第45話 奇跡の研究
翌朝、私たちはエルドレッド様の実験室にやってきた。
「それではホリーさん、どうぞよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
今日は奇跡を発動できる魔道具を作るため、奇跡と相性のいい素材を調べるそうなのだが……。
「よろしゅう頼むで」
なぜかエルドレッド様の実験室にニコラさんが何食わぬ顔で入り込んでいる。
「……なぜニコラがいるのですか?」
エルドレッド様が渋い表情でそう尋ねると、ニコラさんはものすごいドヤ顔で説明を始めた。
「そりゃ当然やろ。同じことは一度にやったほうが効率ええやないか。エル坊だて昨日言うとったやんか。ホリーちゃん、忙しいんやろ?」
「……」
「なんや? エル坊、もしかしてホリーちゃんに同じことを何度もやらせようっちゅうか?」
「ぐ……」
「それに今日はエル坊の日や。せやから、アタシは見させてもらうだけや。これなら文句ないやろ?」
ずっと渋い顔をしているエルドレッド様にニコラさんはしたり顔で言葉を続ける。
「そういえばニール君の魔動義手、改良のアイデアがあるんやけどなぁ」
エルドレッド様はますます渋い顔になったが、結局ニコラさんの同席を許可した。
「……仕方ありませんね。後で教えてもらいますからね」
「もちろんや」
「では改めてホリーさん。今日は様々な素材を用意しました。それぞれの素材を通して奇跡を発動できるのかを確認します」
そう言ってエルドレッド様の指さした先には小箱に入れられた数百種類もの素材が置いてあった。金や銀、銅や鉄などといった金属、ルビーやサファイヤの他にも名前を聞いたこともないような無数の宝石、様々な種類の木、草や花、綿や絹といった糸、さらには様々な動物の毛や角、骨などおよそ考え得るすべてのものが並べられている。
「あの、これ、全部やるんですか?」
「ええ、できる限りお願いします。とはいえ、優先順位はつけておきましたので番号の若い順にお願いします」
「わかりました」
私はまず一番の番号が書かれた白金という不思議な金属を手に取ると、浄化の奇跡を白金の素材を通すようにしながら発動しようとした。
「あ、あれ?」
しかしどうにも上手く中を通ってはくれず、うまく奇跡を発動することができない。
「はぇ~、ホンマに瞳の色が金に変わるんやな。それに髪も全体が光っとる。どういう仕組みになっとるんや?」
ニコラさんが私の周りをうろうろしながらそんなことを言ってくる。
「なあ、ホリーちゃん。この髪、もろてもええか?」
「え?」
「おわっ!? 痛たたた。なんやこれ? 手ぇ弾かれよった」
私は思わず奇跡の発動をやめて振り返った。
よかった。怪我はしていない。
「ちょっと! ニコラ!」
「ニコラさん! やめてください!」
エルドレッド様とニール兄さんがニコラさんと私の間に割って入ってきた。
「ニコラ、勝手にこんなことをするなら出て行ってもらいますよ?」
「ああ、悪かったって。ホリーちゃん、ごめんな」
「はい。ただ、髪は私が奇跡を使うのにとても大事なものなんです。だからあげられませんし、髪を抜くのも勘弁してください」
「すまんすまん。もうせぇへん。ほな、ベッドの抜け毛とかもらえへんか?」
「抜け毛? 抜け毛って、もしかして私のですか?」
「せやで」
「私多分、家で髪の毛抜けたことないと思います」
「は? なんやて? 寝とったら髪の毛の一本や二本くらい普通抜けるもんやろ?」
「え? そうなんですか? でも掃除していて自分の髪の毛が出てきたことないですよ?」
「はー、不思議やな。聖女っちゅうんは髪が抜けへんのか?」
「わかりませんけど、奇跡を使うには髪が長ければ長いほどいいんだそうです。だから人族の町の聖女の人たちは一生髪を切らずに過ごすそうですよ」
「……それ、生活できへんのとちゃうんか?」
「私もそう思います……」
あきれ顔でそう言ったニコラさんに私は同意する。正直今の膝までの長さだって、長すぎて面倒だと思っているくらいなのだから。
「あの、そのうち伸びたら切りますのでそのときでよければ」
「ホンマか!? おおきに!」
「ホリーさん! そのときは私にもお願いしますよ!」
エルドレッド様が横からすごい勢いで会話に割り込んできた。
「は、はい。もちろんです」
突然のことに驚いたが、私はなんとかそう答える。やはりニコラさんの言っていたとおり、エルドレッド様は魔道具オタクのようだ。
「あ、あの、それよりこの白金という金属なんですけど……」
「ああ、そうでしたね。たしかに見ていた限り白金は奇跡の力を媒介することはできないようです。正直この結果には驚きました」
「え? そうなんですか?」
「せやで。白金は別名、万能魔導金属や。普通の素材は魔力の質によって通しやすい通しにくいはあるんやけどな。どんな魔力でも白金を使えば大抵の場合は最高効率を叩きだすんや」
「ですが、白金はあまり量が取れません。一点物の特別な魔道具を生産するのであれば問題ありませんが、量産するとなるとコストがかかりすぎてしまいます。そのため、適切な素材を組み合わせる必要が出てくるのです」
「そうなんですね」
「エル坊。白金がダメっちゅうことは銀もダメなんかな?」
「可能性が高そうですね。ではホリーさん、続きをお願いします」
「はい」
こうして私たちは実験を続けるのだった。
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