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闇夜の奇襲作戦

「ねぇ、キミの作戦って何なの? そろそろ教えてよ」


 今更作戦がうまくいくのか心配になってきたのか、不安そうな表情で聞いてくる木内。まぁどうせ勝利は確定しているが、いつまでも話さないのもアレなので説明しておくことにした。




「これで全員ですか?」


 男に話を付けてから約30分、村で一応は戦力になるという面々が集会所に集まってきた。男はどうやら村の中でも顔役の立場にあったらしく、代表者に話を付けるという過程をスキップすることが出来た。


「あ、ハイ! 村の中で戦えるのはこれで全員です」


 どうやら揃っていたらしい。ざっと数えてみると数は30名、向こうの軍勢の方が個体個体を見ても上回っている以上真正面からではとてもじゃないが勝ち目がない。村人たちもそれがわかっているのか不安そうだ。しかしそんなことを気にしていては先に進めないので、無視して話しを始める。


「さて、既にお聞きしてるかとも思いますが、今皆様にお集まりいただいた理由はただ一つ、明日この地に襲来する王国兵を打倒するためです」


 この段階で伝達ミスまたは伝達忘れがないことを確認、全員頷いたのを見てから再び口を開く。


「当然今のあなた方には真正面から一対一を挑んでも王国兵に勝てる見込みはない。ですよね?」


 再び全員が頷く。ここまでは俺の予定通り。後はいかにして彼らに俺の策を信用させるかだ。


「正攻法では勝てない以上奇襲戦法を取るしかない。まぁセオリー通り決行は夜がいいでしょう」


 誰からも異論が出ない。さて、長い前置きになったがそろそろ奇襲作戦の方に入らせてもらおう。俺は深く息を吸い込み一言、






               「全員靴を残して全て服を脱げ」







 俺の策は至極単純、どの時代でも戦力差を覆すために使われる方法、奇襲戦法である。が、俺の奇襲戦法は一般的なそれとは異なる様相を呈している。


 俺がそう言うと集会所は怒声に包まれた。怒りをあらわにしてこちらに突っかかって来る者、もうだめだと頭を抱える者、くだらないと言い帰ろうとする者、実にさまざまであるが共通していたのはこれから起こる迫害に対する諦めだった。が、


「聞け馬鹿ども!! 俺の策は確実に成功する!! 帰るなり怒るなりするのは勝手だがまずは話を聞け!!!」


 自分でもこの物言いはどうかと思ったが、効果はてきめんだった。彼らは諦めてはいたが、こちらの話に耳を貸す気にはなったようだ。


「よし! それでは作戦の概要とその手段を取る理由を逐一説明する!! 何か分からないことがあればその場で質問するように!!!」


 もう後に引けないのでこの話し方で進めていくことにした。細かいことがあっても勢いで流せるだろうというせこい考えは内緒である。


「さて、まずは靴を残し服を脱げと言った理由だが、これは衣服電撃戦である以上動きやすければ動きやすい方がいいと判断したためだ」


 平原とかであれば少しでも防御力を上げるべきなのだろうが、残念ながらこれは山中での戦い、しかも野戦なのである。見晴らしが悪いのに相手側が矢を攻撃手段に選択するとは考えづらいし、動きやすさを重視した方がいい。


