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39 忠義者だけど重たい男スティーブン

 騎士爵に叙勲されるどころか、男爵に昇爵した俺だが、宿に帰ってくればもう夜中。


 その日はさっさと寝てしまい、翌日王都4日目の朝を迎えた。




「男爵への昇爵、おめでとうございます、兄様」


 俺の昇爵の件を聞いて、真っ先に喜んでくれたのは妹のリーリャだ。



「これも亡き先代様のご活躍の故。アルセルク家にお仕えしてきて、これほどの慶事は初めてです。これからも、アルセルク家のために粉骨砕身お仕えいたします」


 スティーブンも、感極まった様子で祝ってくれた。



「ス、スティーブンの期待が重い」



 よくよく考えれば、この男は国王から貴族に任じられる機会があったのに、それを蹴って我が家に仕えてくれている。

 自分の先祖もアルセルク家に代々仕えてきたという理由だけで、俺にも仕えている。


 期待してくれるのはいいが、俺はアルセルク家のために、これといって何かしようと思っていない。

 今まで通り普通に領地運営ができて、領民が普通に生活していければいい程度にしか考えてない。


 将来やりたいことなんて、特にないからな。

 俺は、普通の人間のふりを続けることが目標なので、貴族として活躍するつもりはサラサラなかった。



「「「おめでとうございます」」」


 そして今回連れてきた子供たちも、俺の昇爵を祝ってくれた。



「男爵って領主様より偉いのか?」


「男爵って何?」


「男爵になると、何かいいことあるの?」


 ただ、子供たちは男爵なんて言われても、まったくピンときていない。

 田舎領地で育った子供たちなので、貴族の階級なんてものとは、まったく無縁だ。


 ただ、おめでたいことだと分かっているので、祝ってくれた感じだ。





 なお、俺の昇爵の件はおめでたいが、問題はスティーブンの息子である。


 エドワード?

 エイブラハム?

 エンリケ?


 ……本名なんてどうでもいいな。


 俺とスティーブンが、昨日王城にいた間も、子供たちは行方知れずになった、トニーの捜索をしてくれた

 でも、未だ見つからずじまいだ。



「未だ幼いですが、あの子はそれなりに利発でした。

 わざわざ置手紙までして行ったということは、相応の覚悟をしての事でしょう。

 ここは当人の意思を尊重して、これ以上皆が探す必要はありません。

 あの子は、この王都で生活していくことでしょう」


 トニーの探索を、父親であるスティーブンが、これ以上必要ないと言ってきた。



 しかし、自分の子供をこのまま置いて行っていいのかね?


「それでいいのか、スティーブン?」


「はい、それがあの子の意思ですから」


 スティーブンがそう言うので、俺からそれ以上言えることはない。



「ただ、領民であるエリックが、領主となられたクレイ様の許しを得ず、領地を去りました。

 これはクレイ様に対する裏切りです。

 息子の咎は、どうかこの私にお与えください」


「あー、そういえばそんな法があったな」



 面倒な事であるが、この国の法律では、領民はその地を治めている貴族の所有物ということになっている。

 これは人道的に間違っているとか、人に対する扱い方ではない、と言った問題でなく、国の法律なのだ。


 そのため、領民が勝手に他の領地に移り住むことは許されておらず、領主の許可を得ず他領に移住した場合、犯罪者として扱われることになる。


 広大な領地を治めている場合は、領主でなく、代官や役所に届け出ればいいが、アルセルク領のような田舎の場合、決定権は領主である俺にある。


 そしてこの法だが、領民の数が多い貴族家の場合、領地から1人2人去っても、大きな問題になることはないが、小さな村を治めている領主だと、メチャクチャ問題になる。


 裏切り者が出たと村人たちが大騒ぎしだして、領主を裏切った人間を責め立て、さらに家族にまで、非国民――ならぬ、非領民――などと叫び倒し、罵倒し始める。


 最悪の場合、勝手に家族を処刑することさえある。



「なにとぞ、息子の罰は私にお与えください」


「……うわっ、面倒くせぇ」


 俺としては、トニーが勝手にいなくなったからと、父親であるスティーブンを責めるつもりはない。

 悪いのはトニーだ。


 せめて俺に一言言ってからであれば、問題にならなかったのに、トニーの軽率な行動が、父親であるスティーブンに迷惑をかけている。



 ただ、領地に戻れば確実に年寄りたちが大騒ぎして、スティーブンにあることないこと喚き散らして、罪を問うだろう。

 小さな領地なので、年寄りたちは頭が固い。

 彼らの考えでは、領主を裏切ることは、死罪に等しい罪なのだ。


 そして俺がスティーブンに罪はないと言ったところで、年寄り連中が納得することはないだろう。

 田舎の村というのは、そういう世界なのだ。



「しかたない。領民たちを納得させるために、領地に戻ったら公衆の面前で、尻叩きの刑100回だ。

 スティーブンには、その罰を受けてもらう」


「はい」


 領地を治めていくことになれば、俺の考えでなく、領民の考えもある程度汲んだ措置が必要になる。

 そうしないと、領民の反発を呼ぶことになる。


 反発が軽いうちは問題ないが、そういうものが貯まっていけば、やがて重い問題になる。


 特に今の俺は、正式な領主に就任したばかり。

 最初に領主としての俺が軽く見られれば、後々厄介な問題になりかねない。


 そう言ったことも考えれば、スティーブンへの罰は、絶対にしなければならない。




「ああ、領主になると面倒だな。やっぱり、今からでもリーリャを連れて、逃げ……」


 そこでスティーブンに、ガシッと腕を掴まれた。



「スティーブン?」


「クレイ様は、アルセルク家唯一の男子です。なにとぞ、領主としての務めを果たしてください。これは領民を代表してのお願いです」


「あ、はい……」


 この男、忠義者だな。

 父上にもよく仕えてくれたけど、正直重たい男だ。

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