零 燎原の火
初投稿です。よろしくお願いします。
葉というのは、宙を舞っているときしか、その存在を認知されることがない。
木の一部として茂らせるとき。人の足の下、絨毯となり、そっと今に在るとき。
どれもこれも、一枚の葉としては、生きる者の眼の中で存在できない。
人もまた、輝かしい時間はすぐに過ぎ去っていくもの。その一生のほとんどは、木の、現世のたった一枚として、淡々と生きるのみ。
そんな、愚かで、酷く残酷な、安らぎの時間はもう、宙を舞う者には訪れない。
一枚になってしまった葉には。
―― 昔語りをしようか。
水面じゃ太平、この江戸の世。日本一の港、大坂、南方。ある姉妹がいた。
「お姉ちゃん、頬に米粒付いてるよ?」
「…… 本当、だ。あり、が」
真の意味で訪れる災厄を、予兆できる者なんていない。もちろん、この姉妹も。
さあ、風よ吹け。
樹冠を形作る、葉の一枚であった時は、もう過ぎた。
奪えよ命。
今日この日。今。宝永四年。ある秋の未の刻。
大地を揺るがし、全てを崩し、焔と波に呑まれ朽ちよ。
二つの命が、草葉の陰に消えて逝く。
そう、これが、物語の始まり。
― ― ―
音、おと。焔と水の音が同時に響く。
ただの燃え盛る木屑の塊となった家。
まだ燃えていない森の方に、少女が一人。
その対岸、焔の中に、二人。少女の両親がいた。
「琴葉、逃げろ!」
母は息も絶え絶えだ。煙を吸ってしまい、動けそうにない。
少女は、必死に焔の中へ手を伸ばす。だが、手は空を切り、愛する両親へ届くことはない。
「嫌…… !」
両親の背後にはもう、濁浪が迫ってきている。
津波火災。その文字が少女の頭をよぎる。
「生きな、さい、琴葉!」
嗚呼、何刻か前まで、ただ平和で暖かな食事をしていたのに。
何故、何故、こんなことに。
少女は夢だと思いたかった。
もう、不幸に苛まれることなんてないと思っていたから。
「あおはを、たの、むわ…… 」
しかし、これは、紛れもなく現実。
少女には使命があった。
残された、たった一人の妹を、守らなくてはいけなかった。
それは、呪いに近い、自分自身に対する威迫として、少女の心の中にいつまでも在る。
一歩、また一歩と。後ろへ。
知っている。この光景が、忘れられなくなることぐらい。脳裏に染みつき続けることぐらい。
「大切な娘たちよ。生きてくれ!」
焔は頻波に呑まれた。
大量の水の中から、絹を切り裂くような声が、響いた。
少女は背を向けた。
走り出した。
いや、逃げ出した。
― ― ―
本当は、琴葉はずっと死にたかった。
初投稿から1週間近くは毎日、普段は毎週木曜、七時半に載せていきます。ひとまず、自分で思う一巻までは載せて、その続きは読者様方からの熱い応援があれば書きます。具体的な数字は後ほど出します。
コンテストに出す作品を同時並行で書いているので、そちらの方を載せるようになるかもしれませんが……
姉妹の旅に、今しばらくお付き合いくださいませ。




