11 冒険者ギルドの受付バ……嬢
この世界には魔王や勇者がいるだけでなく、異世界物ではお約束の、冒険者と冒険者ギルドも存在している。
超ド田舎。辺境中の辺境。
魔の大森林という秘境を抱えている我がアルセルク騎士爵領だが、こんな場所にも一応冒険者ギルドが存在している。
と言っても、ギルドの受付のお姉さんは、御年86歳になる婆さんで、よく銭勘定を間違えている。
間違えたまま、自分の懐の中に銭を滑り込ませているので、絶対わざとやってるな。
ついでに、冒険者ギルドと言うけど、職員は婆さん1人しかいない。
しかも兼業で農家をやっているので、3日に1回開いてることがあるかというレベルの、閑古鳥どころか、ホコリまでたまっている冒険者ギルドだ。
そんな冒険者ギルド目指して、今回領地に3人の冒険者PTがやってきた。
「こんにちは、アルセルク騎士爵領にようこそ。
見たところ冒険者の皆さんのようですが、怪我をしてるみたいですね」
ロカルト山系を突破してやってきた冒険者PTに、俺は愛想よく笑いながら話しかける。
金属の鎧に巨大なハンマーを装備した重戦士。
矢筒を背負った弓使いと思しき男。
そして回復魔法を扱う、ヒーラーの女性だ。
「ああ、ここに来るまでに、ロカルト山系でモンスターに出くわしてな。なんとかここまでたどり着いたものの、御覧の通りボロボロだ」
「す、すみません。私の魔力が途中で尽きたばかりに、回復できなくて……」
アルセルク領にたどり着くためには、モンスターの住み着いているロカルト山系を突破する必要がある。
あの山系では、一度もモンスターに遭遇せずにやり過ごすなんてことは不可能だ。
俺でも、あの山を走り抜けようとすると、目の前に突っ立っているモンスターが邪魔で跳ね飛ばさないと、山越えできないくらいだ。
それはさておき、今はボロボロの冒険者たちの相手だ。
「アイシャ、回復魔法かけてあげて」
「分かりました、クレイ様」
ヒーラーさんの魔力が尽きたせいで、回復できないのでは仕方ない。
俺が回復魔法を教えているアリシャに頼んで、ボロボロの冒険者たちを回復してもらった。
「えっ、ええっ!どうして傷口だけでなく、服の汚れまで落ちていくの。こんな魔法、私知らない」
「おい、汚れだけじゃない。防具の穴まで塞がっていく」
「よ、鎧が新品同然の輝きを取り戻した!」
俺が教えた回復魔法なので、古びたものの原状回復効果も、おまけで付いている。
黄金竜仕様の神の魔法なので、そのくらいできて当然だ。
「あ、あなた様は、きっと王都でも名の知れた高位の聖職者なのですね。
ご尊顔を拝することができ光栄に思います」
回復し終わると、なぜかヒーラーのお姉さんが地面に両足をついて、アイシャを拝み始めた。
ヒーラーというだけあって、回復魔法に詳しいようだ。
「いえ、私はこの領地のただの見習いシスターです。高位の聖職者どころか、正規のシスターにも、まだなってませんよ」
「へっ、嘘でしょう!?」
でも、アイシャの言葉に驚いて、ヒーラーのお姉さんは言葉を詰まらせてしまった。
「まあまあ、小さなことは気にしない。それより冒険者ギルドまで案内しましょうか?
それとも宿屋がいいかな?宿と行っても、ただの空き家だけど」
「いえ、これは小さなことでは……どう見ても高位聖職者、もしかすると聖女クラスの……」
俺としては、アイシャの魔法など小さなこと。
この地の領主の息子らしく、冒険者PTの接待をしようとしたが、ヒーラーのお姉さんは何やら小言で呟いているな。
しかし、そのことに仲間の重戦士は気づいてないようだ。
「まずは、ギルドに案内してくれ。
活動場所を移す際には、報告の義務があるからな」
「分かりました。
おーい、マーサ婆さんを呼んできてくれ。今の時間だと畑で作業してるはずだから、ギルドを開けるように言ってくれー」
俺は近くにいた子供の1人に指示を出し、冒険者PTをギルドに案内することにした。
△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇
「へ、これが冒険者ギルド?ただのボロ小屋じゃ……」
「やかましい、ここがアルセルク領冒険者ギルドじゃ」
さて、俺が案内した冒険者ギルド。
そこはただのボロ小屋だ。
ちょうど畑から戻ってきた受付のマーサ婆さんが、冒険者に対して、凄い剣幕で睨みつけた。
「ひぇっ、ごめんなさい」
そんな婆さんの剣幕に押されて、ヒーラーさんが怯えている。
モンスター相手に戦う商売なのに、そんなに及び腰で大丈夫なのだろうか?
モンスター相手に命がけの戦いをするからには、もっと堂々とした態度をしていないとダメだと思う。
基本、戦いというのは、相手よりこちらがでかいと思わせた方が有利になる。
少なくとも、俺の前世である黄金竜知識では、そうなっている。
もっとも、あれは規格外すぎる化け物なので、上位神以外が相手ならば、この星の全ての生き物相手に勝てる存在だ。
そんなのが、俺の半分と思うと、なんだか微妙な気持になるな。
それはともかく。
「あんたら他所の冒険者だね。この領地で活動するなら、とっととパーティー名を名乗りな!」
年を取っていて、おまけに3日に1度しか開けないギルドだけど、受付の婆さんの頭はしっかりとしていた。
とても80過ぎには見えないな。
「もしかして、おばあ……」
「お嬢さんじゃ」
「へっ?」
「ワシは、ギルドの受付嬢じゃ!」
「「「……」」」
おばあさん扱いされて、婆さんがご立腹になった。
でも、流石にダメだろう。
「婆さん、自分の歳を考えろよ。娘を気取るなら、60年前じゃないと無理だろ」
「領主の所の坊主は黙ってな!」
俺は貴族の跡取り息子で、婆さんはそんな領地の平民。
だけど身分の壁もお構いなしで、婆さんは何が何でも自分のことを、ギルドの受付嬢だと言い張りたいらしい。
「婆さん、やっぱりボケてるな」
「やかましい、ワシはボケ取らんわ!
今でも銭勘定は、銅貨1枚、銭の一銭たりとも間違えたことはないぞ!」
物凄く元気な婆さんだ。
そんな婆さんに俺だけでなく、冒険者PTの3人組も、かなりあきれ果てている。
まあ、こんな婆さん相手だけど、その後冒険者たちは『ゼフィロスの翼』というPT名を名乗った。
「ゼフィロス、西風を意味する言葉かい。御大層な名前だけど、冒険者にしちゃあ、随分と生ぬるいPT名だね」
PT名を名乗っただけなのに、どこまでも口の悪い婆さんだ。




