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魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結済】  作者: 一色孝太郎


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第74話 ゾンシャールの戦い(前編)

 私たちはコーデリア峠へと続く道の途中に建てられた病院へとやってきた。


 病院といっても建物だけがポツンと建っているわけではない。ここは巨大な壁に囲まれたボーダーブルク南砦という名前の砦の一部だ。


 砦の中には病院が二棟あるほか、兵舎や倉庫、指揮所、さらに武器防具を整備する工房などもある。


 ここはボーダーブルクの町よりも前線に近いので、負傷してから病院に担ぎ込まれるまでの時間を短くすることができる。


 きっと今まで私の目に触れてこなかっただけで、間に合わずに命を落としてしまった人もいるのだろう。


 そういった人たちも、ここであれば救うことができるかもしれない。


 そう考えると俄然、やる気が湧いてくる。


「チャールズさん、頑張りましょうね」

「もちろんです! ホリー先生!」

「まずは設備の確認ですね」

「はい!」

「あ、ヘクターさん。それじゃあ行ってきます」

「ああ。がんばれよ」

「はい」

「ニール兄さん、アネット、また後でね」

「ああ」

「ホリー、無理しないでね」

「うん」


 こうして私はホワイトホルンから来てくれたみんなと別れ、病院内に入る。


「なるほど。こっちの建物が魔族用で、向こうの建物は人族の捕虜用ですね」

「あ、そうなんですね」

「捕虜用の建物は必ず担当の兵士と一緒に入ってください。下手すると殺されますから」

「わ、わかりました」


 そうか。私たちにとっては患者さんだけど、人族からすれば私たちは敵だ。敵の治療なんて怖くて受けたくないと暴れる患者さんがいても不思議ではない。


「あ、薬はこの部屋ですね」


 チャールズさんの後に続いて部屋に入ると、そこには所狭しと様々な薬が並んでいる。大量にストックされたかなり強い鎮痛剤がこの場所の特徴を如実に表している。


「在庫が多いですね。ここまでは要らないはずなんですが……」

「すぐダメになる薬はないですし、きっと人族の患者さん用なんじゃないですか?」

「ああ、たしかに」


 それから私たちは包帯などの物資と病室を確認し、最後に患者の搬入経路を確認したのだった。


◆◇◆


 そのころ、コーデリア峠からブライアン将軍率いる二千の兵士たちがゾンシャールへと向けて進軍を開始した。


 ゾンシャールは一度ボーダーブルク軍によって陥落したが、魔族たちは兵士とその協力者のみを殺すのみで占領はされていなかった。


 そのためゾンシャールには現在五千ほどのシェウミリエ帝国軍が駐留しており、その動きはすぐさまズィーシャードにいるガーニィ将軍にも伝わることとなる。


 そこでガーニィ将軍も再度の失陥を防ぐべく、四万五千の軍勢を率いてズィーシャードから出撃した。


 やがて両者はゾンシャール北の平原にて向かい合った。


「は? たったあんだけか? どっかに伏兵がいるぞ」


 わずか二千というボーダーブルク軍の少なさにガーニィ将軍はそう断言した。


「お前ら、勝手に前に出んじゃねぇぞ? 敵の伏兵を探すんだ」

「ははっ!」


 ガーニィ将軍の命令にシェウミリエ帝国軍の兵士たちは力強く返事をしたのだった。


◆◇◆


 一方、たった二千の兵力で五万の大軍勢と対峙するブライアン将軍に焦った色はなかった。


「まったく、ローレンスの奴め。よくもまあ、こんな作戦を思いつくものだ」


 そう言ってブライアンは忌々し気に手に持った作戦計画書をぎゅっと握り潰す。


「まあ、いいだろう。乗ってやろうではないか」


 不敵な笑みを浮かべてそう呟いたブライアンのところに兵士が報告にやってきた。


「全員、持ち場につきました」

「よし。気取られんようにしろ。順次休憩だ」

「ははっ!」


 そうして兵士が立ち去ると、ブライアンはぐっと拳に力を込める。


「人族どもめ。もう二度とラントヴィルのようなことはさせんぞ」


 ブライアンはそう呟き、静かに怒りの炎を燃やすのだった。


◆◇◆


 先に動いたのはシェウミリエ帝国軍のほうだった。


 伏兵を見つけられず、そして全く動かない相手に痺れを切らしたガーニィ将軍は軍を広く展開させた。圧倒的少数である魔族軍を数の力で包囲殲滅しようという作戦だ。


 大盾を構えたシェウミリエ帝国兵が前に出るが、彼らの弓の射程外から魔族の矢が撃ち込まれ、次々と地面に倒れていく。


「怯むな! 前に出ろ!」


 シェウミリエ帝国軍は損耗など気にしていない様子で次々と前に進み、やがて矢での反撃を行う。


 そうして双方がすさまじい数の矢を射ち、ついにはお互いに射ち尽くしてしまう。すると今度はシェウミリエ帝国軍の騎兵で突撃を仕掛けた。


 それに対して魔族軍は倒れた同僚を担ぐと矢を放っていた弓兵たちは一目散に後ろに下がる。


「負傷兵は捨て置け! 歩兵を蹴散らせ!」

「はっ!」


 騎兵部隊の一糸乱れぬ突撃に対し、魔族の兵士たちは一斉に火球を放った。


 次々と着弾し、爆発する火球にたちまち馬はパニックとなり、次々と騎士たちが落馬していく。


 だが一部の騎兵は突撃に成功し、魔族軍の陣地を食い破る。


 しかしそんな彼らもすぐに身体強化を発動した魔族の兵士たちによって馬から引きずり降ろされ、とどめを刺される。


 一部で乱戦にはなっているものの、ボーダーブルク軍は個々の能力の高さを活かして包囲されないようにうまく立ち回っていた。


 そうしているうちに日が沈み、シェウミリエ帝国軍は引き揚げていくのだった。


 この日の戦いでシェウミリエ帝国軍が失った兵士の数はおよそ二千、それに対して魔族軍の戦死者は三十名、負傷者は実に二七十五名にも上ったのだった。

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