第三節 仲間からのギフト
12月初旬。
朝の空気は一段と冷たくなり、吐く息が白くふくらむ季節。市の水泳大会まで、残りわずかとなったある日。
放課後、スイミングスクールでの練習を終えたさちは、いつものようにジムでのトレーニングに合流した。汗をぬぐいながらも、表情にはいつも以上に緊張がにじんでいた。
「ねえ、さち」
ユキが、ストレッチをしながらふと口を開く。
「……最近、ちょっと顔がこわばってない?」
「うん。がんばってるのはわかるけど……少し、肩に力入りすぎてるかも」
ハルもやさしく声をかける。
「うーん……自分じゃあんまり分かんないけど……そう見えるなら、たぶんそうかも」
「大会、近いからね」
リンがうなずきながら言った。
「プレッシャーって、自分じゃ気づかなくても、体に出るから。でも、それって本気で向き合ってる証拠だよ」
「……そうだよね」
さちは苦笑いを浮かべて、少しだけうつむいた。
「でもね……今、ここまで来て、思うの。絶対、あの日の私じゃできなかったって。やっと、自分で“出たい”って思えるようになったのに、変に力が入ってたらもったいないよね」
「そうそう!」とハルが声を弾ませる。
「だからね……私たちから、さちにプレゼントがあるの」
「え?」
ユキがそっと、紙袋を手渡した。
「え、なにこれ……?」
袋の中には、小さなペンダントが入っていた。銀色の丸いトップに、さちの名前の頭文字“S”が刻まれている。
「これ……」
「この前の校外学習の時、ペンダント作ったじゃん? あれと同じ素材で、特別にもう一つ、お願いして作ってもらったんだ」
「4人で相談して、“がんばるさちへの応援バッジ”にしようって」
「大会当日、これをポケットに入れてて。泳ぐときは邪魔しないように外してもらっていいけど、スタート前とか、不安なときにちょっと触るだけで、私たちの声、思い出せるようにって」
さちはペンダントを手に取り、そっと握りしめた。
「……ありがとう。ほんとに、ありがとう」
目元が少し潤んだ。だけど、その瞳には決意が宿っていた。
「がんばる。みんなの応援、胸に抱いて。わたし、自分の力で泳ぎ切ってみせる」
「うん、私たち、どこにいても“Team トレノ”だよ!」
「Go,さち!」
「Swim with heart!」
その夜、4人はいつもより長くトレーニングを続けた。
汗を流し、息を切らしながらも、心のなかに灯った小さな火は、凍えるような外の風を吹き飛ばすように、静かに燃えていた。




