嫁さんと初めてのキャンプ
結婚して23年来の付き合いですが、嫁さんと二人でキャンプをしたことがありません。これまでに息子を連れて山の中に籠ったり、ソロのキャンプは散々してきたので、キャンプに対するスキルはあります。しかし、嫁さんにそのような僕を見せる機会がありませんでした。誘ったことはあるんです。でも、
「え~、宿がいい。虫が嫌。温泉につかりたい」
そんな感じだったんです。まー、僕にしても、一人の旅が好きだったので、それ以上、誘うことはありませんでした。ところが、今回、何気に「キャンプに一緒に行こうか?」と声を掛けてみたら、「行ってみようか」と返ってきたのです。
――マジで!?
そんなこんなで、嫁さんを喜ばせるミッションが僕に課せられました。先ず、彼女は倹約家なので、お金を掛けるのは不安がらせます。そうした意味では、キャンプは比較的予算を少なくすることが出来るので相性は良いはず。ただ、嫁さんのキャンプに対する先入観に、
・虫がいる。
・汚れる。
・片付けが大変。
といったイメージがありました。これらを払拭しなければなりません。実際には、僕がスマートに処理をしました。この辺りは慣れたもんです。ただ、不便さの解消だけでは、満足度は上がりません。「嬉しい」を創出しないと。
今回は、奈良県川上村にある白川渡オートキャンプ場を利用しました。二日目の目的地が大台ヶ原で、そのアクセスに便利な位置にあります。とても大きなキャンプ場で、サイトに車を駐車してテントを設置することができました。ただ、フリーマーケットのように、ギュウギュウ詰めにテントが林立しています。
――ゲッ!
いつもは人ごみを避けてソロキャンプ、いや野宿を楽しんでいる僕です。素直に嫌だな~と思いました。しかし、今回は嫁さんが一緒。キャンプ場を利用する最大の目的は清潔なトイレです。嫁さんにトイレのない野宿は無理。仕方がないな~、と半ばあきらめていたのですが……。
「あちらも使えますよ」
係員が指さした先は、キャンプ場の中心地から離れた場所でした。橋を越えた、山を背にした狭いエリアで、誰もテントを張っていません。即決でそこに決めました。僕のイメージにピッタリ。ただ、トイレは少し遠くなりました。テントを設置した僕たちは、車で10分ほどの距離にある、「入之波温泉 山鳩湯」で汗を流します。最高の温泉でした。後は酒と飯。車に乗って大急ぎで帰ります。
今回のキャンプでは、友人からキャンプギアをお借りしました。背もたれのある立派なパイプ椅子、折りたたみのテーブル、焚火台。とても助かりました。スーパーカブに乗って野宿を繰り返す僕は、椅子を使わずに胡坐をかくようになっていたし、焚火も七輪で済ましています。でも、今回は嫁さんが主役なので、快適さと演出は必要でした。ハイバックの椅子、とてもラクチンでした。焚火の炎、見事なファイヤダンスを披露してくれました。ありがとうございます。
キャンプ飯は、アヒージョと焼き肉。ビールと赤ワインも用意しました。定番なメニューですが、材料は美味しいものを厳選。また、豪快な焚火を見ながらの食事は、雰囲気が盛り上がります。どんなに笑っても、周りに迷惑が掛かりません。また、酒がすすむとトイレに行きたくなります。懐中電灯を持って、手つなぎで二人でトイレを往復しました。そうしたちょっとしたことに、嫁さんが喜んでくれます。良い思い出になりました。
キャンプを挟んで、初日は奈良の明日香村での歴史散策。石舞台古墳や高松塚古墳、博物館を2軒、更には飛鳥寺を訪問しました。どこも足を運んだことがある場所ですが、個人的に飛鳥寺がとても良かった。訪問者に対して、お寺の方が飛鳥寺の由来を語ってくれたのです。どれも勉強してきた内容で、僕にとっては新鮮味がありません。それなのに涙が流れました。そんな僕を見て嫁さんが言います。
「推しだもんね」
僕の頭の中は、聖徳太子の世界のドラマが詰まっています。お寺の方の一言一言が、それらのドラマを刺激しました。これも「推し」なんだと、嫁さんの言葉で知りました。
二日目は、大台ヶ原。僕が登山をする切っ掛けになった山で、いつかは嫁さんと登ってみたいと常々思っていました。それが実現したのです。ただ、GWの大台ヶ原は多くの登山客で賑わっていました。駐車場が一杯どころか溢れていて、大台ヶ原ドライブウェイを数珠つなぎに縦列駐車。2kmは伸びていたんじゃないでしょうか。ただ、ラッキーなことに駐車場に停めることが出来ました。
大台ヶ原は、山頂近くに駐車場と登山口があるので、初心者にとても優しいコースになります。特に、嫁さんは運動をしていないので丁度良い。それでいて、絶景を楽しむことが出来ます。日出ケ岳の山頂からは、熊野灘を見下ろすことが出来ました。天気は上々。気温は意外と低く。朝一は、手袋がないと指先が痛いくらい。そのような登山を、嫁さんは目を輝かして喜んでくれました。それでも、登山は少し負担だったようで、段々と足が遅くなります。途中でショートカットしました。
その後は、紀伊半島の内陸をグルッと一周するドライブ。雲のない青い空、屏風のように屹立する高い山々は深い緑で覆われています。その緑がとても濃厚でエネルギッシュ。熊野の息遣いを感じました。名所である熊野大社や、十津川の谷瀬の吊り橋に足を運んだのですが、どれも良かった。特に、日本一の吊橋は絶叫系で、嫁さんと手を繋いでいたのですが、その手の力が強いこと強いこと。恐怖で「キャーキャー」と叫ぶ嫁さんを見て、僕も満足しました。
帰りの車中で嫁さんは、「また行きたい」と言ってくれました。嫁さん孝行が出来たのではないでしょうか。実は、能登半島に行ってみたいんだけどな……。




