第四節 風を切って、前へ
冬の空気はまだ鋭く、地面からの冷気が足元にまとわりつく。
それでも、4人の足取りは軽やかだった。
——マラソン大会まで、あと2週間。
リンの家のトレーニングルームでは、トレノの練習メニューに「ラン」が加わっていた。
「スイミングで鍛えた体幹と呼吸、走るときにも活きるって本当だね」
ハルが息を整えながら言う。
「うん。でも、筋肉だけじゃなくて、持久力も必要だし……走るって、シンプルだけど奥が深いよね」
ユキは頷き、手元のストップウォッチにラップタイムを記録する。
「私はまだ、スピードよりもフォームを大事にしてるかな。無理せず走るの、難しいけど楽しい」
さちは柔らかく笑った。
「I like it! 特に風を感じるときの feeling! なんか、飛んでるみたい!」
頬を赤らめたリンの瞳は、きらきらと輝いていた。
日々、学校が終わるとスイミングの練習、そしてリンの家での筋トレとランニング。
1月の寒空の下を駆ける彼女たちの姿は、冬の街の中に新しい風景を描いていた。
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そして迎えた大会当日。1月最後の日曜日。
会場は大きな公園と周辺の道路を使ったコースで、晴れ渡った空の下に多くの人が集まっていた。
「うわぁ、人がいっぱい……」
少し緊張した声で、さちがつぶやく。
「だいじょーぶ! 今までの練習を思い出して!」
ハルが笑いながら背中を軽く叩いた。
「みんなで走れるの、楽しもう」
ユキの穏やかな声が、さちの心を落ち着かせる。
「Let’s do our best! Team トレノ、go go!」
リンの明るい掛け声に、4人は拳を合わせた。
さち・ハル・ユキはスイミングスクール枠での出場。リンは個人エントリーとして、別の列に並ぶ。
「またゴールで会おうね!」
スターターの合図が鳴る。
パンッ!
一斉に飛び出すランナーたち。
冷たい空気を切り裂いて、4人もそれぞれのペースで走り出した。
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2kmの道のり。
短くても、これまでの努力を込めた、大切な挑戦。
さちは最初こそ緊張していたが、沿道からの声援が背中を押してくれた。
やがて表情が和らぎ、足取りが軽くなっていく。
(今、走ってる。ひとりじゃない)
前を駆けるハルの背中。リズムを合わせるように並ぶユキ。少し離れた場所にも、気持ちでつながるリン。
そして、ゴールが見えた。
ゴール直前——4人の視線が、一瞬だけ交差する。
「いっけーーーっ!!」
ハルの叫びに、最後の力を込めてスパートをかけた。
4人は、それぞれのタイミングでゴールテープを切った。
順位やタイムよりも、「走りきった」という達成感が胸に広がる。
「やった……」
さちは両膝に手をつき、大きく息を吐いてから、笑った。
「うん、ちゃんと走れたね」
ユキが静かに微笑む。
「わたし、次はもっと速くなりたいな!」
リンがスキップしながら声を弾ませる。
「私たち、泳げて走れるチームになったね」
ハルの言葉に、全員が大きくうなずいた。
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この日、4人はまたひとつ、“絆”の形を作りあげた。
風を切って走ったその道は、確かに彼女たちを、ひとつに結びつけていた。




