第一話 当たって砕けろ(砕けた)
「ズゥちゃんが好きです。子どもの頃からずっと好きでした。どうか、俺と付き合ってくださいっ!」
今は五月半ば。暮れなずむ校舎裏に一組の男女の姿が有った。
二人は何をしているのか? 男子生徒が女子生徒を呼び出して、告白しているところだ。
しかし、傍から見れば結果は瞭然だろう。二人の外観は、真逆と言えるほど対照的だ。
女子生徒は美形。人目を惹く金髪ギャル。
男子生徒は凡庸。眼鏡を掛けた肥満気味のモブ。
誰が見ても不釣り合い。
そもそも、告白した男子生徒、俺、月見里栄太も「無理筋だ」とは思っている。今も、脳内では最悪の可能性ばかりが閃いている。
しかし、俺には「幼馴染」という希望があった。
俺が目の前のギャル、「ズゥちゃん」と初めて出会ったのは、互いに物心付く前のこと。
お互いの家は隣同士。しかも、お互いの母親が幼馴染で親友同士。
俺達は、生まれる前から縁が有った。それは、俺達が生まれた後も変わらない。
俺とズゥちゃんは、互いの母親達に手を引かれて、頻繁に顔を合わせた。互いに母親の資質を持っている為、気が合った。
幼稚園のときは、結婚の約束をするくらい仲が良かった。
小学生になったときも、一緒に登下校していた。プライベートでも多くの時間を共有している。
しかしながら、長ずるにつれ互いの趣味嗜好は違いが出始めた。
俺は読書好きのインドア派。
ズゥちゃんは外で遊ぶことが好きなアウトドア派。
互いの友達は、互いの趣味嗜好に準じた子どもばかりになった。当然ながら、俺達が一緒に過ごす時間も激減した。
それでも、ズゥちゃんは俺と交流する時間を作ってくれた。それは、中学に上がっても同様だった。
しかし、高校に上がったところで変わった。
ズゥちゃんは、変わってしまったのだ。激変だ。その切っ掛けとなる要素が、俺達が進学した地元の高校に有った。
公立山之上高等学校。
地元では有名だが、全国的には無名の普通校。偏差値は五十を行ったり来たり。部活動で勇名を馳せることも無い。
敢えて山之上高校の特異性、或いは特徴を挙げるなら、校舎が山の頂上に立っていること。それから「自由な校風」だろう。
山之上高校の学校目標は「自立する生徒」。その為、生徒の自主性を重んじている。尤も、穿った言い方をすれば「生徒任せ」だ。
授業などの必須活動以外は生徒の好きにさせている。その自由の中に、当然ファッションも含まれていた。
一応、学校指定の制服は有る。しかし、それを身に着ける規則は、学校目標の影響で効果を発揮していない。有って無きが如しだ。
殆どの生徒が制服を弄くり倒している。或いは、全く別の服装で登校している。規定通りの制服を身に着けている生徒は希少だった。その中に、俺も含まれている。
尤も、俺の場合は単にファッションに興味関心が無いだけだ。
髪形は、幼少期から行きつけの床屋に任せっぱなし。トレードマークの眼鏡も、掛け始めた中学の頃に購入したものを使用し続けている。
俺の外観で、唯一小中と変わったところは体形だけだ。
運動不足が祟ってポッチャリしてしまった。その変化は、それなりに大きい。見てくれが悪いと自覚している。
それでも、俺は改善しようとはしなかった。
暇が有るなら本を読んでいたい。
俺は筋金入りの文学オタクだった。高校に入った後も、今の生活スタイルを変えるつもりは無かった。
しかし、ズゥちゃんは違った。その事実は、入学式の日に思い知らされた。
東洋人らしい黒髪は、西洋人も吃驚の派手な金髪になった。
スッピンだった顔は、派手な化粧が施されていた。耳にも派手なピアスが嵌っている。
服装は、下着が見えるほど際どいものになっていた。
ズゥちゃんは「ギャル」になった。
外観が派手になったことで、性格も、より一層明るく積極的になっていた。能動的に他の生徒と絡んでいく。
その行為の結果、ズゥちゃんはクラスのムードメーカとなった。
その功績が認められて、ズゥちゃんは学園カースト最上位の陽キャギャルグループに所属することになった。
対して俺は、相変わらずの陰キャだ。学年内でカーストでは最底辺だ。ズゥちゃん達とは立場が違う。違い過ぎる。
結果として、俺達は学校内で会話しなくなった。プライベートでも、ズゥちゃんは友達との付き合いを優先して、会う機会は殆ど無かった。
その事実を目の当たりにする度、俺の胸がギュッと締め付けられた。
このままでは、ズゥちゃんと離れ離れになる。
俺はズゥちゃんが好きだった。物心付いたときには、既に彼女のことが好きになっていた。初恋の人だった。
幼少期に交わした結婚の約束も、未だに有効だと信じている。我ながら、変質的だと思わないこともない。
しかしながら、ズゥちゃんを思い続けて十数年。簡単に諦められるほど軽い思いではなかった。
このまま何もしなければ、俺達の関係は終わる。
最悪の可能性を想像すると、息が詰まるほど苦しい。その変調に、俺は耐えられなかった。このまま終わりたくなかった。
だからこそ、俺はズゥちゃんに告白することを決意した。全ての勇気を振り絞って、ズゥちゃんを校舎裏に呼び出した。
俺の前に現れたズゥちゃんは、少し照れ臭そうな顔をしていた。それを目た瞬間、俺は「イケる」と直感した。
俺は大きく息を吸ってから、ズゥちゃんに向かって長年秘めていた想いを告げた。
「ズゥちゃんが好きです。子どもの頃からずっと好きでした。どうか、俺と付き合ってくださいっ!」
俺の視界に移ったズゥちゃんの目が大きく開いた。それと同時に、口許も綻んだように見えた。しかし、それは錯覚だった。
次の瞬間、ズゥちゃんの顔が不快げに歪んだ。その歪な口から、表情通りの言葉が飛び出した。
「ごめんだけど」
「!」
「陰キャ、デブオタは無理」
「!!!」
俺はフラれた。その事実を直感した瞬間、俺の目から涙が溢れた。その表情は、ズゥちゃの視界に映っていただろう。
しかし、その醜態を見ていた者は、ズゥちゃんだけではなかった。
俺が泣いていると、ズゥちゃんの後ろから他の女子生徒と思しき声が上がった。
「ザマぁ」
「ウケる」
声を上げたのは、学年カースト最上位の陽キャギャル達だった。恐らく、ズゥちゃんに付いてきたのだろう。
陽キャギャル達は、泣いている俺を指差しながら腹を抱えて笑っていた。その様子は、涙で歪んだ俺の視界にも映っていた。
その瞬間、俺の中で何かが切れた。
絶対に、見返してやる。
俺は今、この瞬間から変わる。別人になる。
俺は「学校一のイケメン」になることを決意した。




