2 罰ゲームみたいな領地、アルセルク騎士爵領
「父上、母上、リーリャ、おやすみなさい」
「おにいたま、おやしゅみなしゃい」
父上と母上、そして妹のリーリャに就寝の挨拶をしてから、俺は自分の部屋に向かう。
この世界に転生してから5年。
5歳になった俺は、早くも個室があたえられ、夜は1人で眠ることになる。
ちなみに、妹のリーリャはまだ3歳なので、父上たちと同じ寝室で寝る。
まだ舌っ足らずで、可愛い幼女な妹。
茶色の髪と瞳をしていて、後ろ髪をツインテールにしている。
将来はきっと美人で可憐な妹に育つこと間違いなしだ。
妹に手を出す野郎がいたら、お兄ちゃんが許さないからな!
そんな妹が、両手で俺に手を振ってくるので、俺も笑顔で手を振り返して、妹たちと別れた。
そうして俺は個室に入って、ドアを静かに閉めた。
ベッドに入って、ウトウトとしながら、今の自分について考えてみる。
俺の今世での名は、クレイ・アルセルク。
今はただの5歳児でしかないが、アルセルク騎士爵領の領主である父上の長男で、将来はこの領地の領主になることが決まっている。
つまりは貴族だ。
「生まれながらにして貴族だ、将来は安泰だなー」
といいたいところだが、大変残念なことに、アルセルク騎士爵領は、デナント王国の僻地にある領地で、早い話がド田舎。
いや、訂正しよう。
ド田舎を超えた、秘境と呼んでいい場所にある。
ロカルト山系と呼ばれる山岳地帯と、魔の大森林と呼ばれる未開の森林地帯の間に、ポツンと存在する平地に、アルセルク騎士爵領はある。
ロカルト山系は高い山々が連なり、山の中にはコボルトにゴブリン、オーク、オーガなどなど、モンスターが大量に住み着いている。
この山系を超えなければ隣の領地に行くことができないのだが、山系の中に住み着くモンスターの数が多いため、戦闘なしで山越えできない危険地帯となっている。
しかもこの山系から、たまに下位のモンスターであるコボルトやゴブリンが降りてくる。
多くは山系での縄張り争いに敗れたモンスター達で、そう言ったモンスターは必ず群れを組んで、山を下りてくる。
騎士爵領では、年に何回か村人総出で、モンスター相手の防衛戦をしなければならなかった。
弦に、モンスターの危機に備えなければならないので、とてつもなく大変だ。
ただ、こっちはまだましな方。
騎士爵領を挟んで、山系の逆側には魔の大森林が広がっている。
昼間でも、森の中に太陽の光が届くことがなく、足場が悪く、場所によっては沼地も多い。
この森はあまりにも深く険しいため、どれだけの広さがあり、森の向こうに何があるかを知る者は誰もいない。
世界の果てまで、延々と広がり続ける大森林などとも呼ばれており、実質世界の最果て扱いだった。
そんな森だが、浅い場所では巨大なドリルの角を持つホーンラビット、巨大な蜂のモンスターキラービー、巨大蝙蝠のジャイアントバッドなどが生息している。
モンスターの中では、そこまで強くない部類だが、ホーンラビットの巨大な角は馬の胴体も貫き、キラビーの尻尾に生えた針には、大人でも殺せる毒がある。
ジャイアントバッドは、吸血能力を持ち、群れで襲ってくる習性があるため、大人1人で相手にしていいモンスターではなかった。
ただ、これは大森林の浅い場所の話に過ぎない。
実は、この世界の歴史では、過去に魔王なる存在が何度も出没している。
過去に現れた魔王の何体かは、魔の大森林から現れたのではないかと言われる始末だ。
魔王誕生の地といわれる場所だけに、森の奥に住み着いているモンスターはロカルト山系の比でなく、森の深くに入り込めば、規格外なモンスターが住み着いている。
巨人族とも呼ばれる、ジャイアントにギガント。
