魔物
「そんなに気を落とすことないですよ。 まだ追試になると決まったわけではないでしょう?」
「ううう••••••」
ヨハンナは誰にも見つからないよう木陰に身を隠しながらメソメソ泣いていた。
「なにも泣かなくっても•••。 誰にだって失敗はありますから」
「ううう〜。 そういう問題じゃないんですぅ。 あんな失態を晒してしまっては、恥ずかしくてもう学園には来られません!」
この学園では生活魔法は主に女子生徒が専攻し、男子生徒は剣術や攻撃魔法などを専攻することになっている。
そして今日は火を起こす、水を出す等の簡単な生活魔法の試験だった。
中庭でグループごとに順に魔法を披露する形式で、ヨハンナは1番初めのグループだった。
同じグループの生徒が教員の掛け声に合わせて次々に火や水を出していくなか、ヨハンナだけが火も水も出せなかった。
というか、全く違う物を出してしまった。
ヨハンナが呪文を唱えると彼女の足元から地面を伝って一斉に魔力が拡散し、周囲の草花や木が物凄いスピードで成長していったのだ。
ヨハンナの周囲は草木が生い茂りまるでジャングルのようになった。
そして足元から生えてきた木に服を引っ掛けられそのまま上に引き上げられて、最終的には大きな木に吊るされた状態になった。
周囲は急な出来事にぽかーんとし、ヨハンナは宙で半泣き。
私は恥ずかしさに耳まで真っ赤に染めたヨハンナを抱え、そのまま別棟の校舎裏まで転移してきたというわけだ。
それにしてもヨハンナのあの魔法はなんなのだろう。
植物がありえない速度で急成長していたが、ここから見る限り彼女が居なくなった後も植物はその状態を保っている。
ということは、彼女の魔力は抜群に効きの良い肥料の様なものなのだろうか。
通常は時間の経過や魔力を使用した者がその場を離れることで魔法の効果は消えるが、彼女の魔法に関してはそういったことは見受けられない。
もしかしたら彼女はすごい才能の持ち主なのかもしれない。
彼女の力があれば豊作間違いなし。
農家の負担はぐっと軽くなり、不作や食糧不足も解決するかもしれない。
いつまでもメソメソしている彼女を尻目にそんなことを考えていた。
その時、別棟校舎3階からドカーンと何かが崩れるような音が聞こえた。
続いていくつもの悲鳴が響き渡り、別棟校舎から本棟へ向かい大勢の人が一斉に逃げて行くのが見える。
3階で何かあったのか?
下から中の様子を見るが砂埃でよく見えない。
しかし中で何かが動いているのがわかった。
「あ•••あれは•••!?」
ヨハンナが息を飲む。
その瞬間すぐに私はヨハンナを連れて学園の外へ転移した。
「いっ今のは魔物ですよね!? ねぇ!? 見間違いじゃないですよね!?」
「あれは本物の魔物です。 でもどうして魔物が学園内に入ってこれたんだろう? 確か学園の敷地内には対魔物用の結界が張られていたはず」
そこで、あっと何かを思い出したヨハンナが言うには、学園には訓練用の魔物が飼われていて普段は安全のために別棟で管理されているということ。
訓練用なので凶暴性や攻撃力は低く改良されているらしいが、何かの原因で檻から逃げ出してしまったのだろうか。
「みんなさらに強い結果が張られている本棟の方に逃げて行ったから•••きっと大丈夫ですよね」
本棟の方を見ながらヨハンナは他の生徒の身を案じた。
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