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明け星学園  作者: 秋野凛花
蛇足
533/534

Angel

「生徒会長、いないんですか?」


 俺──墓前はかまえ糸凌しりょうはそう言いつつ、生徒会室の扉を開けた。というのも、ノックをしてもあの生徒会長──小鳥遊たかなし言葉ことはからの返事がなかったからである。


 今回俺は、オカルト同好会の年間予定表と、予算案を提出するため……一応こうしてここまで、生徒会長の所まで赴いたのだ。正直、全く行きたくはなかった。だってあんな……怖い守護霊がいる人のところになんて……。

 ……だが、あの生徒会長の権限のお陰で、俺が好きにオカルト少女になって、オカルト同好会を存続出来ているのも、紛れもない事実。必要最低限の義理は果たしたかった。


 というわけで俺は、返事がないのをいいことに生徒会室に入る。そこで見たのは……。


「…………ゲッ」


 ……扉を開いて真正面にある、いかにも「一番偉い人が座ります」といったような立派な椅子。そこに座り、これまた立派な机に突っ伏して寝る、小鳥遊言葉生徒会長の姿だった。すやすやと、心地良さそうに寝息を立てている。……いや、問題はそこではなくて。


『何ですかぁ!! こんなベリーキュートな女の子に「ゲッ」などと言うだなんて!! ほんっと、私に実体があったらボッコボコにしてやんよ!! って感じですぅ!!』


 ……問題は、生徒会長の背後でやかましくそう叫ぶ、腹黒守護神の方だった。


 だから俺はすぐに回れ右をしようとする。が、それより早く、待ってくださぁい、と声が届いた。いともたやすく、俺はその声に負けてしまい……帰ることが出来ないまま、腹黒守護神の方を見る。


「……何ですか」

『貴方、私のこと見えてますよねぇ?』

「……見えてるから、腹黒なんて呼び方してるんですよ」

『こんなベリーキュートな大天使である私のどこが腹黒なんですかぁ!!』


 自分でベリーキュートとか言うか、と思いながら、俺は適当に相槌を打つ。


 ……確かにこの守護神、頭には天使の輪っか、背中には羽が付いている。恐らく、本当に天使なんだろう。俺が今まで見てきた守護神の中で、一番神聖力が強い。あの生徒会長の呼び方、「天使生徒会長」でも良かったのだが、なんかキモいのでやめた。


『まあそれはともかくぅ……私、貴方には前々から興味があったんですよねぇ。私が言葉のところにやって来てから、他の人と話せるなんて……そんなこと、一度もありませんでしたからぁ』

「……探せば他にもいると思いますけどね」

『私は言葉から離れられない、というか離れる気がないので、無理ですぅ♡』


 それはそうだ。守護神なのだから。


 俺は一回ため息を吐いて、で、何か用ですか、と尋ねる。


『つれないですねぇ、ちょっと話し相手になってくれたっていいじゃないですかぁ』

「それだと俺が、寝てる会長に話しかけてるヤバいやつになるんだよ……!」

『え、元々貴方、ヤバいやつ扱いされてるじゃないですかぁ。何か問題でも?』

「…………………………」


 確かにされてるし、もう気にしていないが、帰らせてほしかった。それに、会長に変な気でもあると思われたらたまったもんじゃなかった。

 だがこの神聖力から、俺は本能というか、体質というか、そういうもののせいで逃げられないのだ。勘弁してほしい。


「……手短に済ませてください」

『まあ言うて話したいこともないんですけどねぇ』

「帰っていいですか」

『じゃあ、1個だけ!』


 そう言って腹黒守護神は、陽気に人差し指を立てる。その指をくるりと回し、満面の笑みになって。


『もうすぐ、この明け星学園をまるっと変えちゃうような子が来ますぅ!』

「……?」

『その子は、いい方向にも悪い方向にも向かわせかねません〜。……そして貴方のことも、ちょっと変えちゃうかもしれませんね』

「……何を根拠に……」


 天使だから分かるのだろうか。そんな半分冗談のような、本気のようなことを考えていると、守護神は、うーん、と呟き。


『勘ですぅ!!』

「勘かよ!!!!」


 思わず全力でツッコミを入れてしまった。静かにしてくださぁい!! 言葉が起きるでしょぉ!? と腹黒守護神に怒られる。解せぬ。


『まあ勘というものは今までの経験により導き出されることが多いので、あながち間違いでもないと思いますぅ』

「急に真面目だな」

『まっ、気にしないでもいいですよぉ。いち天使の戯言だと思ってくださればぁ』


 腹黒守護神は、飄々と笑う。本当にこいつ、天使なのだろうか。生徒会長に瓜二つの、この天使は。


『何にせよ、流れが変わりますよぉ。そんな感じがしますぅ』

「……勘?」

『勘ですぅ』

「あっそ……」


 俺はため息を吐く。なんかもう、話すのに疲れた……。


 そう思っていると、会長が、んん、と小さく呻いた。そのことに、俺も守護神も、肩を震わす。


『さっき貴方が叫ぶからですぅ!』

「叫ばせたのはお前だろ……!」

『何ですかぁ大天使に向かって!!!! ……じゃあ最後に!!』


 守護神は、やけに真剣な表情で、告げる。



『言葉を愛して、守ってあげてくださぁい! 頼みますよ!』



「……」


 ……いや、それは……守護神であるお前の役目なんじゃ……。


 そう言おうとした、が、それより早く、会長が目を覚ました。長い睫毛を震わせ、深紅の瞳が、俺を見据える。


「……お目覚めですか、会長」

「…………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 すると会長は椅子から転げ落ち、ひっくり返って。流石の生徒会長は、目覚め方も一流らしい。


「何人の寝顔拝んでんだこの、変態っ!!!!」

「変態じゃないオカルト少女だ!!!!」

「変わんねぇだろこの変質女装野郎!!!!」

「んだとテメェ表出ろ!!!!」


 とは言ったが、俺が負けるのは目に見えている。これはすぐに撤回した。


「で……何の用?」

「……同好会の年間予定表と予算案、提出しに来た」

「ああ……どーも。お疲れ」


 俺の手から書類を受け取る生徒会長。その目の下には、珍しくくっきりと、隈が。そして彼女が突っ伏していたそこには、見慣れない書類が。


「……お疲れだな」

「あー、なんか……急遽転校生が来ることになったみたいでさぁ」

「転校生? 今4月だぞ、それに……一応エリート校って言われてるこの学園に、転校生なんて……前代未聞だな」

「そー……。だから上も僕もてんやわんやしてるってわけ」

「へぇ……」


 会長の隈の理由を悟ると同時、俺の脳裏に蘇るのは。



『もうすぐ、この明け星学園をまるっと変えちゃうような子が来ますぅ!』



 そうなのか? と思い、俺が会長から、少しだけ視線を上げると。


 そこで天使は、ただ微笑んでいた。

 愛情深く、慈悲深く。


 ……まあ俺は、他の生者の前で、憑き物と話はしない。そう決めている。だからいい。何も聞けずとも。


「……騒がしくなりそうだな」

「トラブルはごめんだよ」


 会長はため息を吐く。それには何も返さず、俺は、会長の手の下にある書類を見た。


 伊勢美、灯子。


 彼女が変えるのか。この、学園を。

 ……そんな予感に、俺は思わず少しだけ心を踊らせながら、天使に微笑み返すのだった。



 ……もちろん会長に訝しげな表情を向けられたのは、言うまでもない。





【終】

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