12 チートな子供たち
今日も今日とて、領地の子供たちは剣士ゴッコをしながら遊んでいる。
家族の手伝いで、ちゃんと畑仕事もしているが、手伝いが終われば、棒切れ片手に遊び始める年頃だ。
今日の遊びは、昨日より少しレベルが高め。
「創竜水破斬」
繰り出す棒切れの槍から、巨大な双頭の水龍が生み出され、空を駆け抜けていく。
ある一定の高さになったところで、地上にある岩に体当たりをし、水でできた竜の体が、岩を呑み込んで破壊する。
「秘天雷鳴偃月天覇斬」
繰り出す木製の偃月刀からは雷鳴が轟き、地上から天空に届く雷の一撃が、岩を真っ二つに切り裂いた。
ただ天まで届く雷のくせに、見た目に反して攻撃範囲が狭い。
過剰エフェクトはやめろ!
格ゲーだと、辺り判定詐欺でネタにされるだけだぞ。
「流星落石多連脚」
そして繰り出す足からの連続蹴りは、足先から衝撃波を生み出し、その先にある地面を破壊していく。
まるで小型の流星雨が落ちたかのように、ボコボコになった地面が作られた。
……昔、黄金竜時代に宇宙空間で使った流星雨魔法がシャレにならなくて、そのうちの1個がこの星に落ちたせいで、恐竜が絶滅した記憶が蘇ってしまった。
「俺は魔法を使えない。使うと世界が滅びる」
滅びるというか、この星の恐竜絶滅させた原因が、俺の前世である黄金竜だ。
俺は二度と魔法を使っちゃダメだ。
魔法は使えない、と改めて思い直した。
「な、なんだこのレベルの技は」
「王都にいた高レベル冒険者PTよりも凄くないか」
「フ、フエエーッ」
子供たちが遊んでいる場所に、冒険者PT、『ゼフィロスの翼』の3人組がやってきた。
3人は、驚きに大きく目を見開いている。
この中で唯一女性であるヒーラーのお姉さんは、口をあんぐりと開け、口の端から涎が垂れかけていた。
妙齢の女性がしていい表情ではない。
アホの子っぽく見えてしまう。
でも、これはこれで可愛いな。
「こんにちは」
そんな3人に、俺は挨拶する。
お姉さんのことは、見て見ぬふりをしておこう。
それが紳士の対応だ。
「おはようございます、貴族の坊ちゃん」
「坊ちゃんは、よしてください」
領で1泊したことで、彼らは俺の身分を知ったようだ。
でも、坊ちゃんはイヤだな。
「クレイって呼んでください。俺の名前です」
「では、クレイ様」
「様もいらないんだけどなー」
「さすがに貴族の若様相手に、それは無理です」
この世界、貴族と平民の身分差というものがある。
秘境にある我がアルセルク領ですら、領民たちは俺や父上のことを、様付で呼んでいる。
「貴族と言っても、王国で最も僻地にいる貴族なんですけどね」
貴族なんて名ばかり。
俺や父上ですら、昼間は領民と同じく、普通に畑仕事をしているくらいだ。
この土地はモンスターの領域に囲まれていて貧しく、貴族であっても畑仕事をしないと生活していけないのだ。
「それでも、貴族は貴族です」
「仕方ないですね」
前世日本人と黄金竜だった俺としては、身分というものを面倒に感じることがある。
日本人的な感性はともかく、黄金竜の考え方だと、
「身分って何?強い奴がトップに立てばいいのよ。弱肉強食よ!」
てな考えで、お終いだ。
竜神様と崇められている神様であるが、所詮はドラゴン。
犬畜生より頭がよくても、脳みそが畜生脳を抜け出していない。
「あと、俺たちは平民なので、敬語は不要です」
「ハーッ、分かったよ」
冒険者に諭されてしまい、俺は仕方なく頷いた。
ところで俺が自己紹介したので、3人組の冒険者の名前も聞いておいた。
ハンマーを使って戦う重戦士が、ハンス。
弓使いが、トリス。
そしてヒーラーのお姉さんは、マリーアントワネットなんとかだ……
「マリーアントワネットスカイレットオードブルメインディッシュアンネローゼハインカサンドラエカテリーナエレクシア……」
「何、その呪文?」
「呪文でなく、私の名前です」
