1 俺、異世界転生する
俺は異世界転生した。
異世界転生には憧れとロマンがあったので、それはいい。
ただ、生まれ変わった俺には、前世で日本人だった記憶と、おまけで付いてきたもう一つの記憶があり、その二つがごちゃ混ぜになっていた。
そのせいで生まれてから3年もの間、自分という人格が明確に確立できずにいた。
自分の中で混濁する2つの記憶がせめぎ合い、精神の不調が体にまで現れてしまう。
毎日うなされながら眠り込んでいる始末。
人間の赤ん坊として生まれたけれど、3年の間はろくに目を開けることができず、体も痙攣を伴う動きしかできなかった。
一日のほぼすべてをベッドの上で寝ていて、痙攣するせいで満足に体を動かすことができない。
立ったり歩いたりはおろか、ハイハイすらろくにできない始末だった。
おかげで生まれてからこの方、病弱な赤ん坊扱いされてしまった。
「明日には死んでしまうのではないか!」
と、転生した世界の両親に、毎日のように心配をかけてしまった。
そんな俺だけど、3歳の時を境にして、それまでせめぎ合っていた2つの記憶に整合性が取れるようになった。
精神の不調が終わったことで、俺の体も自然と健康なものになる。
それまでの病弱さがウソのように、普通に立って歩くことができるようになった。
食べることだって問題ない。
「母上、父上」
この世界に転生したことで、新しく出会った両親を呼ぶこともできるようになった。
……なったのはいいんだけど、俺の中にある記憶は、ひとつが日本人だったのに対して、もう一つはドラゴンの記憶だった。
それも黄金竜と呼ばれるドラゴンで、そのドラゴンなのだけど……
「あの病弱だった息子が、こんなにも元気になって、私たちのことも呼べるようになったのね。
ああ、竜神様ありがとうございます。あなた様のご加護で、病弱な息子が健康になりました。偉大なる神よー!」
そんなことを言って、母上は感謝感激の祈りを、天へと捧げる。
竜神様とは、この世界で信仰されている神の1柱で、大層お偉い神様の事だ。
数ある神様の中で、一番偉い扱いをされている。
世間一般からは、竜神様と呼ばれているが、別名黄金竜とも呼ばれている。
……てか、その黄金竜が、俺のもう一つの記憶なんだけど。
この世界にいる神々のさらに上位存在である、上位神に噛みついた記憶まであるんだけど。
犬が、飼い主にじゃれついて甘噛みするのと同じで、上位神に甘噛みしたつもりでいたら、思ったより力が入っていたようで、指を怪我させてしまった。
その後、上位神がキレて、神界から放り出され、直後変な液体をぶっかけられたことまで記憶にある。
……あの上位神、ボッチ過ぎて自分より格下のドラゴンにしか話しかけられないくせして、やることが陰湿だろう。
てか、転生者とドラゴンの魂をごちゃ混ぜにするな!
“神界通販サイト”で、間違ってポチって買った謎液体を、俺にかけてるんじゃねえ!
高額なのに使い道がなくて、捨てるに捨てられず、3千年ぐらい放置していた液体を、どうして俺に使いやがった!
とまあ、黄金竜の記憶まであるせいで、俺は当事者として、上位神のことを罵った。
しかし奴の事はもういい。
考え続けるだけ時間の無駄だ。
それより、これからの人生どうしようかね。
今の俺の中には、黄金竜と元日本人の転生者。
1柱と1人の記憶と魂が、謎液体のせいで融合し合って、受け継がれている。
ただ上位神のせいで、精神面はともかく、体は普通の人間に生まれ変わってしまった。
とりあえず、
「異世界だ、ラッキー」
という、前世日本人の感性に従って、この世界を適当に満喫してみるか。