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ケットシーの少女

「ここまでくれば平気だろ」


 俺たちはようやく一息つく。というか先ほどから愛梨におぶわせているのがとても忍びない。しかし当の愛梨はけろっとしており、


「そだね。それより大分走っちゃったけど傷口とか開いてないかな」


 そう言いながら背中から少女をおろした。昔空手を習っていたからかどうかは知らないが、かなり体力があるようだ。結果的に俺がおぶるより良かったかもしれない。それはそれで男として複雑なところではあるが。


「よかった……出血は完全に止まってるみたい」


 結構深く切られたように見えたが流石はヒーラー。俺の目から見ても、もう背中の傷は見当たらなかった。


「でもあの町の人たちの反応は一体何だったんだろ。嫌悪感みたいな……」


 彼女が言わんとしていることは分かる。逃走を始めて俺たちが最初に逃げ場として選んだのは、直前までいた都市部だった。木を隠すなら森の中、隠れ場所としては人が多いところの方がいいと判断したからだ。だがそれは叶わなかった。何故なら、


「多分コイツに対しての物だろうな。俺たちだけのときは一切嫌悪感を向けられてなかったところから考えるに」


 俺は未だに目を覚まさない少女を見る。先ほど追われていた時に、呪われた種族がどうとか言っていたがそれと何か関係があるのだろうか。


「ん、んん……」


 それから少ししたところで少女が目を覚ました。自分がどういう状況にあるのかわかっていないのか、彼女はしばらく周り見渡していた。


「あれ? 私切られて……。そうだ! お爺ちゃんが!!」


 何やら慌てだした。自分が切られたことよりもそちらの方が気になるらしい。が、まずは落ち着いてもらわなければ話にならない。


「あーえっとだな。悪いんだけどお前どうしてこんなことになってんだ?」


 自分のコミュ力を恨んだのは今日だけでも既に二回、そろそろ誰かに教えてもらいたいところである。だが、少女にはそれだけでも通じたらしい。


「あの、もしかしてあなた方が私を助けてくれたんですか……?」


 会ってすぐということもあり、随分警戒しているようだがなんとかコミュニケーションは取れるようだ。とりあえず話を続けるため俺たちは彼女の言葉にうなずいた。


「そう、ですか。なんとお礼を申し下たらいいか……」


 俺たちを恩人だと思ったらしくかなりかしこまっていた。いやまぁ助けたのは間違いないのだが、そうもかしこまられると話しづらい。


「あ、うん。いや別にお礼とかはどうでもいいんだけどさ。それよりもなんで騎士に追われてたんだ? なんか悪いことでもしたのか?」


 そう言った途端に彼女の顔が暗くなった。そしてそのままぽつりぽつりと話し始めた。


「この国は活気にあふれているように見えますが、本当は全然そんなことないんです……。それが赦されているのは一部の上流階級にいる人間のみ……。私達には明日を生きるための食料すら与えられてはいないんです……」


 彼女の話を聞いて分かったのは、この国ではとても貧富の差が激しいこと、そしてこの国の王は裕福な暮らしをする人間には一切税をかけず、貧しい人々にひたすら税を負担させるという方針を取っていること。つまるところこの国は完全に選民思想に基づいた政策を取っているのだ。成る程そう考えれば確かに町の人々の少女に対する嫌悪感もわからないことはない。


 先ほど彼女を追いかけていた騎士たちも同様で、決して彼女がケットシーだからという理由で呪われた種族と言ったのではなく、こういった選民思想故に貧民街に住んでいる人の蔑称として呪われた種族という言葉が使われるらしい。全く運しかないくせによく言えたものである。


 また、彼女が騎士に追われている理由だが、これはどうやら先程起きた時にやたら気にしていた『お爺ちゃん』が関係しているらしい。


「私のお爺ちゃん難病で倒れてて……。だから私少しでも元気になるようにって薬草を摘みに行こうとしたんです……。でも、都市部を通過しようとしたところで、ここから先は貧民は立ち入り禁止だと言われて……」


「はぁ!? 同じ国民でしょ!? なんで都市部への立ち入りが禁止されんのよ!! 頭おかしいんじゃないのそいつら!!??」


 それを聞いた愛梨が激昂していたが、これは仕方のないことだ。事実俺たちの住んでいた日本にはあまり見られなかったが、西洋の方に行けばそんなこといくらでもあったそうだ。この国にとって貧民というのは奴隷とほぼ同価値なのだろう。


 よって今俺たちがやるべきは国家体制を変え、彼女の都市部入りを許可させることではない。そんな時間がかかることよりも前に、簡単に片づけられることをやってしまうべきだ。


「愛梨、お前のヒーラーの能力は風邪にも通用するか?」


 そう聞くと、愛梨は自信なさそうではあったが、


「やったことはないけど……、多分やれると思うよ?」


 ならいい。愛梨がどうにもできないならいずれにせよ薬草程度ではどうにもなるまい。だから俺は立ちあがって、


「そのお爺ちゃんとやらの所に案内してくれ。俺には無理だがお前の背中の傷を治したコイツならやれるかもしれん」

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