「マジで?」
「マジです」
ヒーラーのお姉さんの名前が、予想以上に怪呪文だった。
「というか、それだけ立派な名前なら、もしかして貴族じゃないの?」
「いいえ、私は平民です。私が生まれた時に、貴族っぽい名前を付けた方が、子供のためになるだろうからって、母にこんな名前を付けられました」
「お気の毒に」
「フエエーッ」
俺も前世のせいでかなりぶっ飛んでいるが、世の中には違う意味で、ぶっ飛んだことを考え付く親がいるもんだな。
絶対に子供につけていい、呪文じゃないぞ。
「長いので、マリーでいいよな」
「はい、皆からもマリーって呼ばれてます」
というわけで、ヒーラーのお姉さんは、マリーと呼ぶことで決定した。
「……というか、もしかしてあの長い呪文を、全部記憶してるのか?」
「はい、私の名前はちゃんと記憶してますよ。
マリーアントワネットスカイレットオードブルメインディッチュッ……うっ、舌を噛んだ」
ヒーラーのお姉さんはドジっ子か、アホの子属性持ちだな。
俺の中で、そういう印象が出来上がった。
抜けてる女性というのは、可愛いものだ。
これがローズ婆さん辺りだったら、可愛いなどとは、欠片も思わないな。
「ところでクレイ様、ひとつお聞きしたいことがあるのですが?」
「聞きたいこと?」
冒険者PTのリーダーは、重戦士のハンス。
そんな彼が改まった態度で、尋ねてきた。
心当たりのない俺は首をかしげる。
そんな俺たちの前では、村の子供たちのチャンバラごっこが白熱していて、今は総勢20人の子供たち遊んでいる。
地上から5メートル程度の高さまでジャンプして、互いに棒でできた剣や槍、偃月刀、その他さまざまな武器を振り回して、戦いゴッコをしている。
たまに魔法の効果で、雷や氷の礫が飛び交い、炎が舞い上がったりするが、どれもこれも子供らしい可愛い遊びだ。
ゲームに出てくるエフェクトみたいで、見ていて微笑ましい。
「なんで、この村の子供たちって、こんなに強いんですか?というか、本当に人間?」
「失礼な、人間だ」
ハンスは、何を言ってるんだ?
目の前で微笑ましく遊んでいる子供たちが人間に見えないなんて、心が酷く淀んでいるんじゃないか?
こいつの精神がまともなのかと、疑いたくなってしまう。
ドラゴンのガキだと、5メートルどころか、空を飛びながらブレスを吐いて、じゃれ合ってるんだけどな。
「いや、普通の子供は魔法を連発しながら、空中5メートルの高さを飛び回って戦いませんよ。そもそもそんなことはできません。絶対に!」
「そうか?」
「そうです。というか、冒険者である俺たちにもできない!」
ハンスの心が淀んでいると思う俺は、他の2人に視線を向けた。
「ムリムリ、王都にいる上位冒険者ならできるかもしれないが、こんな戦い方は中堅の冒険者でも無理だ……無理です」
「フ、フエエーン」
弓遣いトリスには無理だと断言され、マリーお姉さんは涙目になっている。
もしかして涙目になっている理由は、子供たちのことを、モンスターが人間に化けているとか、思ってないよな?
「ほら、この領地ってモンスターの領域に囲まれてるから、子供でも強くないと生きてけないから」
「本当に?」
「本当本当っ」
ハンス含めて、冒険者3人組は疑り深い目を俺に向けてくる。
だけど、この領地はモンスターの侵入が多いので、子供であっても強くないと生きていけないのは、本当の話だ。
間違っても、
『どこかの前世黄金竜の知識を持ったバカが、ドラゴンの血液入りの不老不死の薬を子供たちに与えた副作用で、ほんのちょびっと身体能力が黄金竜寄りになってしまったのが原因』
なんて事実はない。
俺は、そう断言できる!
『……ダメだ、こいつ』
俺の中にある元日本人の前世が何か言った気がするが、俺はその意見を無視だ。
既に何度もやらかしている俺は、自分に不都合な事実は、なかった事にする主義なんだよ!




