第一節 支え合ってきた証
「次、ラスト50メートル全力! ……よし、スタート!」
夏の日差しがまだ残る夕方。
スイミングスクールの屋内プールには、バシャッという水音がリズムのように響いていた。
全国大会を目前に控えたハルとユキ、そして先日の市大会で自己ベストを更新したばかりのさち。
三人は練習を終えると、タオルを肩にかけながら並んで歩いていた。
「今日のスイム、しんどかったぁ……」
「うん。でも内容は前よりハードだったのに、ちゃんと泳ぎきれてた」
「みんな、本当に強くなったよね」
そう言い合いながら、三人はハルとユキの家へと向かう。
夕暮れの空気の中に、遠くでセミの声が響いていた。
玄関を開けると、ふわっとやさしい匂いが漂ってきた。
リビングには見慣れないシルエット――
「……あっ、お母さん!?」
ソファに座っていたのは、さちの母・真由美だった。
その隣に、ハルとユキの両親であるたくみとあかねが並び、湯のみを手に和やかに話している。
「おかえり。お邪魔してます」
「こんにちは、さちちゃん!」
少し照れくさそうにしながらも、さちは母の隣に座った。
「今日はちょっと時間ができたので、ご挨拶にと思って……。さちから、いつもお世話になってるって聞いていたから」
あかねが微笑みながらうなずいた。
「いえいえ、こちらこそ。さちちゃんが一緒にがんばってくれるから、うちの子たちもすごく刺激を受けてるんですよ」
「そうそう。市大会のタイム、見ましたよ。“勝負できる体になってきた”って、コーチも褒めてました」
真由美は、驚いたようにさちのほうを見つめた。
「……さちが、“最後までやりきる子”になるなんて、正直、想像してなかったんです」
「小さい頃は、何をやってもすぐに飽きちゃう子で。でも、ハルちゃんとユキちゃんと出会って、本当に変わりました」
目にうっすらと涙を浮かべながら、真由美は言葉をつないだ。
「ありがとうございます。さちに……“きっかけ”をくれて。これからも、どうかよろしくお願いします」
たくみとあかねは、静かに、しかし力強くうなずいた。
「もちろんですとも。三人は、もう家族みたいなものですから!」
部屋には、あたたかな笑いが広がった。
やがて、さちは立ち上がり、ハルとユキに視線を送った。
「……じゃあ、行こっか。トレーニング」
「うん、メニュー更新したし」
「今日のは気合い入るよ!」
三人は自分たちの部屋に移動し、トレーニングウェアに着替えた。
すると――ハルがふと、さちの姿に目をとめる。
「さち、ほんとに変わったね。腕も引き締まってきたし……お腹まわりも、ちゃんと仕上がってる感じ」
ユキもそばに寄って笑った。
「背中、すごくきれいなラインになってきてるよ。きっとキックにすごく効いてくる」
「ふたりこそ、肩まわりの厚み……ほんと、全国の選手っぽいよね」
積み重ねてきた日々の証が、今ではしっかりと体に刻まれていた。
「じゃあ、記録と一緒に、“今の私たち”も記録しよう」
ホワイトボードの隅に、今日のメニューが書き加えられる。
⸻
・スクワット 60回
・プランク 45秒×2セット
・チューブを使ったインナー強化
・バランスボールで体幹固定
・腹筋ローラー×15
・スタートジャンプ練習(3セット)
⸻
「さあ、行こう! 全国の舞台に向かって!」
「そして、その先の私たちの未来に向かって!」
「うん、ここからが本番だよね!」
三人の声は、夏の夜風の中へ、まっすぐに響いていった。




