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魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結済】  作者: 一色孝太郎


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第71話 補給防衛戦

「オリアナ町長閣下、コーデリア峠への補給をお願いいたします!」


 ボーダーブルクの町庁舎の一室で軍議が開かれ、コーデリア峠からやってきた兵士がオリアナに補給を請願していた。


「その前に補給路の安全を確保せよ。話はそれからだ。そもそも、どうしてこんな風に砦の裏側に好き放題入られているのだ?」

「どうやら敵はかなり迂回して山越えをしているようでして……」

「そのルートは?」

「それがまだ……」

「一体何をしているのだ? 補給路が確保できねばコーデリア峠が落ちるのだぞ?」

「それは……」

「もういい。このままブライアンに任せておいては損害が増える一方だ。ブライアンには砦の防衛に集中するように伝えよ」

「は、ははっ!」

「ローレンス参謀長! どう見る?」

「はい。敵の狙いは我が軍の補給を断つことに加え、意図的に再起不能な怪我人を増やして我々の疲弊を狙っているものと思われます」

「ああ、どうやらそのようだ」

「まず現在ブライアン将軍の行っている補給に対する攻撃は敵と同様の目標に切り替えて行いましょう」

「それは楽にしてやらず、わざと重傷者を放置するということか?」

「ええ、そのとおりです。敵もやっているのですから、我々が同じことをやり返しても文句を言われる筋合いはないでしょう。民間人への攻撃でなければ問題ありません」

「それで? 我々の補給路はどうする?」

「補給部隊に別途護衛部隊をつけます。それによって敵の攻撃に反撃するとともに、侵入経路を探りましょう。それから尾根伝いに簡易的な壁と監視塔を建設します。そうすることで領内への侵入を防げるはずです。最後に入り込んでいる敵を駆除すれば補給の安全が確保されます」

「そうだな」

「そして補給路の安全を確保したのち、コーデリア峠への道路を整備しましょう」

「道路を?」

「はい。駄獣を利用するよりも魔動車での補給を優先すべきです」

「だが魔動車であのような険しい山越えはできないのではないか?」

「はい。ですから、まずは一般兵でも魔動車で行ける場所に砦を建築し、そこを物資集積所として活用するのです。そうすれば駄獣や人力による輸送区間を減らすことができます」

「なるほど」

「そして準備が整い次第、指揮所と病院もそちらに移転します」

「む? それは反攻作戦をするということか?」

「はい。今は各地より続々と援軍が到着しております。この町と支村の守りに三千は残さなければなりません。残る常設軍のうち五百ほどが失われておりますが、あとひと月もしないうちに二千ほどが到着するでしょう。となれば、守りから攻めに移れるでしょう」

「目標はズィーシャードか?」

「はい。あの町を陥落させれば停戦となることでしょう」

「わかった。懸念事項は?」

「コーデリア峠が抜かれることです。ここが陥落すると一気にボーダーブルクも危険に晒されることとなります。あともう一つ気がかりなのは、聖堂教会が聖騎士団を送ってきていることです」

「聖騎士団か。魔族を敵視しているあの連中か。どのくらいの規模だ?」

「不明ですが、さほど多くはないはずです」

「そうか。ならば聖騎士団の動向にも注意をしておくように。全体としてはローレンス参謀長の作戦を採用する。補給を確保し、コーデリア峠を守れ!」

「ははっ!」


 こうしてボーダーブルク軍はこれまでの補給戦略を見直し、徹底的に補給路の防衛を行うこととなった。


 そしてこの作戦は大きな戦果を上げることに成功する。


 補給部隊に先行し、索敵を行っていた戦闘部隊がゲリラ戦を挑んできたシェウミリエ帝国の部隊をことごとく排除したのだ。


 元々個の力では魔族たちが圧倒的に上回っていたのだ。そのうえシェウミリエ帝国軍の部隊は少人数で見つからないように山を越えるという作戦だったため、数の面でも不利を背負うこととなった。


 その結果、シェウミリエ帝国軍は補給部隊を攻撃するという任務を達成できなかっただけでなく、いくつもの山越えのルートまで潰されてしまうという大きな痛手を負うこととなったのだった。


◆◇◆


「もう大丈夫ですよ」


 私は治癒の奇跡で患者さんを治療すると、優しくそう声をかけた。


「ああ! ありがとう。先生!」

「いいえ、どういたしまして」

「これでやっとまた戦場で戦える! 先生、俺、この恩は忘れねぇから!」

「はい。ご武運を」


 私はそうして笑顔で患者さんを治療室から送り出した。


 ここのところ戦況が良くなったのかどうかは分からないが、めっきり運び込まれる患者さんが少なくなっている。


 そこで今は私から出向くのではなく、患者さんのほうから私のところに来てもらっている。


「それじゃあ、次の方、どうぞ」


 私は次の患者さんを呼ぶが、誰も私の治療室に入ってくることはない。


 不思議に思って私がドアを開けて外を確認してみたが、なんとそこには一人の患者さんも残っていなかった。


 あれ? もしかして、全員退院したのだろうか?


 誰もいないのに待っているというのもおかしな話なので、私は治療室を出て控室へと向かった。


 すると正面からオリアナさんが歩いてきた。


「あ、オリアナさん」

「ああ、ホリー。久しいな」

「はい、お久しぶりです。チャールズさんですか?」

「ああ。それもあるが、ホリーにも用事があるんだ」

「え? 私ですか?」

「ああ。実は、今度この病院をコーデリア峠に近い場所に移転させることになった」

「え?」

「ホリーが治してくれた兵たちが大活躍してくれてな。我々の領地に入り込んでいた敵を追い出すことに成功したんだ」

「なら戦争は終わったんですか?」

「いや、残念ながらそうはなっていない」

「え? でも追い出したんですよね?」

「ああ。だが敵は諦めてくれないようでな。またもや大軍を率いてコーデリア峠を目指しているという報告が入った」

「……そうですか」


 どうしてそんなに戦いたがるのだろう? 死者と怪我人が出るだけなのに……。


「そこで負傷者ができる限り早く薬師の治療を受けられるように、病院を前線に近い安全な場所へ移転することとなったのだ」

「……わかりました。行きます」

「ああ、すまない。ニールにもこのことは伝えてあるが、ホリーの行く場所について来てくれるそうだ」

「そうですか」


 正直、私はもうニール兄さんに危険な目に遭ってほしくない。


「そうだ。それからホワイトホルンからの援軍も来てくれたぞ。ヘクター殿の率いる二十三名の部隊だ」

「ヘクターさんが!?」

「ああ。知り合いか?」

「はい! すごくお世話になっている人です!」

「そうか。ならば挨拶をしてくるといい。今はニールと町庁舎の第五会議室にいるはずだ」

「ありがとうございます!」


 ヘクターさんに会える!


 私ははやる気持ちを抑えつつも、隣の町庁舎へと急ぐのだった。

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