「あの、すみません」


 村人Aがおずおずと手を挙げていた。先を言うように促すと、


「それなら服を脱ぐ必要ないんじゃないですか? 服でも大して変わりませんよね?」


 村人たちはいっせいに頷く。村人Aが言っているのは正しい。全裸になる理由は動きやすくするためではない。


「ああ、その通り。そちらは次の策に関係する。今からそれを説明するが、その前にこれを見て欲しい」


 そう言うと俺はあらかじめ用意したバケツを村人たちの前に置く、村人たちはいっせいに中を覗き込んだが、次の瞬間全員揃って怪訝そうな顔をした。


「あの、これは一体」


 あちらではメジャーでもこの世界には無いのだろう。まぁ服を染める文化がないと言っていた時点で予想はしていたが。


「墨汁というものだ。今から皆にこれを塗っていく」


 途端にざわめきだす村人たち。見慣れないものを体に塗ることに抵抗感があるのだろう。


「問題ない。これは塗るだけであれば一切人体に害をもたらさない。大量に飲み込んだりしない限りは間違いなく安全だ」


 俺が生成した墨汁である以上成分自体は同じはずだ。であればまぁ人体に有害ということはないだろう。そうでなければ罰ゲームに使われるわけがない。なお墨汁は単体入ってないかと言われるかもしれないが、俺の能力は純物質でなければ、要は混合物であれば単体でも出せるようだ。なんともまぁ都合のいい能力である。


「服を着ていると塗る際にむらができやすいからな。それ故に皆には服を脱いでもらった」


 靴を脱がせなかったのはそうすることで機動力が間違いなく落ちるため。機動力が落ちてしまっては立ち回りに影響してしまう。それに高い位置にいる奴らに攻め込むというときに、わざわざ足元まで隠す意味はない。


「作戦決行は今夜、新月かつ相手が山という見晴らしの悪い場所にいるというこの好条件を逃す手はない。いいか、この作戦は電撃作戦だ。よって大将の首を取ることを最優先しろ。司令塔さえ潰してしまえばあとはどいつもこいつも烏合の衆、混乱に乗じて畳みかけてしまえばいい」


 そこまで言うと再びどよめきが生まれた。しかしそれは先ほどのような諦念から出てきたものではなかった。


「いける……、行けるぞ!!」


「これなら勝てる!!」


「なんという穴のない作戦だ……」


 彼らの士気はこれ以上ないほどまでに高揚していた。後は臆することなく突っ込んでくれさえすれば十二分にやれる。


「さぁ! ここから始まるは稀代の逆転劇!! 勝利を手にするのは我々だ!!!」


「おおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」


 地鳴りのように響き渡る雄叫びからはもうおびえなどは感じられなかった。さぁ作戦を始めようか!!!







 そして現在夜の8時、男どもの雄叫びが聞こえてから既に10分が経過していたが、相変わらず雄叫びは聞こえ続けており止むことがない。逆に敵襲だと叫び声が上がった後悲鳴が聞こえてきたところを見るに、まぁ時間の問題だろう。


「敵将討ち取ったり!!!!」


 そう思った矢先、遠くの方から勝どきが聞こえてきた。間違いない、この声は集会の時にリーダー格だったあの男のものだ。ここまでくればもう勝利は確実だ。


「成る程ねぇ、ところでキミはいかないの?」


 と、ふと疑問に思ったのかそう聞いてくる木内。まぁ立案者がここにいるというのは誰でも疑問に思うことだろう。


「ああ、俺も行こうとは思ったんだが……」


 あの後俺は村の人たちからここに残ってくれるよう頼まれていた。今現在この村は戦える面々が出払ってしまっており、そこをモンスターに襲われたりするとマズイという話だった。また、山で動く際に土地勘が無いと動くのが厳しいのではないかという話も挙がった。どちらもあまりに正論であったため、最終的に俺はここの防衛ということになったのだ。


「ん、終わったみたいだな」


 見てみると体を真っ黒に染めた男たちが帰還するのが見えた。肩から血を流している者、足を怪我し引きずるように歩いている者、負傷者は多数いたが誰一人かけることなく生還していた。刺激が強すぎるということで、木内には向こうの方に行ってもらい、俺は彼らに駆け寄った。そして空に向かって拳を突き出し叫んだ。


「我らの勝利だ!!!!!!!!!!」


 そして村中は割れんばかりの歓声に包まれるのだった。




 ハイベル大陸の小さな村で起きたこの出来事は、後にその作戦の恐ろしいまでの奇抜さ故に世界中を震撼させ、彼の編み出した策は暗夜潜雷槍(あんやせんらいそう)と名付けられた。そしてそれは同時に天才の名を欲しいがままにした名軍師、浅野悠一が初めて世界にその名を知らしめた瞬間でもあったのだ。

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