第61話 勇者の瞳に映るもの
2022/11/30 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
ラントヴィルで村人たちが全員惨殺されたとの一報がボーダーブルクにもたらされたころ、将司は聖導教会聖騎士団の一員としてズィーシャードの町にやってきた。
ここはコーデリア峠に最も近いシェウミリエ帝国の軍事要塞都市だ。
「おお! アンタらが聖導教会の! よく来てくれたぜ!」
「ガーニィ将軍でありますな。私は聖導教会聖騎士団副団長ハロルドですぞ」
「おお! アンタがあの! 楽しみにしてるぜ! 俺とアンタがいりゃ魔族なんざイチコロだぜ!」
「はは。私よりもこちらのショーズィ殿のほうが魔力においては遥かに上ですぞ」
「なんだって? そいつぁすげぇな」
「ショーズィ殿、この方はガーニィ将軍ですぞ。シェウミリエ帝国軍きっての猛将で、私と変わらないくらい魔力を持っているのですぞ」
「ガーニィ将軍、ショーズィです。よろしくお願いします」
「おう! それよりお前、魔族みたいな髪の色してんな?」
「え?」
「ガーニィ将軍、ショーズィ殿は間違いなく人族、聖導教会の誇る勇者なのですぞ。ただ、ショーズィ殿は今回の戦が初陣なのですぞ」
「はーん、なるほどねぇ。まあ、いいぜ。初陣の奴に戦果は期待しねぇからな。きっちり生き残れよ。そのためにわざわざアンタがいるんだろ?」
「そのとおりですぞ」
「じゃ、勇者クン。よろしくな。早速タイマンすっぞ?」
「え?」
「タイマンすんだよ。初陣の奴がどんな実力か分からねぇで戦場に連れてけるわけねぇだろ?」
「は、はい」
こうして将司はズィーシャードの町へと入るやいなや、ガーニィ将軍と一騎打ちをすることになったのだった。
◆◇◆
ズィーシャードの練兵場に剣戟の音が響き渡る。
「はっ! やるじゃねぇか! 素質だけはピカイチだなぁ!」
「くっ」
余裕そうな表情で将司の剣をいなすガーニィ将軍に対し、将司は攻めながらも中々一太刀を入れられずにいる。
「今度はこっちから行くぜぇ! オラオラオラァ!」
「く、くそっ!」
流れるようなガーニィ将軍の攻撃に将司は防戦一方となってしまう。
「あんだぁ? その魔力は飾りかぁ? 勇者らしいとこ、見せてみろよ!」
「くそっ! 負けるもんか!」
将司がそう叫ぶと、体全体にオーラのようなものを身に纏った。
「そうだそうだ! 身体強化! やればできるじゃねぇか! こっちもいくぜぇ!」
ガーニィ将軍も同じようにオーラのようなものを纏い、将司に迫っていく。
先ほどまでとは段違いのスピードと威力の攻撃が繰り出されるが、将司は追いついてそれに対処する。
「まだまだぁ!」
ガーニィ将軍はさらにスピードをあげて攻撃を繰り返すが、将司はオーラをさらに強くしてそれに対抗する。
そのまま一進一退の攻防を繰り広げる二人だが、将司が受けた剣を強く弾いた瞬間ガーニィ将軍の体勢が崩れた!