たった一体で大都市並の大きさがある巨大亀、ヘカトンケイル。
古の魔法使い、賢者のなれの果てである、リッチやエルダーリッチ。
その他多数。
魔の大森林から、騎士爵領側に高位のモンスターが現れることは滅多にないものの、それでも下位のモンスターがあふれ出て、防衛戦が行われることがあった。
俺も生まれてから5年経つので、モンスター相手の防衛戦を何度か経験している。
防衛戦の度に、騎士爵領の住民総出でモンスターとの戦いになった。
そんな数ある戦いの中でも、特に運が悪かった戦いがある。
あれは俺が領地の子供たちと外遊びに出ていた時に、ロカルト山系から降りてきたオーガと遭遇してしまった時だ。
「オ、オーガだ!」
「もうだめだ、お終いだ」
「村が滅ぼされちゃう!」
などなど、オーガと遭遇した時の子供たちの反応は、まさに絶望。
その場にいた子供たちだけでなく、このまま騎士爵領ごと滅びてしまうという悲壮感に満たされていた。
オーガとは、それほどまでに強力なモンスターで、単体で小さな村を滅ぼすなど、朝飯前の強さを持っていた。
もっともこの時は、俺が手に持っていた棒切れで、オーガの頭を消し飛ばしたので事なきを得た。
何しろ俺は、元日本人+元黄金竜だ。
上位神のせいで、人間の姿になっているものの、この世界では一応神の1柱に数えられている存在だ。
前世の黄金竜の力を、扱うことができた。
その力の前では、オーガを相手にするなど、某国民的RPGのレベル99カンスト勇者様が、スライム相手に戦うより簡単な事だ。
まあ、この世界のスライムは、例のRPGと違って強いので、ザコの代名詞扱いはできないが。
俺にとって、オーガなんてただのザコ。
しかしこれが原因で、俺は周りから目立ってしまった。
俺としては、100年くらいは大人しく普通の人間でいようと思ってたのに、子供たちの中で変に目立ってしまった。
幸いなことに、この時は子供たちしかオーガを見ていなかった。
領地の大人たちの間では、オーガは子供の見間違い。
オーガなんて出てこなかったという意見でまとまり、俺の特異な力が、子供以外に知られずに済んだ。
しかし、そんなモンスターパレードなのが、この領地だ。
将来こんなところの領主になっても、何がいいのかまるで分らない。
いいことなんてない、ただひたすら苦行でしかない。
ままだと、俺の将来は領主確定なので、自分の未来を何とかしないといけない。
さらにロカルト山系の向こう側のことだが、王国と国境を接しているデニング帝国という国があり、王国と帝国は軍事衝突を起こして、戦争をしている最中だった。
騎士爵領にも、たまに軍を派遣しろとのお達しがきて、アルセルク騎士爵領軍が編成されて、出兵している。
まあ、騎士爵領軍なんて大層な呼び名だが、実際には5、6人の大人しかいない、領内の農民が戦いに駆り出されるくらいだ。
うちの領地、秘境にあるから当然人口も少ない。
5、6人の働き手を戦に送り込むだけで、精いっぱいなのだ。
しかし、戦争にまで人手を出せと命令されるとか、とことんろくでもない領地だ。
あと、秘境ついでに文明から隔離されてるような場所にあるため、娯楽の類もほぼ皆無だ。
「こんな場所の領主なんて、ただの罰ゲームでしかないな」
俺、領主になりたくないぞ。
なんとしても、将来の領主コースは回避だ。
そんな俺だが、前世日本人だった時の俺の顔と比較すると、今の顔の方が数段グレードが高い気がする。
まだ5歳なので確定できないが、父上と母上の容姿を見ても、将来はそれなりに良くなるはずだ。
「なんとか、将来は領地から出る方法を考えないとな」
こんな罰ゲーム領地の領主にならないで、独立して何とかやっていこう。




