38 国王との謁見
トニーの事は皆に任せて、俺とスティーブンは王城へ向かった。
始めてくる王城に、キョロキョロ周囲を見つつ、俺は国王との謁見を待った。
それは待った。
物凄く待った。
午前中に叙勲を受けられるはずだったのに、まったくお呼ばれすることなく午後になり、さらに日が暮れ始める。
待っている間に、俺の黄金竜仕様の耳が、
「魔王軍が王都に攻め込んできて超大変。国防を急いで強化しないとマズイ」
「あのヘボ勇者は役に立たない。
何とかして、謎の怪盗仮面少年リーリャンとルークンを見つけ出すのだ!あの2人なら、魔王を瞬殺できる!」
「昨日の戦闘で王都に被害が出てるけど、謎の白鳥仮面少女アリシャ様のおかげで、かなり被害が軽減できた。それでも人死が出てて、ヤバいです!」
などなど。
大変そうだな。
だから、早く国王は俺に叙勲してくれ。
「リーリャンとルークンであれば、ワシもすぐに会うぞ」
国王と思しき男の声まで聞こえたが、それより早く俺に叙勲しろよ!
「マジで、壁を壊して会いに行くか?」
日が暮れても待たされ続けた結果、俺は悪魔の囁きならぬ、黄金竜の囁きに従って、そんなことまで考えた。
「クレイ様、止めてください。
そんなことをすれば、アルセルク騎士爵家が取り潰しになるばかりか、反逆者になってしまいます」
スティーブンに止められてしまった。
我が領随一の戦闘能力を持つ男だが、常に俺のストッパーとして活躍している気がする。
リーリャンやルークンより強いのに、なんで俺のストッパーなんてしてるんだろう?
そんなことを考えつつ、暇すぎてウツラウツラしていたら、とうとうお呼びの声がかかった。
「アルセルク騎士爵家の後継者である、クレイ・アルセルク殿。
国王陛下よりの叙勲である。直ちに、陛下の御前へ」
「ふああーっ、長かった。やっとか」
「クレイ様、寝ぼけた顔で、国王陛下の御前に行かないようお願いします」
「ふあいっ」
相手はこの国の国王だけど、今一つ緊張感を持てない。
俺の内部では、元日本人の俺が、
『国王って言ったら、会社でいえば一番偉い社長。代表取締役だろう、CEOだろう!』
なんて騒いでる。
だが、どうして会社に例えるんだか。
日本で例えるならば、国王とは総理大臣よりも上。
天皇になるな。
アメリカならば大統領だ。
ただし、任期無期限の終身大統領だな。
中国だと国家主席になる。
そんなお偉い相手だけど、俺の中の黄金竜さん曰く、
『私、この世界で一番偉い神なんだけど。
国王だから、それがどうしたの?食べたら美味しいの?』
なんて扱いだ。
国王だといいもの食べてて、肥えてそうだけど、今の俺に食人志向はないので、食べるのはご遠慮したい。
あと、黄金竜さんの中では、自分は上位神より偉いと思い込んでいる節がある。
『だって、私の方が偉いもの』
黄金竜さんは、怖いもの知らずだな。
とまあ、そんな感じで、俺は国王相手にまったく緊張する要素がなかった。
王宮に仕えている役人に連れて行かれて、謁見の間に到着。
貴族としての作法は受けているので、謁見の間では視線を下に向けて、国王の顔を見ないようにしながら、前へ進む。
所定の位置に来れば片膝をついて、国王の前で頭を垂れる。
お供筆頭であるスティーブンも同伴で、俺の斜め後ろの位置で、国王に跪いた。
「クレイ・アルセルク、面を上げよ」
「ハッ」
国王の近侍の言葉を聞いて、俺は顔を上げた。
この時、初めて玉座に座る国王の顔を見たが、普通の中年オッサンだった。
威厳ある老齢の王でなければ、逆に年若いショタ国王でもない。
取り立てて特徴と呼ぶものがない、ただの中年おじさんだった。
一応王の威厳ぽいものはあるけど、大したことはない。
この国王とは別人だが、過去に黄金竜さんが城の壁を打ち破って、国王にダイレクト面会したことが何度もある。
そうすればほぼすべての国王が、威厳なんてかなぐり捨てて、その場で跪いて命乞いを始めるので、威厳なんてものがあっても、ないも同然だ。
なお、俺の予想に反して、国王は肥えてなかった。
メタボではない。
普通にスリムで、体型の管理ができている。
ただ、あまり国王の顔をジロジロ眺めるのは無作法なので、俺は国王の顔を少し眺めると、すぐに視線が合わないように気を付けた。
黄金竜仕様だと、礼儀も何もないが、今の俺は半分が元日本人だ。
なので、野生の黄金竜と違って、きちんと礼儀もわきまえている。
そんな俺の前で、国王が上質な紙でできた巻物を取り出す。
王国が発行する、貴族の任命証だ。
「クレイ・アルセルクよ」
「ハッ」
国王直々の呼びかけに、返事を返す。
「汝をアルセルク騎士爵家当主に任じた上で、アルセルク男爵へと昇爵する」
「男爵……で、ございますか?」
ちょっとタイム。
今、国王が変なことを言ったぞ。
騎士爵はいいのだが、男爵に昇爵?
