第十一話 驕れる者久しからず(報いを受けろ)
季節は冬、十二月半ばの頃。
その日の朝、朝会の際にA組担任教諭、吉村与吉先生から「今から全校集会が有る」と伝えらえた。
その言動自体は唐突だった。しかし、俺達生徒は驚かなかった。
皆、集会の内容を予想していた。それにかかわる出来事が、俺達の周囲、主に一年生と二年生の学級に起こっている。
一年生、及び二年生の幾つかのクラスは空席が目立っていた。その中には、停学処分を受けた生徒も含まれている。
未だ停学期間は残っている。しかし、例え期日が来ようとも、彼らが席に戻ってくることは無いだろう。
その可能性を想像しながら、俺はクラスメイト達と一緒に全校集会の場、体育館へと移動した。
登校していた殆どの生徒が集まる中、最奥の舞台にスーツ姿の老齢女性が現れた。
山之上高校学校長、奥蘭成子先生。彼女の顔色は真っ青で、表情も強張っている。その様子を見ていると、今にも倒れるかと錯覚する。しかし、奥蘭成子は倒れない。
奥蘭校長は、背筋を伸ばし、確かな足取りで演台の前(俺達から見て奥)に立った。続け様に、真っ直ぐ前を見ながら台上に置かれたマイク越しにハスキーボイスを響かせた。
「今からお話しすることは、とても衝撃的な内容です。心して聞いてください」
衝撃的。不穏な表現だ。しかし、俺達の反応は平静だった。誰も彼もが「あれのことだな」と当たりを付けている。その通りの内容が、会場内に響き渡った。
「山之上祭(文化祭)の最中に、暴行事件が起きました」
暴行事件。奥蘭校長は、敢えて個人名を告げなかった。しかし、被害者の名前は誰もが知っている。俺の脳内にも彼女の顔が閃いていた。
何で響ばかりが酷い目に遭う?
事件の被害者、別所響は体育館にいない。彼女は地元の総合病院で入院中だ。
一応、外傷は完治している。しかし、響が負った心の傷は、簡単には治らない。
俺が見舞いに行くと、響は明るく振舞った。しかし、声が震えている。目も合わせない。無理していることは一目瞭然だ。
響の保護者から「当時のことを想い出して、時々パニックを起こしている」と聞いた。響の状態は、俺が思っている以上に深刻だ。だからと言って、響の回復を諦める気は毛頭無い。
俺は必ず治ると信じている。俺以外にも、響の保護者を含めて、同じ希望を抱いている者が沢山いる。
響のクラスメイト達も、ローテーションを組んで響の見舞いに来ていた。
皆の励ましを受けて、響の状態も少しずつ改善している。パニックを起こす頻度も下がっているようだ。
叶うならば、響と一緒に初詣に行きたい。
俺は響の顔を想起しながら、彼女の回復を祈念していた。その最中、奥蘭校長のハスキーボイスが鼓膜を震わせた。
「本校の生徒に暴行した加害者は、地域の人です。この事実を鑑みて、来年度からは文化祭の入場者を限定して――」
地域の人。地域に迷惑を掛けているヤンキー達。その中に、俺の知っている顔も有った。尤も、俺が知らずとも、地域の人に聞けば大体分かる。正体はバレバレだ。逃げようもない。
この事実に加えて、全員十八歳を超えている。成人だ。実刑を受けることは確実。
響の保護者は民事でも訴えているので、賠償金の支払い義務も追加される。こうなることは自明の理。俺でなくとも無謀だと思う。
しかし、加害者達は実行した。響を攫って暴行した。何故なのか? その理由を、俺は知っていた。
山之上高校生が依頼して、加害者達を手引きした。
内部の人間が協力すれば、上手く事を運べる。憶測だが、そのように判断したのだろう。実際、響は連れ去られている。
俺が気付いていなければ、どうなっていたか?
俺が響のスマホと位置情報を共有していなかったら、どうなっていたか?
最悪の可能性を想像すると、俺の額と背中に冷汗が滴った。俺にとっては絶対に避けたい事態だ。尤も、暴行の依頼者達の目的は、正にそれなのだが。
絶対に、許す訳にはいかない。
俺は、既に報復を始めている。その対象は、暴行事件の加害者だけではない。響のイジメも含めて、彼女を傷付けた全ての加害者だ。
イジメの主要メンバー、一年生の陽キャグループは、遠からず全員退学処分になるだろう。そうなるよう、現在全力で裁判中だ。相応の報いを受けて貰う。しかし、俺達が訴えた対象は、彼らだけではない。そもそも、一年生の加害者達はイジメの主犯ではなかった。裏から操られていた。
イジメの主犯は、二年生カースト最上位、ズゥちゃんを含めた陽キャグループ。
ズゥちゃん達はイジメを主導しただけではなく、暴行事件にも関与していた。
ズゥちゃん達が、ヤンキー達に依頼して響を襲わせた。協力者した生徒も、彼女達だった。その事実を、俺は響の保護者から聞いている。
その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
「何で?」
何故、ズゥちゃん達は響をイジメたのか? 何故、響を暴行したのか? その動機は、俺には分からなかった。奥蘭校長の口からも語られなかった。
俺が動機を知ったのは、暴行やイジメ事件の裁判中でのこと。その内容を喧伝する気は、俺には無い。秘密にするつもりだ。しかし、俺の行為は全くの無駄だった。
俺が黙っていても、どこからか漏れて、世間に知れ渡ってしまった。
暫くの間、SNSのトレンドに「山之上高校暴行事件」のワードが上がり続けた。事件を聞き付けた報道関係者達が、わんさと町にやってきた。
新聞にも載った。ワイドショーのネタにもされた。これらの事実を目の当たりにする度、俺の口から独り言が零れ出た。
「何で、こんなことしたんだよ。ズゥちゃん」
その言葉は、俺の口癖になっていた。




