本物の聖女様
しばらくすると応援に来た騎士団が学園に到着し、続々と本棟へ向かって行った。
王族や貴族が通っている学園の緊急事態というだけあって派遣された騎士団の数は多かった。
やはり男性団員ばかりだが皆一様に腕の立つ騎士であろうことは遠目で見てもわかる。
そうして羨望の眼差しで見ている中に見知った顔を見付けた。
長身で黒髪の涼しい目。 あれは•••
「カイ!? カイじゃないか!? 」
突然の出来事に思わず大きな声を出してしまい、慌てて口を抑える。
どうしてこんな所に? というかなぜ隣国の騎士団に混ざっているんだ?
「ああっあの方! 前に私が転んだ時に助けてくださった方ですよ! そっかぁ、騎士団の方だったのね。 あの方がライラ様が探してたハンカチの方ですよね?」
隣でヨハンナが気付き大きく手を振ると、それに気付いたカイが驚いた表情で列を抜け出してこちらへやって来た。
「誰かと思えばライラお嬢様じゃないですか! 今までどこに行ってたんですか? 僕が休暇から戻った時には屋敷を出て行ったっていうから心配してたんですよ!」
「いや、ちょっと色々あって•••」
「でもどうしてこんな所に? ダニエルさんも心配してたんですよ。 新しい領主のルーカス様はどうにも横柄な方なんで僕も仕事を辞めてこっちに戻ってきたところなんですが•••」
いつもあっけらかんとしているカイが珍しく怒っているので、こちらも色々聞きたいことがあるのに調子が狂う。
「そういえばそちらのご令嬢はコンティオラ子爵の?」
「ヨハンナ・コンティオラと申します。 以前怪我をした際に助けていただいたのですが、覚えてらっしゃいますか? あの節はありがとうございました。 何かお礼をしたいとずっと思っていましたの」
ヨハンナがにっこり微笑むとつられてカイも優しく微笑んだ。
カイってば、こんなに優しい顔をする奴なんだな。
「コンティオラ子爵の事は噂で聞いております。 私もヨハンナ様とはじっくりお話ししてみたいと思っていました。 しかし残念ながら今は時間がないのでまた後ほど」
「もういいだろう、仕事に戻れっ」
二人の会話とカイの余所行きの態度にイライラしてしまい、つい邪険なことを言ってカイを追い払ってしまった。
そもそも私はどうしてイラついているんだろう。
それから無事に魔物は捕らえられ、本棟に避難していた生徒や職員達が外へ救出された。
その中には第一王太子のエリオットと婚約者ディオーナの姿もあった。
しかし何だか二人の様子がおかしい。
ディオーナはきょろきょろと辺りを見回して誰かを探しているようだ。
エリオットはというとディオーナに支えられるように歩いていて、顔色も良くないように見える。
また何か言いがかりをつけられたらたまったもんではないので、私とヨハンナは二人に気付かぬふりをしてさっさと帰ろうとする。
が。しかし、ディオーナがこちらを見つけた途端にエリオットを置いて全速力でこちらにやって来た。
ま、まずい。 また何か言われの無い罪を着せられる!?
私はいつでも逃げられるように、ヨハンナの手を掴む。
「お願い、助けて」
ディオーナの口からは予想外の言葉が出てきた。
「えっ?」
ディオーナは周囲の目を気にしているのか、再度小声で話をする。
「お願い、助けて欲しいの。 エリオット様が•••エリオット様がぁっ•••」
泣きそうになるのを必死で堪えている。
只事では無いとディオーナに連れられてエリオットの所へ行くと逃げた際に魔物の毒にやられたようで、顔色が悪く今にも倒れそうな所を必死で堪えている。
「これは早く王宮に戻って治療してもらわないと! 今すぐ私が転移魔法で連れて行きましょう!」
しかしエリオットとディオーナはそれを頑なに拒んだ。
「魔物の毒を治療出来るのは聖女の力のみなのです。 ですから王宮に戻っても誰も兄さんの治療を出来る者はいません。 ディオーナ様。 あなたが聖女なら兄さんを助けられるはずだ」
「クラース! お前、聞いていたのか•••」
エリオットの顔に焦りが見える。
「今までこのような事態のために他国の聖女が作った薬を高値で買って国で管理していたんだけど、あの流行り病の時に薬を使い切ってしまってね。 それでも我が国にもディオーナ様という聖女が現れたから大丈夫だと思っていたら、あのハーブティーを作ることで力を使い果たしてしまったと言うもんでね。 慌てて薬を買い付けに走ったんだけどまだ間に合っていないんだ•••。 だから、兄さんが助かるにはディオーナ様が聖女の力を復活させるしかないよ」
「•••違うのよ」
俯いたディオーナが肩を震わせながら絞り出すように言う。
「違うのよ! 私は聖女なんかじゃないの!! エリオット様と結婚したかったから、聖女だなんて嘘をついたのよ! でもヨハンナが•••本物の聖女が現れちゃったから、私が偽物だってバレちゃうじゃない。 偽物とわかればエリオット様とは一緒に居られなくなる•••だからヨハンナが居なくなればって、色々その•••酷い事をしたわ。 •••ごめんなさい」
なんだか話が飛躍しすぎていてよくわからないが、要はディオーナは聖女ではなくてヨハンナが聖女ってことなのか?
