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魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結済】  作者: 一色孝太郎


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第60話 ラントヴィルの惨劇

 コーデリア峠に築かれた巨大な砦の前に、一人のシェウミリエ帝国兵がやってきた。そして大きな声で砦に向かって呼びかけた。


「野蛮なる魔族どもに告ぐ! 貴様らが我が国より拉致した戦士たちを直ちに返還しろ!」


 しかし砦を守るボーダーブルクの魔族たちはその呼びかけを無視している。


「これは警告である! 直ちに拉致した我々の戦士たちを返還しろ!」

「帰れ! 我々がお前たちの戦士を拉致したという事実はない!」


 二度目の呼びかけに、砦の上から守備兵がそう返事をした。


「警告はしたぞ!」


 するとシェウミリエ帝国兵はそう捨て台詞を吐き、退散していった。


「……あいつら、一体何がしたいんだ?」

「わからん」


 守備兵たちは困惑した様子でお互いの顔を見合わせる。


 というのも、シェウミリエ帝国兵たちは砦から見える場所に三日前から布陣しており、それから毎日朝昼晩と同じ要求を伝えにやってくるのだ。


「いい加減に鬱陶(うっとう)しくなってきたから攻撃したいよな」

「たしかに」


 そんな話をしていると、交代の守備兵がやってきた。


「おい、交代だぜ」

「ああ。もうそんな時間か」

「どうだった?」

「相変わらず、おんなじこと言って帰っていった」

「全く、何がしたいんだかなぁ」

「ホント、意味不明だよな」


 そう首をひねりつつも、見張りを交代した守備兵は休憩に向かうのだった。


◆◇◆


 コーデリア峠でそのようなやり取りが繰り返されていたころ、ボーダーブルクからほど近い山中にあるラントヴィルという人口三十人にも満たない小さな魔族たちの集落に近づく全身黒ずくめの怪しい集団がいた。


 彼らは日が沈み、村が寝静まるのを見計らって音もたてずに村へと侵入した。


 一人、また一人と村に侵入し、村のあちこちに散っていく。


 そしてしばらくすると、村中の建物から一斉に火の手が上がった。


 やがて火事の熱で目を覚ましたらしい村の住人たちが慌てて飛び出してくる。


 その飛び出してきた住人を黒ずくめの集団は無言で刺した。


「なっ!? が……」


 このような襲撃など想定もしていなかった村人たちはなすすべもなく倒れてしまう。


「いやぁぁぁぁぁ!」


 燃え盛る村の一角から少女と思われる悲鳴が聞こえてきた。


「に、にげ……ろ……」

「お兄ちゃん!」


 そこには後ろから刺されて倒れた魔族の少年と、涙で顔をボロボロにしながらも兄を心配する魔族の少女、そして血塗られた剣を手にする黒ずくめの人の姿があった。


「こ、こいつ! よくもお兄ちゃんを!」


 少女が魔法を黒ずくめの男に撃とうとした瞬間、横から突如現れた別の黒ずくめの人影によって取り押さえられてしまった。


「ううっ」


 そして黒ずくめの男たちは少女の服を兄の血で濡れた剣で引き裂き、少女の口に巻いてしゃべれないようにする。


「んーっ!」


 少女は必死の抵抗をするが、黒ずくめの人影はそんな抵抗など気にも留めずに両腕を後ろ手に縛り上げ、そのまま村の奥にある広場まで連れて行った。


 するとその広場にはなんと、少女と同じように猿ぐつわをされて後ろ手に縛られた女性が集められていた。


「ん-っ!」

「んんーっ!」


 彼女たちはなんとか逃れようと暴れるが、黒ずくめの人影は淡々と彼女たちの服を血で濡れた剣で切り裂いていった。


 一人、また一人と裸にされ、そして黒ずくめの人影は彼女たちにのしかかり……。


◆◇◆


 ラントヴィルを黒ずくめの集団が襲ってから二日後、ボーダーブルク軍の一隊がラントヴィルにやってきた。


 だが時すでに遅く、ラントヴィルの村は焼け落ちていた。しかもあちこちに焼け焦げた村人のものと思しき遺体が転がっている。


「隊長……これは……」」

「なっ! なんだこれは! 早く生存者を探せ!」


 隊長の命令に、部隊の者たちは急いで村の捜索を始めた。するとすぐに青い顔をした兵士が隊長のところに戻ってきた。


「隊長……む、村の、女たちが……」

「なんだ! 生存者は!」

「それが……」


 真っ青な顔をした兵士に案内され、村の奥の広場にやってきた部隊の者たちは一様に絶句した。


 そこには後ろ手に縛られた女性たちが首を落とされた状態で横たわっており、しかも乱暴された形跡があったのだ。


「誰がこんなことを!」


 隊長は怒りを露わにする。すると、生存者の捜索に向かっていた兵士の一人が駆け寄ってきた。


「隊長! 村人のご遺体にこんなものが! っ!? なんですか! これは!」


 兵士は短剣を隊長に差し出すが、あまりの惨状に気付いて思わず声を上げた。


 隊長は受け取った短剣を見て思わず声を荒らげる。


「この短剣はシェウミリエの!? この外道が!」

「なんでここまでのことを!」

「そうだ。この短剣を見ろ! こいつはシェウミリエの兵士が使っているものだ」

「クソッタレが!」

「許せねぇ!」

「隊長! 俺らでこの人たちの仇を!」

「そうですよ! 隊長!」

「ああ、お前たちの言うとおりだ。だがまずは将軍に伝令だ。シェウミリエのクソどもが! 俺たちが反撃しないでいてやっていたのにふざけた真似しやがって!」


 隊長の、そして兵士たちの怒りのこもった声が焼け落ちたラントヴィルの村に響き渡るのだった。

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