ハテ、言ってる意味が分からない?
俺の脳裏に、一瞬フランソワーズ嬢とフランソワーズパパの姿が浮かんだ。
この国の経済を牛耳っている伯爵家なので、俺を男爵にするなんて朝飯前でやりかねないが、出会ってまだ数日だ
この短期間で、騎士爵家を男爵家にするのは、流石に無理がある。
事前の根回しの時間が、圧倒的に足りない。
「昇爵の件に関して、王宮から使者を送ったが、その者から聞いていないのか?」
「使者でございますか?
生憎、そのような方とは、お会いしていません」
フランソワーズ嬢は、関わっていないと判明。
しかし俺と国王の間で、認識にズレがある。
王宮からの使者なんて会っていない。
俺の背後に控えているスティーブンを見ても、首を横に振っている。
「今よりひと月前に、王宮より使者を送ったのだ」
「恐れながら使者の方ですが、もしかすれば亡くなっているかもしれません」
この話を聞いて、俺は少しだけ嫌な予感がした。
うちの領地に一般人が来るのって、大変なんてレベルじゃないからな。
「死んだというのか!?」
「はい、我がアルセルク騎士爵領は辺境。
領地に至るためには、モンスター蔓延るロカルト山系を踏破する必要がありますが、あの山系ではオーガを始めとした、強力なモンスターが出没します。
おそらく、使者の方はモンスターに遭遇して、帰らぬ人となったのではないかと」
王宮からの使者だから、多少の護衛もついてるだろう。
だが、ちょっと腕が立つくらいの人間では、オーガに勝てない。
うちの子供たちは平気でオーガを倒すが、あれは子供たちがちょっと人間やめてる強さだからで、普通の人間の場合、そうはいかない。
「なんと、アルセルク領は僻地であると聞いていたが、それほどまでに危険な場所だとは……」
国王が絶句しているよ。
ド辺境で、危険な場所で、すみません。
ただ、国王は気を取り直して、使者が死んでしまったのでは仕方がないと割り切る。
改めて、昇爵の件についての説明に戻ってくれた。
「幼いそなたにとっては酷な話であろうが、戦死したそなたの父は、先のデニング帝国との戦争において、我が軍の勝利に貢献したのだ。
本来であれば、功はそなたの父が受け取るべきものであるが、戦死してはそうもいかぬ。
そこで、息子であるそなたに報いることとした」
フランソワーズ嬢は、やはり関係なかった。
ただ、国王が認識するほどの功績ということは、戦場でちょっと槍働きがよかったなんてレベルではないはずだ。
そんな功績を父上が立てていたとは、今更ながらにビックリだ。
俺は父上が戦死したとしか聞いていないし、その後は色々と大変だったので、戦場での活躍なんて、全く知らなかった。
「そなたの亡き父の功績を讃え、アルセルク騎士爵を昇爵し、汝クレイ・アルセルクを男爵とする。
これは国王の命である。しかと報奨を受けよ」
「ハッ、国王陛下の恩寵に感謝いたします。
亡き父も、あの世で陛下の御厚情に感謝していることでしょう」
なんともビックリ。
父上のおかげで、俺は国王から男爵に任じられた。
その後は、事務的な話が入り、俺には男爵への昇爵と同時に、国から金一封がもらえた。
その他、男爵としての細々とした品も与えられる。
「領地に関しては、今のままとするが、アルセルク領は開発できる余地があると聞いておる。
後日、王都より職人を含めた移民団を送り出す。
その者たちを使って、土地を切り開き、男爵家に相応しい領地に発展させよ」
「ハハッ、ありがたき幸せ」
俺は元日本人の感覚に従って、国王からの褒美をありがたく受け取った。
だがけどな、俺は表面上ありがたがっているが、内心ではそれどころじゃない。
おい、どういうことだ国王!
