40 教会での儀式
トニーの件は置くとして、王都4日目の俺の予定は、既に決定している。
教会本部に出向いて、昇爵の件を神々に感謝しに行くこと。
この世界では、神々が実在している。
貴族の階級が上がると、わざわざ教会に出向いて、感謝の祈りをしなければならない。
あと、お偉い聖職者の説法も聞かないといけない。
露骨な言い方に変えれば、教会に寄付金を払いに行かなければならない。
教会はこの国において力を持った組織なので、貴族の階級が上がれば、真っ先に出向いて、多額のお布施をして機嫌取りをしなければならないのだ。
面倒事だけど、そうしないと後日領地にいる信者たちが、領主の陰口を叩いたり、悪さをし出したりするので、教会のご機嫌取りは物凄く大事だ。
てことで、お供筆頭のスティーブンと共に、教会にやってきた。
それにしても、流石は王都にある教会だ。
白く光り輝く教会の姿は、神聖な雰囲気を醸し出し、思わず頭を垂れたくなる……なんてことは俺にはないが、とにかく雰囲気だけは素晴らしい。
「なぜか、今日の教会は光り輝いている」
「神聖な気が満ちて、まるで神の世界にいるかのようだ」
「おお、神々の祝福が、我が教会に下されたのだー!」
教会にいる聖職者集団が、なぜか歓喜の声を上げて打ち震えているが、気にすることなくスルーしよう。
あと、聖職者集団がなぜか俺の方を見て、皆跪いてきている。
「神々の使途様ー」
「偉大なる救世主よー」
「大いなる王の降臨だー!」
我が領に蔓延る終末宗教も問題だが、王都の教会も、かなりおかしい人たちで溢れているようだ。
俺の方を見て、おかしなことを言わないでもらいたい。
まあ、教会に足を踏み入れた途端、俺の体が白く輝いているので、彼らが勘違いしてしまうのも仕方ない。
「クレイ様……」
「こっち見るなよ。領地のボロ教会でも、いつもこんな感じだろうが」
スティーブンまで、俺の方を見てきやがった。
宗教は敵に回すと怖いので、俺も領地にある教会にたまに行っている。
ただ俺が教会に行くと、いつも教会の壁や天井が光り輝いて、俺自身の体も光り輝いた。
こういう時に面倒だよな。
俺の半分は黄金竜で、ガチでこの世界の神だ。
それも神々のトップを務めている。
上位神とか言うのもいるが、あれは引きこもりの例外的な存在なので、黄金竜こそが、この世界の神々の頂点に立っていた。
俺に反応して、教会が光り輝くのは、一種の仕様のようなものだ。
「ああ、偉大なる神々の王よ。我が教会を祝福してくださり、感謝いたします」
そして聖職者の中でも、ひときわ豪華な衣装を着たご老人が、俺の前で跪いた。
「……俺の正体は、秘密ということで」
「ははっ、むろん承知してございます。
今朝、神託をいただきまして、クレイ様の正体は、決して他言無用と仰せつかっております。
神々に仕えて60年。
今まで”レベル通知の信託”しか下ったことがありませんでしたが、まさか神々から直接信託をいただく機会に巡り合うとは、感激するばかりで……」
以下、じいさんが長々と話を始めた。
校長先生や社長の話と同じで、年寄り聖職者の話も長い。
「フアアッ」
あまりに退屈過ぎて、欠伸まで出てしまった。
「ハッ、申し訳ございません。クレイ様を前にして、感動のあまり……」
「そういうのはいいので、ちゃちゃっと要件を済ませましょう」
「ハハッ、神命とあれば直ちに!」
「神命なんて、大げさですねー」
マジで大げさすぎだ。
横にいるスティーブンが、俺を見る目がおかしくなってるぞ。
あんまりこっちをジロジロ見ないでほしい。
何なら君にも神託を下して、俺の正体は口外無用とでも伝えさせればいいか?
信託を司っている女神がいるので、そいつに言えば、3秒でしてくれるはずだ。
そんなことを考えている間に、目の前のご老人が自己紹介を始めた。
「私は教皇グレゴリウス8世にございます。
しかし本物の神を前にすれば、教皇などと何の意味もなさぬ世俗の称号。
私は神々の忠実な下僕にして……」
「はいはい、そういう長い話はいいので、本題にいきましょう」
「ハハーッ、直ちに」
じいさん教皇、いちいち大げさすぎるな。
さて、昇爵した貴族が教会で必ず行うべきことは、お布施をすること。
それも爵位が上がるほど、お布施の額も高額になるので、昨日国王から貰った金一封のお駄賃が、一気に飛んで行く。
大金貨が数枚。
俺の領地で稼ごうとすれば、マーサ婆さんとつるんでも、なかなか稼ぐことができない額だが、そんな大金貨がまとめて何枚も飛んで行った。
「神々から金をいただくわけには……」
「いいから受け取っておけ。今の俺は、普通の人間なんだから」
「ハハー、神命承りました」
教皇って、宗教勢力の中ではトップを務める人物のはずなのに、俺を前にして地べたに平伏して、ペコペコしてばかり。
ダメだ、このジジイ。
俺の正体隠す気ゼロだ。
「クレイ様は、もしかして……」
「スティーブン、皆まで言うな。
俺は決して教会を、腕力で脅してないぞ。
教皇個人に、王都を消し去られたくなければ、俺にひれ伏せなんて、言ってないからな」
「いや、そういう事ではなく……もう、いいや」
スティーブンが何か言いたげにしているけど、諦めてくれたので、よしとしよう。
それよりお布施をすれば、次は神々に感謝の祈りを捧げなければならない。
神々が祭られた祭壇へ行き、そこで膝を折って祈りを捧げる。
だが俺の場合、どの神に祈ればいいのだろう?
