に見つめている。……相変わらず、私は目立つことが嫌いだ。だが、目立つことに慣れてしまった自分もいるのが、悔しいような気がしないでもない。

 私はこっそり小さくため息を吐き、その女子生徒を見据える。そして、口を開いて。


「……すみません。私、生徒会長に呼ばれているもので。急がないといけないので」

「はぁ!?」


 では、と彼女の横を通り過ぎようとしたところで、もう一度前に立ち塞がれる。仕方なく、再び足を止めた。


「貴方、先週もそんなこと言って戦闘を50回以上断ってなかった!?」

「……すみません。常に呼ばれているんです」

「そんなことある!?!?!?」


 ……そのツッコミはもっともだ。確かに私はこの()()()を、もう何回も使っている。……この面倒な戦いから、回避するために。





 そう、私は、奇異の目で見られることはほとんどなくなった。

 だがその代わり。……今度は、「強者を狙う目」を向かられるようになった。


 というのも、私は今この学園で起こっている……「異能力者が自分の意思と関係なく暴走してしまう」、という事件の、被害の阻止役に、2回も徹してしまっている。転校してからわずか2ヵ月ほど……という短時間で。

 一応、事件の概要──誰かが異能力者を意図的に暴走させているという事実──は隠しているが、何かマズいことが起こっている、ということは、誰もが大方察しているのだろう。……この前の体育祭でも、先輩である雷電らいでんせん先輩が暴走して、体育祭は延期に追い込まれた。……もちろんそれを諌めたのも、私で。


 私は周りから、「事件を諌めたすごい奴」という認識がされたようだ。それと同時に……私がどれほど強い異能力者なのか。それを見たがる人、試したがる人が増えたと……そういうわけだ。


 それに困惑し、更に面倒くさがった私を見かねたこの学園の生徒会長……小鳥遊たかなし言葉ことはが、こう言ってくれたのだ。


 ──常に僕に呼ばれてることにして、断ってもいいよ。


 ……確かに、この学園で生徒会長の言うことは、「絶対」だ。別にそんなルールは無いが、そんな空気がある。それに私たちは、1日のほとんどの行動を共にしている。……呼ばれている、というのも、大差ないかもしれないが。

 いいんですか? と聞き返したら、いいよ。と彼女は頷き。


「確かにこの学園で、戦闘は推奨されている。でも強制じゃないからね。楽に断れるなら、その方がいいでしょ? ……でも、断るなら誠意をもって断ること。そして、もし挑戦を受けよう、って気になったら、全力で戦うこと」


 そう、微笑んで告げた。


 もちろん私が戦いたがることなんてないだろうし、これからも戦いを面倒くさがるだろう。これはきっと、根比べで。私が何度も断り続けたら、暖簾に腕押し状態だ。周りも段々勝負を仕掛けることが面倒になってくるだろう。……その状態が来るまで、長くなるだろうが、それまでの辛抱だ。……。

 だが、この生徒の言う通り、もう何十回も戦闘を仕掛けられている。……面倒で、私が先に折れてしまいそうだ……。もちろん分かっている。私が異能を発動したらどうなるか。怒られるどころでは済まないし、そこまで異能の扱いが上手くないから、どう転ぶか分からない。受けてしまった方が面倒なことばかりなのだ。だからここは、我慢。

 そう言い聞かせることに、している。





「……そういうわけで、申し訳ありませんが、もう行きます」

「……まあ、生徒会長に呼ばれているというのが本当なら……仕方ないわね……」

「……すみません」


 いくら用意した理由があるとはいえ、断るにもエネルギーを使う。何とも言えない雰囲気に我慢がならず謝ると、謝らなくていいわよ、と女子生徒に笑われた。根はいい人であるようだ。

 私はその場を後にする。私が戦わないと分かると、周りの人も元の場所に散っていく。……本当に、何と言うか……分かりやすい。

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