第49話 再びのゾンビ大量発生
「ゾンビですか?」
「はい。ボーダーブルクはキエルナに対して応援を要請しました。それを受けて父は私を派遣することを決定しました。そこでお願いがあるのですが、もしよろしければお二人のお力もお借りできませんか?」
「え?」
「俺たちの、ですか?」
「はい。父は最悪のケースを想定しています」
「最悪のケースって……」
「はい。ホリーさんのご想像のとおり、原因があのゾンビを発生させる魔道具であるケースです」
「っ!」
私の脳裏にあの恐ろしい感覚がフラッシュバックしてくる。
「もしそうであればホワイトホルンでゾンビを相手に戦ったニールさんのご経験を、そしてホリーさんの奇跡の力をお借りしたいのです」
正直、怖い。またあの宝玉があったらと思うと逃げ出したくなる。
だが、浄化の奇跡があればゾンビの被害は確実に小さく抑えることができることは間違いない。
ならば私は!
「わかりました。でも、ニール兄さんはまだ……」
「いや、俺も行くよ。ホリーだけゾンビのいる場所に行かせるわけにはいかないからさ。それに、この義手でどこまでやれるか、試してみたいんだ」
「ニール兄さん……」
「大丈夫だって。俺にはエルドレッド殿下にいただいたこの義手があるんだから」
不安ではあるけれど、さすがに今回ニール兄さんが前線に出るようなことはないはずだ。
「うん、わかった」
それを聞いたエルドレッド様はいつもどおりの紳士的な笑みを浮かべた。
「では、決まりですね。明日の朝一番、魔動車でボーダーブルクに向かいます」
「はい」
「わかりました」
こうして私たちは急遽、ゾンビ退治に向かうこととなったのだった。
◆◇◆
翌朝、朝食を食べて寮の前で待っている私たちの前に一台の魔動車が滑るようにやってきた。この魔動車は私たちが乗せてもらったものとは別の種類のようで、ちょっとごつごつしている。
魔動車は私たちの前に停車し、助手席からエルドレッド様が降りてきた。
「おはようございます。ホリーさん、ニールさん」
「「おはようございます」」
「準備はよろしいですか?」
「はい。大丈夫です。ではホリーさん、こちらへ」
エルドレッド様に手を引かれ、私は魔動車に乗り込んだ。すると運転席にはなんとニコラさんが座っている。
「おお、おはようさん」
「え? あ、おはようございます。あの、もしかしてニコラさんもゾンビ退治に?」
「せやで。せっかくホリーちゃんの生奇跡が見れるんや。じっくり観察させてもらうで?」
「あ、はい。でも、ゾンビ退治は……」
あまりに危険なのではないだろうか?
「大丈夫やって。それに今回はアタシの試作型踏破用魔動車ビルベリー号の実地試験や」
「ビルベリー?」
「せやで。森の中まで魔動車で入って、ビルベリーを摘んで帰って来れるっちゅうんがコンセプトやからな。森で熊に襲われても一発や二発なら耐える頑丈な装甲付きやで」
「え……?」
「その分ちょいと燃費が悪いんやがな。けどアタシやエル坊が運転するさかい、問題あらへん」
ニコラさんはそう言って胸を張るが、魔動車を動かせるだけの魔力があるのなら熊を追い払えばいいだけではないだろうか?
そんな会話をしているうちにエルドレッド様とニール兄さんも乗り込んできた。
「お? 準備はええな? ほなら、行くで?」
「ニコラ、くれぐれも安全運転で頼みますよ? 後ろには物資を積んだ魔動車もいるんですからね?」
「分かっとるって。アタシ、まだ事故ったことないねんから」
「それが心配なんです」
「エル坊は心配性やなぁ」
「真っ当な指摘です」
「あはははは」
ニコラさんはエルドレッド様の指摘を笑い飛ばすと、ゆっくり魔動車を発進させた。
魔動車は滑るように進んでいき、やがて大通りに出る。すると私たちの後ろから二台の魔動車がついてきた。
「ニコラさん、魔動車に追いかけられてますよ」
「ん? ああ、あれは貨物用魔動車やで。軍用にって作ったんやけど、たまに商人も使うとるな」
「貨物? あ、荷馬車みたいな感じですか?」
「せや。ボーダーブルクに薬なんかを運ばなあかんやろ?」
「そうですね。そうえいば、ボーダーブルクっていうのはどういうところなんですか?」
「んー、せやな」
ニコラさんは少し考えるそぶりをするが、すぐに諦めたようだ。
「エル坊。頼むで」
「やれやれ、ニコラは本当に魔道具以外には興味がないんですね」
「エル坊に言われたかないで」
「全く……」
そう言ってエルドレッド様は小さくため息をついた。
「ホリーさん、ボーダーブルクというのは私たち魔族領の南東に位置する人族の領域との境界にある城塞都市です」
「城塞都市?」
「そうです。人々は度々侵略軍を送ってくるのですが、その侵略を食い止める最前線がボーダーブルクです。ここが大きなゾンビの被害が発生するのは避けたいですし、ゾンビが峠を越えて人族の領域に流れてしまえばそれはそれで面倒なこととなります」
「面倒なこと、ですか?」
「はい。人族の国は強欲なようですからね。我々の責任だと言って様々な要求をしてくることでしょう」
「要求? どうしてそんなことをするんですか?」
「我々には理解できませんが、過去にはゾンビで被害を受けたとして金銭や土地による損害賠償を請求されたという記録が残っています」
「え? どうしてそんなことを? ゾンビなんてどうしようもないじゃないですか。人族だって力を合わせて退治しないと大変なことになりますよね?」
「ええ、私もそう思うのですがね……」
エルドレッド様はそう言うと、今度は大きなため息をついたのだった。
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