37 トニーがいなくなった!
「王城に行って叙勲を受けるぞ」
王都滞在3日目。
ついに旅の目的である、国王から騎士爵の叙勲を受ける日がきた。
俺は貴族としての正装を身にまとい、いざ王城へ……
「申し訳ありません、クレイ様。私の息子がこのような物を」
「……」
本日も早速トラブルだ。
スティーブンが、手紙を差し出してきたので受け取る。
なになに。
『俺はド田舎の村で、いつまでも埋もれているつもりはない。
俺はビッグになれる男なんだ。
あんな田舎の村とはおさらばして、王都で活躍してやるぜ。
だから俺のことは探さないでくれ、親父。
Byエリック』
置手紙のようだが、書いている内容は子供のそれだな。
「なあ、スティーブン」
「はい、クレイ様」
「エリックって誰?」
エリックなんて名前の子供は、俺の領地にいないぞ。
よく考えてみれば、領民にもいない。
人口200人程度の村なので、全員の名前を覚えている。
「……私の息子です」
「スティーブンの息子って、トニーだろ?」
「トニーではなく、エリックです。村の全員が、なぜかトニーと呼んでますが、本名はエリックです」
「そ、そうか」
マジで?
トニーって聞いたら1発で分かったけど、エリックってのが本名だったのか。
「それで、トニーは宿にいなかったのか?」
「ですから、エリックです」
「トニーでいいだろ。それで覚えてるんだから、今更エリックって呼ぶんでも、しっくりこない」
「エエッ……」
おっと、普段は律儀に仕えてるスティーブンだが、今回は嫌がってるな。
でも、俺はトニー呼びをやめないぞ。
そもそも、エルリックだか、エドワードなんて名前を、いちいち呼んでられないからな。
あれ、それともエルロードだっけ?
ヤバイ、もうトニーの本名を忘れたぞ。
ま、大事な事でないからいいか。
「宿の中は探しましたが、どこにもいませんでした。置手紙をしていたことから、昨日の夜のうちに、抜け出したものかと」
「そうか。
しかしまずいな。俺たちは、これから王城に向かわなければならない。
……仕方ないから、連れてきた皆に探してもらおう」
「我が愚息が、このような行いをして申し訳ございません」
「スティーブンが謝る必要はない、悪いのはトニーだからな。
見つけたら、尻叩きの刑にでもしてやる」
そう結論付けて、俺たちは今回連れてきた皆に、トニーを探してもらうことにした。
早速皆を集めて、スティーブンがトニーの探索を依頼する。
「……というわけで、皆には面倒をかけることになるが、私の息子であるエリックを探してもらいたい」
しかし、皆顔を見合わせて、それぞれ不思議そうな顔をする。
俺がどうしたのだろうと思っていると、ルークが代表して手を上げた。
「ルーク、どうした?」
「あの、エリックって誰ですか?」
「……私の息子だ。本名はエリックだが、皆何故かトニーと呼んでいる」
「ええっ、トニーいなくなったんですか。それは一大事だ!」
それまで名前を聞いてもピンときていなかった、ルークを始めとした皆。
だけどトニーがいなくなったと分かった途端、一斉に声を上げて、事の重大さを理解する。
「……頼む、皆エリックを探してくれ」
「分かりました。トニーは僕たち皆が協力して探し出すので、スティーブンさんは安心してください」
しっかりと、トニーのことを請け負うルーク。
今回連れてきた子供たち、そして少数の大人たちも、続けて同意する。
「ああ、ありがとう……ただ、本名はエリックだからな」
「皆、今から急いでトニーを探そう。
王都は広いから、急いで探さないと!」
最後まで、スティーブンの息子の本名は、呼んでもらえなかった。
可哀そうな奴だな、エドワルド。
それともエーデンバッハ三世だっけ?
いや、そんな立派な名前じゃなかったな。
やはりトニーのことはトニーと呼ばないと、しっくりこない。




