第48話 不思議な動物たち
見慣れた動物たちのエリアを通り抜け、私たちは鳥のエリアにやってきた。
しかし不思議なことに、中には深い池が作られていて白と黒のずんぐりむっくりした妙な生き物がひょこひょこと歩いている。
「ねえ、あれ、何かな? ここ、鳥のエリアだよね」
「ああ、見たことないな。ええと、ここに住んでいるのはホッカイペンギンという鳥の一種らしいぞ。海で魚を捕まえて暮らしているらしい」
「海? 海ってすごい広い湖なんだよね?」
「ああ。しかも水が塩辛いって習ったよな」
「うん。でも水が塩辛かったら飲めないだろうし、動物は大変そうだよね」
「そうだな」
「でもあのホッカイペンギンって、飛ばないのかな? 鳥だったら飛んで逃げるんじゃない?」
「飛べないらしい。泳ぐのが上手い代わりに飛べないんだって」
「そうなんだ」
なんというか、不思議な生き物だ。鳥は肉食動物やゾンビから逃げるために飛ぶ必要があるはずなのに、どうして大丈夫なんだろうか?
もしかすると海というのは私が思っているよりも広くて、泳いで逃げれば逃げ切れてしまうのかもしれない。
ホッカイペンギンのエリアを抜け、白鳥からニワトリまで様々な鳥が展示されているエリアを見学した私たちはいよいよ南方の動物が展示されているという建物の場所にやってきた。
どうやら南方の動物は暖かいところに住んでいるので、暖房の効いた室内で飼育されているらしい。
色々な動物が飼育されているというだけあって、建物がとんでもなく大きい。
「よし、入るぞ」
「うん」
私はワクワクしながら建物の中に入った。
二重扉になっているその建物の内部は恐ろしいほどに蒸し暑い。ホワイトホルンの南にあるあの高い山々を越えた先にはこんなにも蒸し暑い場所があるのだろうか?
想像もつかないが、ホッカイペンギンのような不思議な生き物がいるのだ。きっと山の向こう側にはそんな世界が広がっているのだろう。
そんなことを思いつつも奥に進んだ私たちを最初に出迎えてくれたのは、あの案内板にかかれていた首の長い不思議な動物だった。
立っている姿から見るに背の高さは四~五メートルくらいで、そのうち首の長さだけで二メートルくらいはありそうだ。体には茶褐色の斑紋があり、すらりとした長い四本の足でその巨体を支えている。
……どうしてあんなに首が長いんだろうか? あんなに首が長いとネズミのゾンビが近づいてきたときに気付けないのではないだろうか?
「ホリー、あの動物はハンモンキリンという動物らしいぞ」
「ハンモンキリン……すごい」
初めて見る不思議な動物に私は思わず見入ってしまう。
「他にもタテジマキリンという種類もいるらしいな」
「え? どこに?」
私は思わず檻の中をくまなく確認するが、それらしい動物はいない。
「この動物園じゃなくて、南のほうに住んでいるらしい」
「えっ? あ、そうなんだ……」
「ごめんごめん。でも不思議な動物だよな」
「うん」
「それとさ」
「なあに?」
「あれ、絶対ネズミのゾンビにかじられるよな」
「私もそう思う」
私もまったく同じことを考えていた。
「どうやって逃げるのかな?」
「さぁ……」
二人とも正解を知らないのでそこで会話が途切れてしまう。
それからじっとハンモンキリンを観察していると、ニール兄さんが次を促してきた。
「なあ、次の動物を見に行こうぜ」
「うん」
そうして次の檻に行くと、今度もまた不思議な動物が呑気に草をはんでいた。
この動物はなんとなくロバっぽい体格なのだが、なんとその体は白と黒の縦縞の模様をしているのだ。
ただ、あの模様はいくらなんでも目立ちすぎではないだろうか?
ロバっぽいのでネズミのゾンビからは逃げられそうだが、あれでは他の肉食獣にすぐに食べられてしまう気がする。
私が唖然として見ていると、ニール兄さんが案内板を読んでくれた。
「これはシマロバという動物らしい。南のほうの少し乾燥した草原に住んでいるみたいだぞ」
「え? それじゃああの色は余計に目立つんじゃない?」
「俺もそう思うけど……」
やっぱり不思議だが、やはり二人とも答えを知っているわけではないので会話が途切れてしまう。
それからしばらくシマロバを観察していると、またしてもニール兄さんが次へと促してくれる。
「ホリー」
「うん」
続いてやってきた檻にはまたまた不思議な動物がたくさんいた。体の形は熊っぽいのだが、なんとその体毛が驚いたことに白と黒なのだ。
その不思議な熊たちは地べたに座り、前脚を器用に使って不思議な植物を食べている。
「……熊?」
「……熊、なのか?」
ニール兄さんが案内板を確認してくれた。
「ええと、この動物はシロクログマという名前らしい」
「うん。見ればわかるよね」
「ああ……」
「なんでこんな色してるの?」
「……よく分かっていないらしい」
私もニール兄さんの見ている案内板を確認するが、たしかになぜこのような色になっているのかは不明と書かれている。
どうやら野生の個体が少ないのだそうだ。
ちなみにこの動物園にいるシロクログマはなんと三百年前に人族の国に戦争を仕掛けられたとき、反撃した部隊が珍しい生き物を見つけたと言って連れ帰ってきたのが始まりのようだ。
それが増えに増えて、今や百頭ほどになったそうだ。
こんなに増えるのならどうして野生の個体が減ってしまったのだろうか?
やはりゾンビのせいかもしれない。
それにしてもこのシロクログマ、なんだかちょっと、いや、すごく可愛いかもしれない。
目の周りと耳が黒くて顔が真っ白というカラーリングも可愛いし、座って植物を食べている様子がなんだか酔っ払ったおじさんみたいで愛嬌がある。
「シロクログマ、可愛いね」
「え? ああ、そうだな。普通の熊よりはそうかもな」
「えー?」
残念ながら、どうやらニール兄さんはあまり可愛いとは思わなかったようだ。
それからも私たちは動物園で様々な動物を観察し、丸一日楽しんだ私たちはちょうど夕食の時間に寮へと戻ってきた。
寮に戻ってくるや否や、エルドレッド様が血相を変えて駆け寄ってきた。
「あ、エルドレッド様。ただいま戻りました」
「ホリーさん、ニールさん、一大事です」
「え? どうしたんですか?」
ボーダーブルクという領境の町でゾンビの大量発生が確認されました」
「えっ!?」
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