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レイラン王国第三王女

 戻ってみると、既に彼女たちは料理道具や食器をしまっていた。そこまで時間が経ってはいないはずだが中々に手際がいい。やはり洗剤を渡したことでかなり作業効率が上がっているのだろう。ちなみにスポンジも出したかったのだが、残念ながらスポンジまでは出せなかった。俺のスキルは化学者であって物質創造スキルではないので予想はしていたが、出来れば融通を利かせてそのくらいは出させてほしかった。


「ねぇ、悠一君。その人誰?」


 愛梨は俺の顔を見るなり、俺の背後を指さしてそんなことを言い出した。何のことかと思い後ろを振り返ってみるとそこにいたのはフードを被った女性、というかまさしくさっき助けた彼女である。彼女は俺が見るなり急に地面に手をつき、


「あなたを相当な手練れと見込んで頼みがあります!! どうか私の国をお救いください!!!」


 素性もわからない俺に必死の形相で救いを求めてくる時点で察した。ああ、また俺は厄介ごとに巻き込まれるのかと。俺に出来るのは空を仰ぎため息をつきながらも覚悟を決める事だった。




「申し遅れました。私はレイラン王国の第三王女、シルヴィアというものです。以後お見知りおきを」


 挨拶とともに深々と頭を下げるシルヴィア。立ち振る舞いや喋り方からなんとなく育ちがいいのは察していたが、そうか王女と来たか。


「俺は浅間悠一だ。一応アデル公国の王を暫定的にやっているものだ。こちらこそよろしく頼む」

 

 とりあえず俺が自己紹介で返すと、後ろにいる二人もそれに便乗し、


「あ、私は木内愛梨って言います! 悠一君の……なんだろ。まぁいっか! よろしくお願いします!!」


「私はその……ユーイチさんの従者をしてますリィンです……。その……よろしくお願いします……」


 二人の挨拶は対照的である。初対面の相手にもとてもフレンドリーに話しかける愛梨に対し、リィンは分かってはいたが結構人見知りらしい。いやリィンの場合どちらかというと相手の肩書に委縮してしまってるだけかもしれないが。


「で、だ。大国の第三王女がなんで護衛もつけずにこんな森の中にいるんだよ。簡単に抜け出していいご身分でもねぇだろ」


 普通なら王族の外出には護衛が付く。実際城の騎士たちを軒並み一人で全滅させた俺でも、愛梨が護衛として同行するという条件がなければ国から出ることは許されなかった。それだけ王族が外に出るということは危険であると考えられているのだ。それは彼女自身もわかっているらしく、俺の言葉に首肯し、


「ええ、その通りです。ですがたとえ危険を冒してでも私には出る必要があったのです」


 そして彼女は自身が王国を出る羽目になった経緯について話し始めた。


 彼女の国、レイラン王国には三人の王女がいるらしい。第一王女アイラ、第二王女グレイシア、そして第三王女シルヴィア、現在国内はこの三人の派閥に割れているそうだ。というのも彼女の父親である現国王が最も支持率の高い王女に跡を継がせるという旨の発言をしたからである。お陰様で国内は大混乱、下手をすると内戦が勃発しかねないというところまで来ているらしい。


 そしてそんな中事件は起きた。第二王女が何者かによって毒殺されたのだ。犯人が誰かは明確にわかっていないようだが、恐らく第一王女が指示したのではないかとのこと。第一王女はかねてからその残虐性と高い知能を高く買われていたらしく、もし仮に王になるためなら姉妹を殺すことも厭わないだろうとのこと。


 だとすると次に狙われるのは誰か、考えるまでもなくシルヴィアに決まっている。怖くなった彼女は恐怖のあまり近隣諸国にも助けを求めようとしたが、国王はそんなはずがないと一向に話を聞いてはくれない。だから彼女は単身で国を抜け出したが、道中のこの森で刺客と出くわし駆け付けた俺に身を助けられたということだった。


「あの男は多分第一王女側の刺客です。あの場で私を殺さなかった理由は一つ、もし仮に国外で私を殺しても影武者だろうと言われてしまえば何の意味もなさないからです。だから彼女は私を強引にでも国内に引き戻し、国民全員に私の死を知らしめたいと考えているのでしょう」


 成る程。だからあの男は俺を殺そうとはしても彼女を殺そうとはしていなかったのか。うーん面倒な話になってきたな。けれど同時にこれはチャンスでもある。


「よしわかった。その以来引き受けてやるよ」


 シルヴィアの頼みを承諾すると、彼女は顔を輝かせ、


「ほ、本当ですか!?」


 少し食い気味にそう聞いてきた。


「ちょっと今回は随分即決じゃん。やっぱりキミって美人さんには弱いのかな?」


 即決したことに違和感しかなかったのか後ろからジト目で聞いてくる愛梨。が、それは間違っている。決して彼女が銀髪碧眼の美人巨乳エルフだからとかそういう理由で引き受けたわけではない。とりあえずこのままでは視線が痛いので小声で説明だけはしておく。


「馬鹿、んなわけねぇだろ。俺が欲しいのはレイラン王国の第三王女を助けたという事実だ」


 俺たちがこれから貿易を取り付けようとしている国はどこか、そう、知っての通りレイラン王国だ。つまりレイラン王国の王女に恩を売るというのはそれだけでも交渉のカードとなる。ただでさえ交渉慣れしていない俺たちにとってこのカードがあるかないかの差は大きい。それにもしシルヴィアが王になってくれればその時点で交渉するまでもなく貿易を取り付けることが出来る。つまりどちらに転んでもこの依頼を達成するメリットはあるのだ。


「う、うわぁ……」


 ドン引きしていた。折角説明したのに思いっきり愛梨からドン引きされていた。いや、どうしろと? あなたまだ俺が美人だから助けたって理由の方が良かったんですかね? 後お前は尊敬のまなざしでこちらを見ているリィンを見習ってくれ。最近俺への扱いが雑過ぎじゃないですかね?


「あ、あの~……」


 俺たちがずっと小声で相談していると、シルヴィアから不安そうな声が聞こえてきた。仕方がないので俺は安心させるために笑顔で彼女の方を振り返り、


「ハハハ!! 問題ない!! お前の護衛を引き受けよう!! 大船に乗った気でいてくれたまえ!!!」


 自信満々にそう言って見せると心底ほっとした表情を見せるシルヴィアに、俺の意図を知っているからか頭を押さえため息をつく愛梨。そんな彼女たちを尻目に俺はこれからの算段を立てつつ、一人ほくそ笑むのだった。

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