41 クレイ一行、領地へ帰る
王都5日目。
今日で俺たちは王都を離れ、アルセルク領へ帰ることになる。
この王都では、いろいろあった。
俺の昇爵とか、魔王軍の幹部が出てきたなんて、どうでもいいイベントもあったが、これは本当にどうでもいいので、気にしなくていい。
ついでに昨夜は、俺の黄金竜仕様の耳が、王城辺りから聞こえてきた声を拾っていた。
「フハハハハ、我は魔王。この国随一の美姫と名高い王女を誘拐しに来た!」
「グヌヌヌ、魔王自らが我が城に乗り込んでくるとは。近衛よ、出あえ出あえ!」
「「「グワアアアー、俺たちが束になっても勝てない!」」」
「フハハハハ、愚か者どもめ。貴様ら人間がいくら束になったところで、余に勝つことなどできぬわ。それよりも噂の美姫は……タイプじゃない」
「ちょっと、タイプじゃないってどういう事よ!私を攫いに来たんでしょう。ここは大人しく、私を誘拐しなさいよ!」
「イヤだ!」
「やかましい、とっとと私を連れ去りなさい!」
「ウギャッ!」
なんて声を聴いた。
翌日起きると、王都中が姫様が誘拐されたと大騒ぎになっていたが、俺はこの件に関わるつもりがないので、スルーさせてもらおう。
こんなイベントに巻き込まれたら大変なので、さっさと領地に帰りたい。
「ドブスの姫とフラグなんて、絶対に立てないからな」
声だけで、実物の姫を見たことはない。
なのでドブスと断定できないが、魔王が嫌がっていたので、関わり合いになりたくない。
「兄様、聞きましたか。昨夜魔王が単身王城に乗り込んできて、姫様を誘拐したそうです」
そんなことを思っていたら、リーリャまで、この件を伝えにきた。
「それは大変だな。でも、こういうのは俺たちみたいな、一般人が関わる問題じゃない。
そういうのは勇者がやることだから、全部押し付け……任せておこう」
本当にスルーで頼む。
「あのヘボ勇者ですか。あれに任せて大丈夫ですか?」
「大丈夫だろう」
全然大丈夫じゃないだろうが、俺に火の粉が降りかかるのは御免なので、万事それでOKだ。
あと、置手紙をして行方知れずになったトニーだが、結局あの後も見つかることがなかった。
スティーブンには、
「もう1日2日王都に残るか?」
と尋ねたが、以前のように、
「これが息子の決断なのです」
と言って、トニーの事は諦めたようだ。
それ以上は、俺がとやかく言えることではない。
俺としては、トニーのことはどうでもいいが、スティーブンがそのとばっちりを受けるのが気の毒だ。
そんなトニーだが、実は俺と同じく、元日本人の転生者だ。
と言っても、あいつは俺のことを目の敵にしていて、
「ハーレム野郎、チート野郎、貴族のクソガキ、イケメン野郎、禿ちまえ」
などなど、碌でもないことばかり、影で口にしていた。
領内では前世知識を使って、一部の女子たちに四則演算などの勉強を教えていたが、男子相手には全く取り合わないという、露骨な態度を取っていた。
「それに、奴はリーリャに色目を使っていた。あいつは敵だ、俺の目が黒いうちは、リーリャには指一本触れさせん!」
アイシャ相手にも、下心丸出しで話しかけていたな。
問題児なので、領内からいなくなってくれたのは都合がいい。
彼には、このまま王都で第二の人生を歩んでもらおう。
と言っても、前世知識があっても、知り合いも何の伝手もない王都だ。
そんな場所で、無事にやっていけると思えないが。
そして王都に来たことで、大きな変化がひとつある。
「ウラド様、本日より夫婦として、よろしくお願いします」
「ああ、だが本当にいいのか?」
「いいのです。私の身も心も、全てウラド様だけの物。
ウフフッ、私嬉しいです」
「そうか。
でも、あんな領地に行くのを嬉しがるとか、お前も相当変わってるな」
「いえ、私が言いたいのは、そういう事でなくてですね……」
