表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/45

36 トラブルを呼ぶ男ウラド

 今日の晩御飯は何だろう。


 宿屋1階の食堂で、晩飯を楽しみに待っていると、外から声が聞こえた。



「お待ちになってウラド様」


 まだ食事が出てこないので、視線が自然と宿の入り口へ向かう。



「お前、しつこいな」


「しつこいも何も、私はあなたに惚れたの。

 自慢じゃないけど、私ほどいい女は、滅多にお目に掛かれないわよ」


 何やら男女の言い争う声。

 そのうち一つが、我が領のイタイ男……というか、最近はチンピラの兄貴分になっている、ウラドの声だ。



「いい女ってのは、自分から言うもんじゃねえだろ」


「まあ、この私を前にしてその言いよう、酷い男ね。

 フフッ、ますます気に入ったわ」


「はあっ、面倒くせえ女だな」



 OK、状況は把握した。

 男と女の問題だ。


 ああいうのに巻き込まれると碌なことにならないので、俺は入り口から視線を逸らした。



「今日の晩御飯は何かなー。ド田舎の食事と違って、王都の食事はうまいなー」


 適当に鼻歌歌って、晩御飯を楽しみにするぞー。



「あー、ウラドが知らない女の人を連れ込んでるー」


「ヒューヒュー、どこで知り合ったんだ?」


「ウラド、結婚するのか?」


 俺は気にしないぞー。

 食堂にいる子供たちが騒いでいるが、俺はウラドの方を見ないようにしておく。



「おいガキども、うちのお嬢を指さすんじゃねえ」


「ウラドの旦那の知り合いか何か知らんが、お嬢には近づくな」


「ウラドの旦那、なにとぞお嬢をもらってやってくだせぇ」


 知らない人たちの、ドスの利いた声が聞こえてくるけど、俺は何も聞こえない。

 自分に都合の悪いことは、見えないし聞こえないようにするのが、俺の主義なんだ。



「ウラド様ーっ」


「いい加減にしろ!」


「キャッ」


 ああ、トラブルの予感しかしない。



 次の瞬間、俺の体に何かがのしかかってきた。

 プニプニした感触が、頭の上でする。


 母上のボインよりは固いが、ハリがあってなかなかいい。

 ニールのような強烈な弾力はないものの、これはこれで面白い。



 とまあ、ラッキースケベを経験した俺の上には、見知らぬ女の人が倒れ込んでいた。



「……お姉さん、大丈夫?」


「ええ。大丈夫よ」


 女の人は、すぐに立ち上がる。



 そして俺の事なんて、すぐ眼中から消えてしまった。


「ウラド、あんたやってくれるわね。

 この私を袖にして平然としているなんて、覚悟はできているの?」


「ああん、何が覚悟だ?

 お前の方こそ、俺に付きまとってきやがって、面倒な女だ。

 ここから叩き出してやる!」


 女の人は、目に剣呑な光を宿してウラドを睨む。

 美人だが、かなり迫力のある顔をしていて、俺の脳内では極道の妻なんて単語が浮かんだ。


 まあ、妻というには年が若くて、まだ10代後半と言ったところだ。

 ならば、極道の女子高校生と呼ぶべきか?



 女の人の声に合わせて、いつの間にか宿の中に入ってきていた強面のオッサン衆が、武器を抜き出した。


 ドスだ。

 チャカはない。


 ここはファンタジー世界なので、銃器はない。

 少なくとも今の時代には。



「たく、面倒だな。

 お前ら俺より弱いくせして、ワラワラ群れやがって。

 そんなに俺が気に食わねえなら、まとめて片付けてやるから……ウオッ」


「頼むから喧嘩は外でやってくれ!」


 ポイポイポイ。

 ウラドと強面オッサン衆が邪魔なので、俺は高速移動して、全部宿の外に投げ捨てた。


 もうすぐ晩御飯だというのに、宿の従業員がビビって、動けなくなってるじゃないか。

 俺は早く食事を楽しみたいのに、ご飯ができるのが遅くなってしまう。



「な、なんで外にいるんだ!?」


「一体何が起きた!?」


「ア、アイエー、忍者、忍者ナンデー!?」


 俺が高速移動して、外に放り出したオッサン衆が、何か喚いてる。

 俺の姿を視認できてなかったから、自分たちが突然外にいることに驚いている。


 あと1名、彼だけこの世界の住人じゃない気がする。

 ネオサイタマから、異世界転移でもしたのだろうか?