「ここ!」
それを好機と見た将司はとどめと言わんばかりに渾身の一撃を繰り出した。
「なんてな」
ガーニィ将軍はニヤリと笑うと大ぶりとなった隙をついて目にも止まらない速さの一撃でカウンターを入れた。
「あ、が……」
将司はその一撃を受け、がっくりと地面に膝を突いてしまった。
「いやー、やるじゃねぇか。勇者クン、才能あるぜぇ。魔力だけならもう魔族並みじゃねぇか?」
「で、ですが……」
「あ? 負けて当たり前だよ。そもそも勇者クンはまだ剣を握って一年も経ってねぇんだろ? これから経験積んで、魔族どもから大切なモンを守れるくらい強くなりゃいいンだよ」
「……」
将司は悔しそうに俯いた。
「ま、勇者クンが本当に勇者んなって、人族を救えるのかはアンタ次第だぜ? アンタは若いんだ。いくらでも伸びしろはある。だから、初陣で死ぬんじゃねぇぞ?」
「……はい。ありがとうございました」
◆◇◆
翌朝、将司は朝早くから呼び出され、兵舎の会議室にやってきた。
将司がハロルドの隣に着席すると、すぐにガーニィ将軍が入ってくる。
「朝早くに呼び出してすまねぇ。アンタらも魔族どもが俺らにゾンビ発生の責任をなすりつけた挙句、警備中の俺の部下を殺しやがったのは知っているだろう」
「そんなことが……」
ガーニィ将軍の言葉に将司は眉をひそめ、小さくそう呟いた。
「だがな、さっきとんでもねぇ報せが入ってきやがったんだ。魔族どもはついにジャーミー峠(※コーデリア峠のシェウミリエ帝国名)を越えやがった。そんで国境の町ゾンシャールはあいつらの奇襲を受け、全滅した」
「え?」
「全滅ですと!?」
「そうだ。全滅だ。兵は皆殺し、それに民間人も殺されたそうだ」
「なんということを!」
「だが攻撃に気付いた兵が女子供を脱出させてくれた。おかげで状況が分かったんだ」
「……奇襲を受けたとなると」
「ああ、もたもたしているとここにも攻めてくるかもしれねぇ。正直あれだけ守りの強固なゾンシャールが落ちるとは思わなかった。だが、敵だって奇襲に頼らざるを得なかったんだ。万全じゃねぇ。今出て、ゾンシャールを奪還する!」
ガーニィ将軍はそう力強く宣言した。
「え? でも敵がどれだけいるか分からないのに行くんですか?」
「当たりめぇだろう。相手は魔族だぜ? あんなところに拠点を作らせるわけにゃいかねぇんだよ。それともなんだ? 勇者クンはおじけづいたのか?」
「そんなことは!」
「ショーズィ殿、ここはガーニィ将軍の言うとおりですぞ。魔族は個々の能力では人族よりも圧倒的に勝っているものの、数で回るのは我々なのですぞ。魔族に勝つには大軍をぶつけ、数で討ち取るのが定石なのですぞ」
「でも……」
「ショーズィ殿! ガーニィ将軍の言うとおりですぞ!」
ハロルドがそう強く言い聞かせると、将司の胸元で教皇からもらったネックレスの赤い宝玉がわずかな光を放った。
すると将司の表情がすっと穏やかなものとなった。
「……そうですよね。わかりました」
「ご理解頂けて何よりですぞ」
ハロルドは満足そうにそう頷いたが、その光に気付いたものは誰もいなかったのだった。
◆◇◆
すぐさまズィーシャードから総勢一万を超える兵士が出発し、その日の夕方にゾンシャールへと到着した。
しかしそこは完全な廃墟と化しており、つい先日まで人々の営みが行われていたとはとても思えないような惨状だった。
「ひどい。何もここまでやらなくても……」
「これが、魔族なのですぞ」
眉を顰めた将司にハロルドは悲しそうにそう言った。それに対して将司は返事をせず、小さくため息をつく。
すると、崩れかけた建物の中から物音がした。
「何者だ!」
兵士たちに緊張が走るが、中からは小さくすすり泣く声が聞こえてくる。
「生存者だ!」
「危ないですぞ!」
将司はそう叫ぶと、ハロルドが止めるのも聞かずに崩れかけた建物の中へと駆け込んだ。
するとそこには三歳くらいの幼い女の子が膝を抱えながらすすり泣いていた。
「大丈夫? 助けに来たよ?」
「ふぇ?」
将司に声をかけられた少女は顔を上げ、そしてそのまま大声で泣きだした。
「あ……」
どうしていいか分からずに困っていると、後ろからハロルドがやってきて将司に声をかける。
「ショーズィ殿、お手柄ですぞ。抱き上げや落ち着けてやるのですぞ」
「はい」
ショーズィが女の子を抱き上げると、そのままショーズィの胸に顔を埋めてワンワンと泣きだした。
「ああ! こんな幼子が! 魔族め! なんということを!」
ハロルドは怒りに身を震わせながら、目からは大粒の涙をボロボロとこぼす。
「魔族……なんてことを。俺が、俺が頑張れば……」
女の子の背中をあやすようにポンポンと叩きがら、将司は決意のこもった目でそう呟いたのだった。




