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魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結済】  作者: 一色孝太郎


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第59話 開かれる戦端

 ここはシェウミリエ帝国の帝都イェンザールにある宮殿内の玉座の間。その玉座にはシェウミリエ帝国の皇帝が気だるげに座っていた。


 長く伸ばした髭と脂ぎった顔、でっぷりと大きく突き出た腹とそれに負けないくらいの横幅を持ち、見る者になんとも不快感を与えるような外見をしている。


 そんな皇帝のもとに伝令の男がやってきた。


「陛下、魔族どもから書状が送られて参りました」

「ふむ」


 皇帝は尊大な態度でそれを受け取り、内容を確認する。


「ほう。中々に愚かしいことをいう。我が軍の兵がゾンビをけしかけたなどとは。しかも、朕に謝罪して首謀者を引き渡せなどと言っておる」


 その言葉を聞き、玉座の間に集まっている廷臣たちからは嘲笑するような声が聞こえてくる。


「やれやれ、仕方ないのぅ。どうやら愚かなる魔族どもは我が軍の兵を殺したのだそうだ」


 皇帝はニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。


「どうせ使者は来ておらんだろう?」

「はっ」

「ふむ。来ておれば首を落として送り返してやったものを……。ならば目にもの見せてくれよう。ズィーシャードにいるガーニィに伝令だ。作戦を実施するように伝えよ!」

「ははっ!」


 伝令の男が退出すると皇帝は再び邪悪な笑みを浮かべた。


「ぐふふ、奴らも便利なものをくれたものよ」


 皇帝はぼそりとそう小さくつぶやくと立ち上がった。


「さて、後宮へ行くか。今日は誰にするかのぅ」


 醜悪な顔をさらに醜く歪め、皇帝は玉座の間を後にする。そんな彼の様子を居並ぶ廷臣たちは頭を下げて見送るのだった。


◆◇◆


「シェウミリエの連中がコーデリア峠に向かって進軍してきております!」


 ボーダーブルクの町長室に兵士の男が血相を変えて飛び込んできた。


「そうか。まあそうだろうと思っていた。敵の戦力は?」


 執務机の前に座っているオリアナは表情一つ変えずに聞き返した。


「数は千ほどですが、編成までは不明です」

「そうか……」


 オリアナはじっと考え込むような素振りを見せる。


「念のため補給の準備を整えておけ。守備隊からの増援要請は?」

「ありません」

「わかった。緊急防衛会議を召集する! それからキエルナに報告を入れろ」

「ははっ!」


 オリアナの命令を受け、兵士の男は敬礼をして退室する。


「……おかしい。正面から攻めたとしてもコーデリア峠は落とせないはずだ。一体何を考えている?」 


 オリアナは険しい表情でそう呟くと、背もたれに体を預けるのだった。


◆◇◆


 緊急防衛会議が始まるとすぐに一人の将軍が立ち上がった。スキンヘッドの強面のその男は過激な持論を展開する。


「ゾンビを放つなど、もはや人族の侵略は目に余る。平和を求め、なるべく人族と関わらないように守りに徹するという考えは間違いだったのだ! 今すぐにシェウミリエ帝国を攻め滅ぼすべきだ!」


 すると二メートル以上はあろうかという巨体に髭面の将軍が立ち上がった。その姿はいかにも猛将といった雰囲気が漂っている。


「攻め滅ぼすまでは必要ない。だがたった三百年前しか経っていないというのにあの戦争をもう忘れた愚か者どもにはその身をもって分からせてやる必要があるだろう」

「なるほど。エイブラム将軍とブライアン将軍の意見はよく分かった。ローレンス参謀長はどうだ?」

「そうですね。私はブライアン将軍と同じ意見です。滅ぼすまでは必要ないでしょうが、敵が懲りないのであればそのときは滅ぼすべきです。特に今回のゾンビ発生器の設置は到底許されることではありません。ただ……」


 ローレンス参謀長は立ち上がり、くいッと眼鏡の位置を直した。


「今回のシェウミリエ帝国の行動はあまりに不自然です。いくらシェウミリエ帝国が三百年前の人魔戦争の当事国ではないとはいえ、我々に手を出しても勝てないということは理解しているはずです。そうですね? エイブラム将軍」

「無論だ。魔力の低い人族など、数がどれだけいようとも負けるはずがない」


 するとエイブラム将軍は力強くそう言い切った。


「ですので、なんの作戦もなく攻めるなど考えられません。ゾンビ発生器の他にも何か切り札を用意しているはずです。そのため、今すぐにシェウミリエ帝国を攻め滅ぼすという案は危険が大きいでしょう」

「ちっ」


 エイブラム将軍は舌打ちをしたが、居並ぶ将官は納得した様子で頷いている。


「従いまして開戦後しばらくの間はコーデリア峠は防戦に徹しつつ、領境付近からの敵の別動隊による侵入を撃退すべきです」

「なるほど。ゾンビを撒いたのは侵入経路を確保したいという狙いがあったということか」


 ローレンスの説明を聞いてオリアナも納得した様子で聞き返してきた。


「そのとおりです。あわよくば我々の兵力を減らせればいい、くらいの狙いもあったことでしょうがね。ともかく、まずは領境に近い村の住人を避難させましょう。まずは我々の同胞の安全確保が優先です」


 するとローレンスにブライアン将軍が質問する。


「ローレンス、防御に徹するのはどのぐらいの期間を想定している?」

「基本的には敵の攻勢が止まるまでです。優勢な間は敵も切り札を使う必要がありません。敵の勢いを見極め、適切にまずは我々の土地に侵入した敵を討つのです」

「敵が逃げ帰ったらどうする?」

「多少の追撃は構いませんし、補給を叩くのも問題ありません。ただし、裏を取られないようにだけは注意してください」

「わかった」

「町長もよろしいですか?」

「……そうだな。誰か意見のある者はあるか?」

「俺に補給を叩かせろ!」

「ダメです。エイブラム将軍が出れば全面的な衝突に発展します。まだ侵略者たちの全容が分からない間は切り札であるエイブラム将軍を出すわけにはいきません」

「……そうか」


 切り札とおだてられたエイブラム将軍はニヤニヤと満更でもなさそうな表情をしている。


「よし、わかった。ローレンスの案を採用しよう。ただし私から一点、武器を持たぬ者はできる限り殺すな。我々は人族を滅ぼしたいわけではない。それに人魔戦争を終結させられたのは、先代魔王陛下のこの方針のおかげだ。もし無差別に殺していれば講和はなく、もっと多くの血が流れたはずだ」


 オリアナの言葉に一同は神妙な面持ちで頷いたのだった。

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