 俺には関係ないので、関わらないでおこう。




 その後、宿の外で喧嘩する声が聞こえてきた。


「お嬢を袖に振る奴は許さねえ。野郎ども、畳んじまえ」


「ちょっとバカ。なんでウラド様に喧嘩売ってるのよ。このバカ、大馬鹿!」


「お、お嬢っー!」



 まあ、喧嘩している相手が、ウラドとオッサンたちでなく、なぜか女の人とオッサンたちになっていた。

 それも喧嘩でなく、女の人にオッサンたちが、一方的に叱られている。



 訳が分からんな。


「チッ、やってられるか」


 俺だけでなく、この問題の当事者であるウラドまで、そんなこと言ってる始末だ。



「ああ、腹が減った」


 外に放り出したのに、ウラドが平然と宿に戻ってきやがった。


「おい、ウラド。

 面倒事抱えてる最中なのに、宿屋に戻ってくるなよ。

 シッシッ、あっちに行け。

 こっちに来ると、また変な連中が来るだろう」


「クレイ様、俺もあいつらに付きまとわれて、迷惑してるんですよ。

 でも、いい加減腹が減ってきたなー」


「この能天気野郎」


 厄介ごとより晩飯の方が、お前の中では優先順位が高いのかよ。

 平然とした顔で、俺の隣の席に腰掛けやがった。



「お待ちになって、ウラド様」


 そして再び冒頭の展開に戻るかのように、女の人が宿の中に入ってきた。



「……」


 一瞬、女の人は考える様子を見せた。


 だが、すぐに判断して、ウラドの横にある席に座る。

 つまり、俺の座っている席の2つ隣だ。



「ウラド様ーっ」


「しつけぇ!」


「フフッ、もう逃がさないわよ。

 私をこれだけ好き勝手して振り回すんだから、絶対に逃がさない」


 女の人は、ウラドの腕にしなだれかかった。

 しなだれかかったけど、ウラドの腕をガシリと両手で握って離さない。



「……」


 お、俺は、こいつらに関わる気はないぞ。


 メチャクチャ厄介な女に、付きまとわれているというのは理解できたが、関わりたくないので、俺は知らんふりだ。



「ああ、早く晩飯食いたい」


「俺も早く食べてえ」


 知らんふりしたいのに、俺とウラドは、似たような事を同時に口にするのだった。




△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇




「モグモグモグ。で、ウラド、結局何があったんだ?」


「何って言っても、俺は昨日と同じことをしてただけですよ」



 さて、俺は知らんふりを通したいが、流石にずっと続けていられない。


「昨日と同じこと?」


「向こうから勝手に絡んできて、のしてただけです」


「あっ、そう」


 こいつイタイ男を卒業して、街のチンピラになってしまったのか。

 行く先行く先で喧嘩ばかりとは、ろくでもない男になったな。




 あれっ?

