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迷いの森

 アデル公国とレイラン王国を繋ぐ森にはとある伝説が存在する。『迷いの森』、端的に言うと一度この森に入った人間は抜け出すことが出来なくなるとのこと。勿論抜け出した者の方が多い以上ただのデマであるとは思うが、しかしこの手の伝説があるということは地形的に迷いやすいということだろう。俺たちは迷わないようどうにか方位磁針を片手に細心の注意を払いつつ森の中を進み続ける。だが、


「ねぇ悠一君。ホントにこっちで合ってるの……?」


 どこか不安げな愛梨。普段気丈な彼女がここまで不安そうにしているのは珍しいが、まぁ無理もないだろう。なんせ本来であれば1日と少しで抜けられる森なのだ、3日経った今でも抜けられないなんてまずあり得ない。考えられる可能性はただ一つ、俺たちはどういうわけか知らないがこの森で迷ってしまったらしい。


「ユーイチさん、私たち平気ですよね……?」


 おびえたように言うリィン。シルヴィアも黙ってはいるが、いつまでも森を抜けられないことにいら立ちと焦燥を感じているのは確かだ。


「んーちょっとあそこの水場で休んでいくか。どうしようもねぇしな」


 俺は不安や焦燥を少しでも和らげるため休息を提案。他のメンバーも今の精神状態はよくないとわかっているのか賛同、俺たちは一時的に休みを取ることにした。




 女性陣のはしゃぐ声が聞こえる中、俺は一人今起きている現象について考えていた。彼女たちが水浴びに行っている間にどうにかこの森を抜ける算段を立てたいところだ。まぁ全く手掛かりもないため手詰まりだったりするのだが。


「不良品でも握らせられたのか? マジずっと同じ方角に進んでるのに森から抜け出せねぇなんて話聞いたことねぇよ」


 方位磁針の通りに進んでいる以上、壊れてでもいない限りまず迷うことなどありえない。富士の樹海クラスに広いのであれば分からないが、残念ながらこの森は大した広さはない。森を歩くことに慣れていれば半日程度で抜け出すことも出来ると聞く。


「もう方位磁針に頼らねぇ方がいいかもな」


 かなり不便ではあるが壊れたものに方向を示されるよりは遥かにマシだ。俺はため息をつきポケットに方位磁針をしまおうとし、そこでようやく気付いた。


「あれ? 針の揺れ方がおかしい……?」


 普通であれば方位磁針を動かしても針は精々微弱に振動する程度、高速で揺れるはずがない。しかし現実に起こっている。ここから考えられるのは二つ、一つは本当に修復不可能なまでに壊れている可能性。そしてもう一つは、


「強力な磁場……。何かいるのか……?」


 ここまで奇怪なブレ方は仮に故障でもしないだろう。そう考えれば近くに強力な磁場を発生する何かがあると考えられる。そしてブレ方は次第に大きくなっている以上磁気は移動性であり、かつそいつは今こちらに近づいてきている。そこまで考えがいたったとき、奥の方に黒い影が見えた。黒い影はなにやら体の周りに火花を散らしている。


「成る程雷撃ね。ったくめんどくせぇ相手がきやがったな」


 そこにいたのは一頭の馬。角が生えているのを見るにユニコーンや一角獣といったタイプ、方位磁針の針の揺れの異常を見るにコイツこそが『迷いの森』の原因。つまりコイツを倒しさえすれば森を突破できる。


 だが、最悪なことが一つある。ここが水場だということだ。下手に濡れてしまうと奴の餌食だし、何よりここで回避なんてして湖に電撃が当たって見ろ、間違いなく三人は感電、下手すれば死に至る可能性もある。よって動きまわって撹乱する戦法は取れない。


「ちょっと怖いけど仕方ねぇか」


 俺は覚悟を決める。そしてそのまま雷獣に向かって突っ込んだ。こちらを敵と認識したのだろう、奴が片足を上げ電撃を溜め始めたのが見えたので、出来るだけ水場の方向を向かせない位置に移動。そして雷撃の奔流がこちらめがけて解き放たれた。


「ガァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」


 雷獣から咆哮が放たれる。だがどれほど力を籠めようが俺には奴の攻撃は当たらない。


「ま、ゴムは雷撃を通さねぇなんて話、お前が知ってるわけもないわな」


 奴が雷を放つ直前、俺は化学者のスキルを使用し自身の四方と足元を厚さ10cmのゴム壁で囲っていた。ゴムは絶縁体であるからこれで直接電撃に当たる恐れはないし、かといって木から電流が足に流れ込むこともない。


 そのまま俺は自身の体をゴムでコーティングし、雷獣に向かって突っ込んだ。原理が分かっていないのかいまだに雷撃を放出しているが無駄だ、そしていつも通り俺はニトログリセリンを生成。


「終わりだ」


 距離10mくらいの位置から思い切り奴に向かって投げつける。同時に俺は後ろに下がり、そのまま爆発した。


「ちょっと!! 今の爆発音何!?」


 水浴びから慌てて出てきたのか、服は着ているものの愛梨たちの髪や体は濡れたままだった。とりあえず俺は今あったことを彼女たちに簡単に説明した。


「磁気による方位磁針の故障……。成る程迷いの森の正体はこれでしたか……。ですが今まで雷獣なんてこの辺りで確認されてなかったはず……」


 シルヴィアは俺の説明で大体納得したらしいが、何か引っかかっているようだった。確かにここら一帯の魔物の中ではかなり強い方だったし、未確認なのが不思議なくらいではある。


「まぁ一匹しかいなくて遭遇したらここから出られないレベルなら未確認でも不思議じゃない気もするけどどうなんだろ」


 割と的を射ている愛梨の発言にシルヴィアは一瞬考えるようなそぶりを見せたが、


「それもそうですね。なんにせよこれで森から出られるなら特に問題は……」


 未だ引っかかっているようだが愛梨の意見に賛同していた。まぁ分からないことをいつまでも考えていても仕方ないしな。


「で、ではこれでもうレイラン王国に行けますね!!」


 リィンのホッとしたような声が聞こえる。正直一体と決めつけるのは危険だったが、いたずらに怖がらせるのもよくないので、


「ああ、んじゃあ行きますかね!!」


 俺は今度こそ方位磁針がブレていないことを確認、そしてレイラン王国を目指し南西に向かって歩き出すのだった。

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