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魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結済】  作者: 一色孝太郎


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第65話 コーデリア峠の戦い(前編)

 コーデリア峠を守る魔族の兵士たちは眼下に広がる光景に愕然としていた。


 木々が焼き払われ、至る所で煙が燻っている。


 これが攻め寄せるシェウミリエ帝国軍を撃退しようと出撃した魔族の兵士たちを焼き殺すために放たれた火がもたらした結果だ。


「まさかここまでやるとは……」


 魔族の兵士の一人がその惨状に眉を(ひそ)めながらそう(つぶ)いた。


「ムカつくが、逆に考えてみろよ。こうなっちまえばシェウミリエの連中に隠れる場所はねぇ」

「だが俺たちの損害だって……」

「ああ、かなりやられたもんな。だがもう二度は使えねぇ作戦だ。俺たちのほうが個の力は圧倒的に上なんだから、ビビらずに敵を殺せばいいんだよ」

「ああ、そうだな……」


 そんな会話をしている二人の視界にシェウミリエ帝国軍の部隊が近づいてくる様子が映った。


 するとすぐさま一人が敵襲を知らせる鐘を鳴らし、もう一人の男が双眼鏡を取り出して敵の編成を確認する。


「やっぱ弓を持ってるやつが多いな。おや? あの鎧はなんだ? あんな白い鎧、シェウミリエの連中って着てたっけ?」


 彼らが目にしたのは聖導教会聖騎士団の騎士たちだ。


「それにしても、あいつら攻城兵器もなしにどうやってここを落とす気なんだ?」


 魔族の兵士は怪訝そうな表情でそう呟いたのだった。


◆◇◆


 コーデリア峠の森の焼けていない森の中にハロルド率いる二十人ほどの聖騎士たちが別動隊として身を潜めていた。その中には将司の他にブラッドリーの姿がある。


「さあ、作戦を開始しますぞ。ショーズィ殿、準備はいいですな?」

「はい」


 そう問いかけるハロルドに将司は真剣な表情でそう答えた。その表情はズィーシャードに来たころとは見違えており、別人のように引き締まっている。


「ショーズィ殿、見違えましたな」

「そりゃあそうっすよ。勇者様、ずっと戦場にいたんすから。ね?」

「そうですね。もう慣れてきました」

「結構ですな。ですが、油断してはいけませんぞ。私たちの任務はあくまで敵の補給を断つことですからな? 敵を倒そうなどと思ってはなりませんぞ。戦ったとしてもあくまで最低限ですからな?」

「分かってます」


 こうしてハロルドと将司を含む聖騎士隊の一部は砦前に陣取ったガーニィ将軍率いるシェウミリエ帝国軍の主力からひっそりと離れ、道なき道を進んでいくのだった。


◆◇◆


「……奴らは何を考えているのだ?」


 コーデリア峠の砦に入ったブライアンは苛立ちを隠しきれない様子でそう呟いた。


「我々が打って出るのを待っているのでしょうが……」

「将軍、いけませんぞ。あれは間違いなく誘いです」

「……だが、所詮人族ではないか。これまでは森のせいで不覚を取ったようだが、もう連中を守る森はない。町長閣下は砦を守れと命じられたが、蹴散らしてはいけないとは命じられておらんぞ」

「ですが将軍、今回の敵は手ごわいです。キエルナより援軍も来るとの連絡が入っておりますので、ここはこのまま睨み合いを続けましょう。人数が少ない分、我々のほうが圧倒的に有利です」

「わかっておる。わかっておるが……!」


 ブライアンは忌々し気にそう呟くと、地形図をじっと眺めるのだった。


◆◇◆


 ブライアンが籠城を選択する中、シェウミリエ帝国軍の一部が突出して砦からの矢がギリギリ届かない場所にやってきた。


 そして砦を守る魔族の兵士に対して挑発を始める。


「やーい! へたくそー!」

「隠れて攻撃することしかできねーでやんの!」

「臆病者がー!」

「ヘタレー!」

「悔しかったら出てきたらどうだー!」


 シェウミリエ帝国兵たちは思いつく限りの罵詈雑言を浴びせかけていく。


 しかし砦の上に陣取る魔族の兵士たちは最初こそ矢を射掛けていたものの、すぐにその挑発の意図を理解したうえで挑発し返していた。


「お前らこそ攻めてこないのかー!」

「臆病者がー!」

「人族ごときがこの壁が登れるわけねーよなー!」


 なんとも下らないののしり合いである。しかし自分たちで挑発したはずのシェウミリエ帝国兵の一部は顔を真っ赤にし、盾を構えて砦へと近づいていく。


「おい! 待て! 戻れ! お前たちが挑発に乗ってどうする!」

「隊長! 俺はあんなに言われて我慢できません! 邪悪な魔族なんかに!」


 そうして挑発に乗って弓の射程に入ったシェウミリエ帝国兵には、当然のごとく大量の矢が降り注いだ。


 その矢をなんとか盾で防いで掻い潜ろうとするものの、防ぎきれなかった矢が次々と命中する。


 挑発に乗ったシェウミリエ帝国兵たちは一人、また一人と倒れていき、ついには誰一人として動かなくなってしまった。


 そんなシェウミリエ帝国軍の様子を砦に陣取る兵士たちは鼻で笑いながら見ていたのだった。


◆◇◆


 その夜、若い一部の砦を守る兵士たちは秘密の話し合いをしていた。


「なあ、やっぱ人族なんて大したことなくないか?」

「だよな。俺もそう思う。魔力の弱い雑魚なんかさっさと追い払ったほうがいいんじゃね?」

「でもブライアン将軍がなぁ」

「いやいや、もうブライアン将軍だって年なんだよ。臆病風に吹かれたんだって」

「でもブライアン将軍、いつもあんなに勇ましいこと言ってたじゃん」

「そのくせ、いざ来たとなったら籠城だぜ? 言ってることとやってることが違うんだよなぁ……」

「なあ、俺たちだけでやっちまわないか? 人族なんざ、俺らだけでも余裕だろ」

「だよな。俺、ちょっと有志を募ってくるわ」


 こうしてブライアンの(あずか)り知らないところで自軍の兵士の統制が乱れていく。


 そしてその翌日の夜、五十人ほどの若い兵士たちが闇に紛れて砦から出撃したのだった。

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