黄金竜は自分の半身なので、自分で自分に祈るという、奇妙なものになる。
と言って、他の神々は、全部黄金竜の部下なので、部下に祈るというのもおかしい。
そして上位神は論外だ。
あんなのに祈ると、皆からハブられて、ボッチになる呪いに掛かりそうだ。
とりあえず、祈りの姿勢だけとるとしよう。
手を組んで目を閉じる。
すると神の声が聞こえた。
『お、黄金竜様のレベルは世界一ィィィィィィー!』
「やかましいわ!」
『ヒ、ヒエエエーッ。
お、お願いですから食べないで。私は美味しくないです。
そ、それに潰すのもなしで、お願いしますぅぅぅぅーーーっ』
うるさい奴だ。
この世界、RPGの様にレベルが存在して、自分のレベルを知るには神々に祈るといい。
先ほど教皇も”レベル通知の信託”と呼んでいたが、今みたいに信託の女神が、レベルの鑑定と通知を行ってくれるのだ。
ただ、通常だと数字で教えてくれるが、黄金竜の場合は数字で教えてくれない。
どうしてなのか、理由が少しだけ気になる。
「なんで、俺のレベルを数字で教えないんだ?」
『無茶言わないでください。黄金竜様のレベル鑑定なんて、私みたいな木っ端女神じゃできません。無理です。私の神格では、測定不可能です』
「あ、そう」
レベルの測定がメインの仕事で、たまにそれ以外の信託を下すしか仕事してない女神なのに、役に立たないな。
さっき自分で言ったように、木っ端女神だから、仕方ないのだろう。
そんな感じで、俺はこの女神とのやり取りを終えた。
これを祈りと呼んでいいのだろうか?
まあいいや。
俺自体が竜神様と呼ばれている神なので、これで問題なしだ。
文句を言う神がいたら、後日物理的な説得で理解してもらおう。
『無茶無茶、この世界で黄金竜様に勝てる存在なんて、神も悪魔も仏も人間もモンスターも魔王もいませんから!』
さっきのでやり取りを終えたと思ったら、信託の女神が、またいらないことを言ってきやがった。
ただ、このやり取りは俺と信託の女神にしか聞こえていないので、周囲にバレることはない。
そんな祈り(?)の後、俺はスティーブンを共に連れたまま場所を移して、教皇から直々にありがたい説法をいただいた。
教皇はやたら熱が入った調子で、この世界の創世神話を、熱烈に語り聞かせてくれた。
やたら美化されまくった内容で、この世界の生物を作る際、いかに神々の王である黄金竜様が苦労されたかという内容だ。
「苦労なんてしてないんだけどな」
熱烈に語る教皇には悪いが、教会で教えている創世神話は、実際に黄金竜が、この星の生物を作ったときの状況と、まったく関係ない内容だった。
あのポンコツヘボ勇者の噂話が、やたら尾ひれがつきまくって、現実から乖離しまくって活躍しているのと同じで、この世界の創世神話も、現実とかけ離れた感じで美化されている。
これでもかと、されまくっていた。
そんな説法をいただいて、俺は教会での一連の行事を終えて、解放された。
昇爵した貴族は、教会でこんな行事を受けないといけない。
ただし、教会のトップである教皇が直々に出てくる事態は、大公クラスの人物でなければありえない。
まあ、俺の場合は仕方がないと、割り切ってしまおう。
「おおおーっ、神々の王よーっ!」
ところで俺が教会から去るまで、教皇は雄叫びを上げながら、俺を見送ってくれた。
てか、俺に向かって、神々の王って言うな。
それだと、俺が黄金竜だとバレるだろうが!
なお後日、俺が領地にある教会に行ってお祈りをすると、教皇に神罰がくだって、禿になった。
俺は何もしていない。
ただ、教会で神様相手に、
「あの教皇を禿にしろ!今すぐ、大至急だ!」
なんて言って、神に命令したからじゃないぞ。
神に命令とか、普通の人間にできるはずないからなー。