男爵家云々なんてどうでもいい。
あの領地を開発しろだと!?
王都から移民を送り出すだと!?
200人ぽっちを養うだけでも苦労している村なのに、これ以上人口増やすとか、何言ってんだ!
領地の外とまともな交易ができないので、食料は自分たちが農業をして確保するしかない。
急に人が増えれば、食料を賄えなくなって、飢餓が発生するのが目に見えている。
飢餓が発生すれば、その不満は領主である俺に、間違いなく降りかかる。
「ウゲェー、国王が害悪過ぎる」
「クレイ様っ!」
おっとイケナイ。
表面はにこやかにしていたけど、ついぼやいてしまった。
国王に聞こえない小声だったが、傍にいるスティーブンは聞こえていたようで、注意されてしまった。
しかし参ったな、食糧問題を急いで何とかしなければならない。
そんなことを考える俺の前で、国王は1人嬉しそうな顔をして、おしゃべりを続ける。
「先日の魔王軍の幹部襲来によって、王都にも被害が及んだが、この国には人知れず、我が国のことを思う在野の士がいる。
謎の怪盗仮面少年のリーリャンにルークン。それに謎の白鳥仮面少女アリシャ」
「……」
アッ、ハイ、ソウデスネー。
別に彼らは、この国の事なんてコレッポッチも考えずに、戦ってたと思いますよ。
リーリャンは闘技場で普通に戦っていただけだし、ルークンなんて、俺が王都を消し去るんじゃないかって、ビビってたもんな。
アリシャだけ、例外かもしれない。
「だがしかしだ。そんな彼らばかりでなく、ワシの臣下にも、優れた子供が……いや、若者がいるのだな」
「……」
「クレイよ。そなたは未だ10にもならぬのに、ワシを前にして利発に答える。
この場にありながら、怖気を抱かぬ立ち振る舞いは、見事であるぞ」
「お褒めにいただきありがとうございます」
利発と言われても、俺は自分の精神年齢が子供でないので、それなりに大人な対応ができる。
それに怖気と言われても、この国王相手に、怖気を感じる意味が分からない。
周囲をチラリと見渡せば、謁見の間は金銀宝石の数々で装飾が施された空間で、左右には煌びやかな武具を纏った、近衛騎士が整列する。
さらに多くの文官が、国王の傍に従っていた。
いずれも身なりが良く、一角の人物を思わせる風格。
でも、この程度の空間で怖気付くとか、なんで?
黄金竜基準だと、ただの人間が、ズラズラ並んでいるだけの場所だ。
「クレイよ、ワシはそなたの成長を楽しみにしておるぞ。
そなたであれば、将来この国を背負って立つことのできる、男となるであろう」
なぜか国王から、期待のこもった言葉をもらった。
俺、この国のために、頑張って働くつもりなんてないんだけどな。
「ハハッ、陛下の御期待に応えられるよう。これからも精進を続けてまいります」
でも、俺の日本人気質な部分は、ちゃんと空気を読んで、国王が喜びそうなことを言っておいた。
口で言うだけならタダだ。
この場では、国王のご機嫌だけとっておこう。




