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絆のトレーニングノート:始まりの春、強さの種  作者: たまに何かを書く人
【第2章】初レースと手にした自信
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第二節 結果と、わたしの答え

金曜日の午後、6時間目。


体育の先生が教室に入ってくると、生徒たちの視線が一斉に集まり、教室がざわめいた。


「体力テストの結果、返しまーす!」


さちは、胸の奥で小さく鼓動が高鳴るのを感じた。数日前、全力を出し切ったあの日。筋肉痛が何日も続いたけれど、それさえ少し誇らしかった。


配られた紙を、そっとめくる。


「……B」


ほんの少し、肩が落ちた。でも、すぐに思い出す。最後まで走って、起き上がって、握って、跳んだ自分の姿を。


(Aじゃなかった。でも、逃げなかった)


「わたし、ちゃんとやったよね」


隣の席で、ハルとユキが紙をのぞき込んできた。


「おっ、私たちもBだったー!」


「やっぱAは難しいね。でも、Bって“優れてる”の評価だよ?」


さちは少し驚いたように言った。


「えっ、ふたりでもBなの?」


「そりゃそうよ! Aは一部のスーパー中学生とかでしょ? Bは十分立派な結果だよ」


ユキが穏やかに笑って言った。


「……なんだ。じゃあ、Bのわたしたちって、めっちゃいいチームじゃん」


三人は目を見合わせて、同時に笑った。


家に帰ると、リビングには母・真由美の姿があった。今日は少し早く帰ってきたらしい。


「おかえり、さち。……体力テストの結果、出た?」


「……うん、Bだった」


真由美は少し目を見開き、やがてやさしくうなずいた。


「そう……がんばったんだね」


「うん。すごく。全部、全力でやったの」


さちの声には、迷いがなかった。


真由美は立ち上がり、そっと娘の頭に手を置いて言った。


「ありがとう。がんばってくれて、ありがとうね」


その言葉が胸に染みて、さちはほんの少しだけ涙をこぼした。


「ねえ、ママ。明日も、トレーニングしていい?」


真由美はにっこりと微笑んで答えた。


「もちろん。あなたがやりたいなら、何度でも」


その夜、ハルとユキの家でも、ふたりは結果を見せながら両親に報告していた。


「Bだったよ。でも、あとちょっとでAだったんだ」


「ねえ、パパ、ママ。わたしたち、どうだったと思う?」


「……最高だったと思うわよ」母・あかねが言った。


「それに、最近ふたりが努力してる姿を見て、僕たちも夜にウォーキングを始めたんだ」と父・たくみが笑う。


「えっ、ほんと?」


「うん。きっと、君たちに影響されたんだよ」


家族全員で笑い合う、そんなひとときが、ふたりにとっては何よりもうれしかった。


***


その夜、さちのノートに新しいページが増えた。



体力テスト結果:B判定

でも、最高の“成長”があった。



ページの端には、三人で考えた次のテーマが書かれている。


「この夏、スイミングで50mを楽に泳ぎきる!」


また、新しい挑戦が始まろうとしていた。


挿絵(By みてみん)

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