そういえばあのハーブティーはヨハンナとスヴィーで作った物だ。
そしてディオーナもハーブティーを作っていたと聞いた。
スヴィーもディオーナも聖女ではないなら、ヨハンナが聖女と考えるのが自然だ。
皆の視線がヨハンナに集まるなかきょとんとするヨハンナ。
本人には力の自覚がないのかもしれない。 生活魔法の試験の時のように。
「あのぉ•••。 何か勘違いされているようですが、私は聖女様なんかではありませんよ?」
「そんな意地悪な嘘を言わないで!! 今まで本当に悪かったわ。 他の令嬢を使って嫌がらせしたりして•••。 私は王を欺いた罪で捕まっても構わないからっ••••••だからっエリオット様を助けてちょうだい!!」
ディオーナの悲痛な叫びが周囲に響き渡る。
その時。
「申し訳ございませーーーーーーん!!!!」
サウル様が息を切らして走って来たかと思えば、そのまま流れるように土下座した。
全速力で走って来たのだろう、肩で息をしながらゼーハー言っている。
「エリオット様! クラース様! 大変申し訳ございませんっっ!!」
サウル様は何を謝っているのだろうか。
顔面蒼白になりながらガタガタ震えている。
娘が聖女ではないことを詫びているのだろうか。
「•••聖女は私なのです。 今まで黙っていて申し訳ございません!!」
再び勢いよく土下座した。
それからサウル様が聖女?の力でエリオットの治療をし、エリオットは無事だった。
肝心のサウル様はというと、王宮に連れて行かれて聖女?の力を黙っていた事を問いただされた。
サウル様は奥様を亡くした後に力に目覚めたそうだ。
聖女の力を持つ者は国の為に治療薬を作ったり病人を治療したりと多忙になることを知っていたサウル様は、ヨハンナと一緒に居られなくなってしまうことを危惧して黙っていた。
流行り病の時はいてもたってもいられず、しかし表立って自分が治療する訳にはいかないためヨハンナ達の作ったハーブティーにこっそり祈りの力を込めて流行り病が終息するように画策していたらしい。
聖女?の力を黙っていたことは問題だが、陰ながら流行り病の終息に貢献したことを認められて、サウル様は大したお咎めなしに無事コンティオラ邸へ戻ってきた。
そして、娘との時間も確保出来るよう配慮された待遇の下で王宮に仕えるようになった。
この場合呼び名はどうなるのか皆悩んだが、男性なので聖女も可笑しいということで普通にサウル様と呼ばれている。
ヨハンナはあの不思議な力を見込まれ、スヴィーとともに定期的に農作地へ赴いている。
エリオットとディオーナは共謀して聖女を偽っていたことを咎められ、次期国王の座は第二王太子のクラースとなった。
それでも二人の互いを想い合う気持ちに偽りはなかったようで婚約は継続となった。
「やっぱりお父さんの方が聖女だったんですね〜怪しいと思ってましたよ。 いやぁそれにしても男性、というかおじさんの聖女?っていうのも斬新ですよねー」
カイはあははは、と呑気に笑いながら剣を握る。 今日は久しぶりに手合わせをしてくれるらしい。
「あれ、カイは知ってたのか?」
「前にクラース様と一緒にコンティオラ邸へ来たことがあるんです。 その時に、なんか怪しいなーって思ってたんですよね。 それで娘さんの方に話を聞けば何か分かるかなって思ってたんですけど、その必要もなかったですね」
カイは騎士団に所属してはいるが、第二王太子クラース様の命令で他国へ潜入して情報収集することを仕事としていたらしい。
アールトネン家で働いていたのもその為だったようだ。
「そういえば、頼まれてた物をダニエルさんに渡してきましたよ。 これで自由にダニエルさんと会えますね」
「ありがとう。 じいには心配かけたからな、一度顔でも見せに行かないと。 でもまさかカイにお使いを頼む時が来るなんて思いもしなかったよ。 方向音痴のフリをして諜報活動だなんて、まったくよく考えたもんだよ」
「これでもこっちでは出来る奴で通ってるんですよ。 それより、今度はこっちの騎士団の試験を受けることにしたんですね? 試験に向けてまたビシビシしごいて行きますからね〜」
完結しました!
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