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魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結済】  作者: 一色孝太郎


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第38話 初めての魔動車

 翌朝ホテルをチェックアウトすると、正面の馬車止めに見慣れない車輪つきの黒い箱のような何かが停まっていた。


 一見すると馬のない馬車のように見えなくもないが、ものすごい違和感がある。


 その箱は何やら二列のソファーのようなものが並んでおり、前列のソファーに一人の紳士が座っており、箱の隣に一人の紳士が立っていた。箱の中に座っている紳士の手元にはよく分からない丸いものがある。


 そのうちの立っている紳士が私たちに声をかけてきた。


「おはようございます。ホリー様、ニール様」

「え? あ、おはようございます」

「我々はヒューバート町長のご命令により参りました。私はシュワインベルグ町役場財政局予算課副課長のジェフェリーと申します。それと現在ハンドルを預かっておりますのは、私の部下でシュワインベルグ町役場財政局予算課のダレルと申す者です。お二人を魔動車にてキエルナまでお送りするよう、仰せつかっております」


 そういってジェフェリー副課長は恭しく礼をした。どうやらこの箱が魔動車らしい。


「ホワイトホルンの衛兵、ニールです」

「薬師のホリーです」


 一通り自己紹介を済ませると、ジェフェリー副課長が魔動車の側面に手をかけた。するとなんとまるで扉のようにそこが開いたではないか!


「ホリー様、どうぞお乗りください」

「えっと、ありがとうございます」


 とは答えたものの、これはどうすればいいのだろうか?


「ほら、ホリー」

「え?」


 ニール兄さんが私に手を差し出してきたので、よく分からないが私はその手を取った。


 するとニール兄さんは私を魔動車の前まで連れて行ってくれ、そのまま備え付けられた踏み台を使って乗り込んだ。


 それからニール兄さんは私を魔動車に引っ張り上げてくれる。


「えっと、ありがとう?」

「何で疑問形なんだよ。ほら、奥に座れよ」

「うん」


 よく分からないが、私はソファーのようなものに着席した。


 座面はふかふかしており、思ったよりも座り心地がいいかもしれない。


 私が座面の感触を確かめていると私の隣にニール兄さんが座り、ジェフェリー副課長は前の座席に座った。


「それでは、発進いたします」


 ジェフェリー副課長が合図をすると、なんと私たちの乗っている魔動車が音もなくゆっくりと動きだした!


「え? 嘘? すごい!」


 魔道具で動いているというのは聞いていたが、こんなに静かだとは思わなかった。


 やがて魔動車はホテルの敷地を出て大通りをゆっくりと進んでいく。


「ホリー様は、魔動車にお乗りになるのは初めてでらっしゃいますか?」

「はい! すごいです!」

「さようでございます。それですと、町を出てからはもっと驚かれると思いますよ」

「えっ? どういうことですか?」

「それは、出てからのお楽しみでございます」


 はぐらかされてしまった。


「ねえ、ニール兄さん。どういうこと?」

「そうだなぁ。ま、楽しみにしてたらいいんじゃないか?」

「ええっ? もう! ニール兄さんまで!」


 ちょっと大げさに抗議すると、ニール兄さんは楽しそうに笑う。


 そうしているうちに私たちを乗せた魔動車は門を抜け、町の外にやってきた。


 ホワイトホルンよりは少し低いが、それでも高い雪壁が道の左右にそびえ立っている。


「行きますよ」

「えっ?」


 ジェフェリー副課長がそう言うと、いきなり魔動車がスピードを上げた。


「え? え? 速い! すごい!」


 ウォーレンさんの馬車とは比べ物にならないほどのスピードだ。にもかかわらず馬車と比べてほとんど揺れず、ガタガタという音だって小さい。


「こちらの魔動車はキエルナ魔道具工房社製の最新モデルで、なんと最高時速は四十キロにもなるのです」

「え? 時速? ってなんですか?」

「ああ、失礼しました。時速というのは一時間に何キロメートル進むのかを示す速さの指標で、乗合馬車ですと時速五キロほどです」

「じゃあ、八倍速いってことですか?」

「そのとおりでございます」


 それはすごい。馬車よりも速いのに音も静かだし、何よりこの座席の座り心地がいいのでお尻が痛くなることもなさそうだ。


 これならいつまでだって乗っていられそうだ。


 正面からは冷たい風が私の長い髪を撫で、雪壁はまるで飛んでいくかのように後ろへと流れていく。


 私は夢中になってその非日常的な光景を眺めるのだった。

魔動車の見た目は、前部にエンジンルームのないフォード・モデルTのタウンカーをご想像ください。


更新は毎日 21:00 となります。

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