 俺が黄金竜だった時も、気に食わない奴はドラゴンでも国でも、平気で潰していたので、あまり人のこと言えないかも。


 国を丸ごと滅ぼしたこともあるけど、あれはちょっとした誤解だ。

 そう、誤解だよ。ちょっと勢いに乗って、ヤッちゃっただけだから。




 少し遠い目になって、


「俺はウラドとは違う。ウラドとは違うんだ」


 と、口にしてしまう。



 そんな俺の横で、話は続いていく。


「……うちの衆がドンドンやられていくから、他の組織の殴り込みかと思ったのよ。

 そこで、私自ら出ていくことにしたの」


 と話すのは、ウラドの腕を拘束……もとい、しなだれかかっている女の人。



「組織?」


「うちの組織だけど、これでも王都の闇を牛耳っていてね。

 フフフッ、そんな私の一家に、殴り込みをかけてきた奴がいるってんだから、パパの娘である私が、直々に出張ることにしたのよ」


「パパ?」


「ええ、私のパパ。この王都の闇組織の総元締なの」


「……」


 うわー、なんかとんでもない人物が、出てきたぞ。

 そんな娘がこの場にいるのって、どうしてだよ。



「ただ、そこでルーク……じゃねえ。ルークンの奴が、空をうるさく飛び回る蠅みたいなモンスターと戦いだしてな」


「ああ、魔王軍の何とかって奴か。

 確かにあいつ、ブンブン飛び回っててうるさかったよな」


「だよなー」


 俺とウラドの間で、同じ認識になる。

 魔王軍のあいつは、本当にブンブンうるさかった。


 なんて名前だっけ?

 どうでもいいので、思い出せないな。



 なお、この話をしている間、ルークは他の子供と話していて、こっちに気づいていない。



「魔王軍とルークンって奴が戦いだして、その余波で、私たちの近くにある建物が崩れたの。

 あのままだったら、私は建物の瓦礫に巻き込まれて、死ぬところだったわ。

 でも、そこでウラド様が、手にした剣で瓦礫を一刀両断して、私を助けてくれたの」


「ふーん」


 ウラドだけでなく、うちの子供たちだと、瓦礫なんて簡単に切れるからな。


 そして命の恩人だから、惚れたってことか。

 なんかそういう話を、つい最近聞いた気がするな。



「あれはたまたまだ。あのままだと、俺も瓦礫にぶち当たってたからな」


「フフッ、そう言って、本当は私があまりにも美人だったから、守ってくれたのでしょう。

 ねえ、ウ・ラ・ド・さ・ま」


 そう言って、女の人はウラドの耳元に、熱い吐息をふっと吹きかける。



「おい、気持ち悪いぞ」


「なんでよ、ここは喜ぶところでしょう!」


 耳に息を吹きかけられても、平然としているウラド。

 そんなウラドに、女の人は不機嫌に眉を吊り上げた。



 なんだか知らないが、この2人って、喧嘩するほど仲がいいのだろう。


 そして、この女の人だが、名前はコクセンとのことだ。


 王都の闇を牛耳る、犯罪組織の総元締の娘、コクセンさんだ。




 しかしウラド、極道の娘さんを手籠めにするんじゃありません。


 お前は、一体どこを目指して突き進んでいるんだ!




△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇




 さて、ウラドとコクセンさんのことは2人の問題なので、俺はこれ以上関わらないことにした。


 まあ、2人だけの問題と言いたいが、コクセンさんはただの女性でなく、犯罪組織の元締めの娘さんだ。

 彼女に関わる問題は、自動的に犯罪組織の構成員が、まとめて背後についてくる。



 貴族と言っても、ド田舎領主の俺とは規模の違う組織なので、俺が関われるような問題じゃない。

 俺の方が、犯罪組織に片手で潰されてしまう。


 ただ、もし俺に火の粉が降りかかってくることがあれば、その時は犯罪組織のある王都を、物理的に消そう。

 俺は一方的にやられるマゾではないので、巻き込まれた場合は、王都ごと犯罪組織を消し去って、問題解決だ。



「兄様、お願いですから、変な事を考えないでください」


「クレイ様、ダメです。何を考えているのか分かりませんが、力で全てを解決するのはやめてください」


 俺の考えていることを読んだわけじゃないだろうが、なぜかリーリャとスティーブンから、ストップをかけられてしまった。



「2人とも、俺の考えてることが分かったのか?」


「いいえ、でも悪い顔をしてたので」


 リーリャがそう言い、隣でスティーブンがウンウンと首を縦に振る。



「おっといけない。顔に出ないように、気を付けないと」


 俺は自分の顔を手でマッサージして、悪い顔にならないように注意した。

 そんな俺を見る2人は、なぜか微妙な物を見る目をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