例の王都の裏組織の総元締めの娘さん。
コクセンさんが、ウラドと祝言を挙げて、結婚した。
この世界、成人前の12歳から結婚するのが普通なので、2人の年齢を考えれば、決して不思議な事ではない。
「でも、出会ってまだ数日だろ。どうしてそれで結婚にまで辿り着く」
不思議なことだが、あっという間の結婚だった。
コクセンは、このままウラドについて、俺の領地まで引っ越してくるとのことだ。
「お嬢、ご結婚おめでとうございます」
「我ら一同、ウラドの旦那とお嬢のために、地獄の果てまでお供いたしやす」
「例えモンスター蔓延る地であろうと、あっしらがお嬢の盾となって、お守りいたしやす」
コクセンだけならまだしも、それに加わって強面のオッサンたちまで同行することになった。
この人たちも、俺の領地に住み着くつもりらしい。
「ウフフ、クレイ様には、私共々、組織の者たちがお世話になります」
俺の領民になるわけで、領主である俺に、コクセンは挨拶をしてきた。
「それはいいけど。本当にいいんだな?」
「はい、もちろんウラド様の事は、心より愛しています。
それはもう、殺しても殺されても嬉しいくらい、愛していますわ」
アカン、将来極道の妻になれる素質があるコクセンは、ウラドの愛し方がおかしい。
でも、俺が確認したのは、それじゃない。
「俺が言いたいのはウラドの事でなく、アルセルク領の事だ。
あそこは本当に何もなくて、農家だけしかない。
王都みたいな華々しい生活は、二度とできないぞ。
モンスターが出てきて、最近はなくなったが、昔はよく人死が出ていた。
王都で、ちょっと暴れてるくらいの連中だと、あっさり死んでしまうぞ。
それに……」
俺の領地がどれだけ酷いのか、そのことを次々に告げていく。
あんな罰ゲーム領地に住みたがるなんて、コクセンは大丈夫だろうかと心配になる。
「おうおう、黙って聞いてりゃ、王都で暴れている程度の連中だと?
貴族のボンボンだからって、俺たちを舐めてるんじゃ……イデデデデ」
「兄様をバカにすると、私が許しませんよ」
我が領地の酷さを伝えていたら、なぜか強面オッサンの1人が睨んできた。
でも、リーリャが後ろから手首をひねって、あっさり無力化している。
「ほら、こんなに簡単に無力化されていると、すぐモンスターの餌食になって危ない」
リーリャは、領地の子供たちの中では一番強いが、ここまで簡単に無力化されているオッサンが、コクセンの取り巻きだ。
これから先、心配になってしまう。
「あの子、見た目に反して驚くほど強いわね。気に入ったわ」
「コラコラ、俺の妹を勝手に気にいるな。
間違っても、組織に勧誘なんてしないように」
「フフフッ」
ダメだ、この女。
気が付いたら、俺の領地の中に犯罪組織が出来上がっている、なんて事態になりかねない。
面倒な女が、うちの領地に加わることになったな。
「ウラド、ちゃんと女房の監督をしとけよ」
「監督?」
「変な犯罪組織を作り上げないように、見張っておけ」
「?」
こっちもダメだ。
ウラドの頭だと、コクセンが厄介な女だと理解できないようだ。
所詮は14歳児か。
お前の女房がヤバい女だと、理解しろよ!
そんなコクセン一行まで加わって、俺たちは王都から領地へ帰ることになった。
行きは貸切乗合馬車2台の旅だったが、帰りはコクセン一行が加わったことで、さらに2台の馬車が増えた。
1台がコクセン専用の馬車で、もう1台がコクセンの取り巻き立ちの馬車。
大変どうでもいいことだが、俺が乗っている馬車より、コクセン専用の馬車の方が見た目が立派で、馬車を引く馬も体格がよかった。
そこだけ見れば、コクセンが貴族の令嬢と言われても不思議でない。
実際には、犯罪組織のお嬢様だけどな。
まあ、こんなメンバーを新たに加えて、俺たちは領地へ帰った。




