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これからの時間

 そうと決めた自分はまず流行をチェックしたり、家の負担にならない程度にファッションを楽しんだ。

 これまでは少しでも彼の役に立とうと家の事を切り盛りしたり、領地経営の勉強をしていたから自分の為だけの時間が全く無かったのだ。


 仕事絡みではない純粋な娯楽ってやっぱり楽しい。勿論夫人としての仕事を怠けるつもりは無いし、今まで働き詰めだったからか、この変化には使用人達も喜んでくれていた。

 気持ちの明るさが表情にも出るようになったのか、久しぶりに友人に会うと「何か良い事でもあった?」と尋ねられた。

 

「もしかしてエリック様との仲が上手くいくようになったの?」


 やっとか、という顔をする友人の期待に沿えず申し訳ないが、ここは正直に首を横に振る。


「ううん、その逆。彼に期待するのをやめたの」


 そう言った途端、友人の表情が曇り始める。思えば彼女には随分と世話になってしまっていた。

 自分のエリックへの気持ちを知っているのは、家族と目の前にいるセシリアくらいだ。彼の素っ気ない態度に心が折れそうになるたびにセシリアの胸で泣いた事がある。


「そう……。私からは何も言えないわ……。だって辛そうにしてるスカーレットを何度も見たから……」


 安易に諦めるなとは言わない友人の気遣いが嬉しい。スカーレットは気を落とさないように、との意味を込めてセシリアの手を握る。

 

「そんな顔しないで。そのおかげでとっても楽になれたんだから」


 期待をしないから心穏やかでいられるし、夫との間に会話が一切無くともちっとも気不味くならない。

 嫌われていても暴力を振るわれている訳ではないし、この恋心は墓まで胸に仕舞っておくべきだ。せめて潔ければ少しでも彼の中の印象も変わるかもしれない。

 

「だから時が来たら、見苦しくならないようにスパッと離婚した方が自分の為でもあるのよ」


 諦めも案外悪いものではないと説明すれば、セシリアは複雑そうな表情ながらも一応納得はしてくれた。

 

「ねぇ、離婚後のあてはあるの?」

「え?」


 今後の身の振り方を問われ、スカーレットは考え込む。離婚まであと1年を切っでいるんだから、今後の身の振り方を考えるのも確かに大事だ。

 

「そうねぇ……。再婚するにも訳アリばかりになりそうだし、巫女にでもなろうかしら?」


 この場合の巫女とは神殿に勤めている女性の事を指す。

 主な業務内容は神官の補佐や雑用だが、特に幼少から読み書きや簡単な計算、ある程度の知識やマナーを教わる貴族女性は、即戦力となり給金もそれなりにもらえる。


 未婚だったり、事情があって働かなければならなくなった貴族女性にとっての貴重な働き先だ。巫女となって神や人々に奉仕すれば体面も保てるし、親も嫌な顔はしない筈である。


 至極妥当な手なのだが、それを聞いたセシリアは何故かうんうんと唸った後、突然決意を秘めた目になった。

 

「決めた!私、頑張ってスカーレットに相応しい人を見つけるから!」


 スカーレットはポカンとしてしまった。気持ちは嬉しいが、周りで年齢が近くて釣り合うような人はみんな結婚してしまっている。そんな中から妥当な人を見つけるのは至難の業だ。

 

「今更無理よ。同世代で家柄が釣り合う人はもういないでしょうし、かなり年上か年下かになるわよ?」

「それはこの国ででしょう?私の夫は隣国の知り合いも多いし、相談してみるわ!それに再婚が嫌なら、いろんな人と知り合って生きていく手段を見つけるのも手よ!」


 再婚には乗り気にはなれなかったスカーレットだが、人脈作りという言葉はストンと胸に落ちた。元々人と話をしたり交渉をするのは好きな方だし、人との繋がりを経て領地経営が上手くいった時などは達成感もひとしおだ。


 バリバリと仕事をこなす自分の姿を想像してみる。……うん、悪くはない。数は少ないけれど独身でも事業で成功している女性もいるし、自分もその輪に入れてもらえるように努力すれば、違う形にはなるけどきっと親孝行にもなる。

 

 それに事業が成功すれば、いつか自分が引退する際はいつか生まれてくるかもしれない甥や姪のうちの誰かを跡継ぎに出来る。

 この国の法律では家督を継ぐのは長男が優先だ。つまり長男が後を継いだら、次男以降は自分で食べていく術を見つけなければならない。それらが最初から用意されているならきっと助かる筈だ。


 勿論上手くいかなければ借金を抱えてしまう結果になるが、信用出来るプロを雇って堅実に進めていけば、そう悪くはならないだろう。


「そうね……。折角なら事業とかしてみたいわ」


 どうせなら以前から興味を持っていた分野に挑戦したい。気が付けばスカーレットは自分の願望を口に出していた。セシリアは「そうでなくちゃ!」と満足そうに頷く。


 なんだかエリックに期待しなくなってから、将来が楽しくなってきたような気がしてくる。

 もし仕事一辺倒の生活になれば両親に孫の顔は見せてあげられないが、そこは弟達がどうにかしてくれるだろう。

 

「白い結婚で同情している人は多いし、ずっと領地経営の勉強をしてきたんでしょう?だったらきっと両方の意味で引く手数多よ!」


 両方の意味、の部分を敢えて聞き流したスカーレットは次の日から早速動き始めた。

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