私の大切な友人
私は近くの机の上に置いてあったハサミを手に取り、自分の髪をひと房掴んで切った。
ハラリと髪が床に落ちる。
貴族令嬢が髪を切ることは美しさに欠けるとこの国ではいわれている。
私も幼い頃から長く伸ばした髪を手入れしてきた。王子の婚約者だから常に美しくあるように、気品がある佇まいをするように、そう教えられてきた。
私も今までそれに従ってきた。
だけどもう良い。
私の目的は王妃になることでも、優秀な令嬢になることでも何でもない。
ただ目の前にいる私の憧れの人の幸せをねがうことだけ。
「あああ、あなた!何してるのよ!貴族令嬢が自分の髪をそんなふうにして!!ふざけてるの!そんなことしたらあなたは…!」
包まっていた毛布からガバッと出て、ベッドから出て来たアマリアは青い顔をしながら慌てて言う。
そんな彼女に私はあっさりと答える。
「大したことないわ。ただ髪切ったぐらいで」
「何呑気なこと言ってるのですか!そんなことしたらあなた周りから正気なのかって疑われてしまいますよ!」
「構わないわ。それに覚悟を見せろって言ったのはあなたじゃない」
アマリアは私の言葉にぐっと押し黙る。
それに対して私は言葉を続けた。
「私はあなたに言われたとおりに自分で行動を示した。あなたの誤解を解きたかったから」
「ど、どうして…そこまで私に構うのですか…?私はあなたの婚約者を奪おうとした。いわゆる悪女なんですよ。あなたがいるのにも関わらず、わざとユーリ様に毎日のように一緒にいたし、困っているフリして何度もユーリ様を頼った。そんな私にあなたが私を気に掛ける必要なんて、これっぽっちもない。そうでしょう?」
「でも、それってアマリアさんはユーリ様のことを本気で好きだったからよね」
「えっ…?」
私の言葉にアマリアは驚いたように顔をあげた。
「だってそうでしょう。アマリアさんは毎日髪だって可愛くセットして、制服だってほんの目立たないところに自分なりのお洒落を取り入れている。特に服の袖のちょっとしたところに手作りのレースを入れてる。ユーリ様のことだって、アプローチしてはいけない規則なんて無いもの。それのどこが悪女なの?」
そうだ。
彼女は自分磨きに余念を欠かさない。
可愛くなる為の努力は惜しまない。
そんな人なんだ。
私がこの世界で彼女と出会った時、それは変わらなかった。
小説の中でアマリアは内気で努力家だったけれど、この世界での彼女は恋愛に対して積極的。
確かに公衆の面前で婚約者がいる王子相手に甘えたり、頼りすぎるのは他の女子生徒から反感を買ってしまうけれど、それでも彼女は自分を磨為の努力と彼女に親切にする相手に優しく接していた。
計算高く無い。
裏表が無く、素直な態度で。
そんな彼女だからこそ、私は応援したくなった。
「そんなこと生まれて初めて言われたわ。あなたは私のことが嫌いにならないの…?こんなにも私は自分勝手な人間なのに」
「そんなの誰だってあるでしょう。私は影でコソコソ人の悪口言って嫌がらせするよりも、自分の芯を強く持っているあなたが魅力的だと思うけど?」
私の言葉にアマリアは大きく目を見開いた。
そんな彼女に私は手を差し伸ばす。
「私、あなたの友達やめないから。だってあなたのこと好きなんだもん」
笑って今の気持ちを彼女にぶつける。
この気持ちは嘘、偽りない私の本音。
アマリアは一瞬、驚いたような表情をしたあと、ふふっと笑った。
「あなたって変わってるのですね」
そう言って彼女は私の手を取ったのだった。




