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アデル公国にやってきました

「聞いてたのと違う……」


 アデル公国に着いた第一印象はそれだった。俺が想像していたのは町にはまるで活気がなく奴隷商売が横行しているような、そんな世界だった。だが実際にはどうだろう。市場は活気にあふれ景観も美しく奴隷制度のようなものは一切見られない。


「だね~。特に苦しんでるような様子見られないよ」


 どうやら愛梨も同じ感想を抱いた様子。となると彼らが嘘を言っているという可能性も出てくるが、一面を見ただけで考えるのもよろしくない。


「とりあえずまずはどんな感じか見てみるか」


 そうして俺たちは二人で街中を見て回ることにした。


 町はそれこそ中世ヨーロッパと表現するのが正しいが、ここでも最初にいた国と同じく着色という技術は使われていなかった。どれもこれも灰色や白、茶色といった色を基調として作られているところを見ればすぐにわかる。


「ねぇねぇあの人耳がちょっと違う」


 愛梨の視線の先には尖った耳の女性がいた。ああこれは多分あれだ。


「エルフだな」


 エルフ、よくプライドが高く賢い種族として様々なファンタジー作品に登場する。当然知力が高いことから魔法を得意とする場合が多く、戦闘時の役割は後方支援が主である。なお、プライドが高いためか非常に繊細だったり真面目だったりするが、それ故にツンデレ、ドジっ娘等の属性が付与され、萌えポイントとして一部界隈では絶大な支持を得ている。


「萌えポイントなんて聞いてないんだけど」


 しまった口が滑った。この手の話題になるとしゃべり過ぎてしまうので注意しよう。なんか愛梨がとても怖いし……。どうにか萌えポイントから話題をそらすべく、一度咳ばらいをし、


「ところで愛梨はもう魔法の一つでも覚えたか?」


 正直自分でもどうかと思う話題の振り方である。こういう時自分のコミュ力の低さが恨めしい。が、愛梨はジト目のままではあったが、こちらの話題に乗ってくれた。


「まだだね。てか結構二人とももうレベル上がってるよね?」


 言われてステータスを確認する。


浅野悠一(あさのゆういち):LV45

体力  :HP456

魔力  :MP1082

攻撃力 :514

防御力 :592

魔攻  :1298

魔防  :1047

敏捷度 :1011

運   :990


 伸びやすいステータスと伸びにくいステータスがあるようだが、概ね上昇率が高い。というか明らかにステータス上昇率が上がっている。


「んーなんか悠一君ホント強そうだよね……全部のステータス見れるわけじゃないから正確なところは分からないけど……」


 レベル1段階でかなり優れたステータスを持っていた愛梨に比べても俺の成長率は壊れている。愛梨が伸びにくいタイプなのかもしれないが、にしてもと言った感じだ。化学者という能力には化合物や混合物を出せるというもの以外に何かあるんじゃないだろうかと邪推するレベルである。


「ってそんなことより今は魔法とやらの話だ。俺にはそれらしきものはないぞ」


 44もレベルが上がってこれというのは流石におかしい。愛梨の方にも魔法はないということはつまりレベルアップが条件ではないのか? と、そんなことを考えていると視界の端の方に魔本店という文字が映った。魔本店?


「あれじゃないよね? 魔法の習得って……」


 愛梨はおずおずとそう聞いてきたが、声色から察するに明らかにその展開を望んでいないことが分かった。俺だってあれじゃないと思いたい、異世界来てまで金で魔法が買えるなんて世知辛い現状を見たくない。が、現実から目をそらし続けるわけにはいかない。そのまま俺たちは魔本店に向かって足を進めた。


「はーい! いらっしゃい!! どの魔法が欲しいのかなー!!??」


 店に入ってみるとやけにハイテンションなバニーガールがいた。恐らく店員なのだろう。顔立ちは可愛いが明らかに客集めのやり方がゲスすぎる。


「あの、すいません。魔法の習得の仕方について教えていただきたいのですが」


 それを聞いた瞬間バニーさんの顔が何言ってんだこいつ、みたいな顔になったが刹那彼女は再び営業スマイルを貼り付けていた。


「えっとですね~魔術習得は今ここにあるような魔本を使って行います~! これ本の形をしていますが実は全然読む必要ありません! 頭を魔本に付ければ自動的にその魔術の極意みたいなのを吸収できちゃうという優れモノなのです!! ま、一冊につき一人しか吸収できないというところは注意が必要ですけどね。あ、ちなみに野生のモンスターを狩ったりしてる最中にたまにドロップしますのでご安心ください~」


 野生じゃないモンスターがいることに驚いたが、ここの世界のモンスターが向こうで言う動物と同じ扱いを受けていると考えれば、ペットやら動物園やらという仕組みがこちらにもあってもおかしくはない。


「成る程、了解した。どうする?」


 とりあえず愛梨に聞く。資金は無限でない以上生活最低限のもの以外は2冊買ったら損だろう。愛梨もその辺りは分かっているらしく、


「水と火と光は2冊でいいんじゃない? あとは一冊か買わないという選択でいいと思う」


 と、言われたので俺はその通り注文する。火2、水2、風1、雷1、光2、闇1の計9冊、今のところはこれで十分だろう。なお、回復もあったし店員からも重要だと勧められたが、うちの愛梨のヒール能力の方がどう考えても上っぽいので購入はやめた。


 外に出た俺たちは早速街の郊外のほうまで行き、そこで魔法の習得を開始した。一つの魔法を習得するまでにかかる時間、およそ5分。つまるところ30分以内に終わってしまった。ちなみにそれぞれの効果だが、火は大体100円ライターくらいの、大きくてもガスバーナー程度の大きさの火しか出せない。水は体を洗えるくらいには出せる。この二つを合体させるとお湯が出るので、実はかなりありがたかったりする。


 次に光、予想通り指先を発光させる魔法。闇、周りから光を吸い取り半径100mを夜ぐらいの明るさにすることが出来る。光は有用そうだが今のところ闇の利便性が分からない。


 そして最後に風と雷。風はまぁ扇風機から出る程度の風が出せる、といったちょっと便利程度の魔法に過ぎないが、雷の方が恐ろしく有用な魔法だった。何故か。その理由はただ一つ、スマホの充電ができること。今まで充電切れのせいでずっと使えなかったが、試しに俺が雷の魔法をスマホに向けて撃ったところ丁度充電にいいくらいの電流が流れるらしく、すぐに復旧した。通信機能等は使えないものの、時間などを見れるというのは非常に便利だ。


 ちなみに分担としては闇と雷が俺、風が愛梨という形になった。まぁスマホの充電役など一人いれば十分だろう。


 俺たちが魔法を得て新しいおもちゃをもらった子供みたいにはしゃいでいると、ばたばたという音とともに怒声が聞こえてきた。

 

 音のする方を見ると、そこには十数人の騎士に追われる少女の姿があった。少女の容姿は人間のそれではなく、ショートカットの頭に猫耳のようなものが生えており、尻からは尻尾が生えていた。特徴から考えるにケットシーだろうか。いや、そんなことを呑気に考えている場合ではない。


「呪われた一族が! 貴様らの居場所はここにはない!!」


 そう言いながら思いっきり剣を少女に振り下ろす騎士。次の瞬間彼女の背中から鮮血が飛び散った。そして騎士はとどめを刺すため剣を振り上げ、


「じゃあな!」


 騎士が剣を振り下ろす前に俺は化学物質を生成、そのまま液体を男にぶつける。最初何が起こったのか分からなかったようだが、次の瞬間、


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!????????」


 断末魔の叫びが上がった。当たり前だ、俺が生成した物質は純粋な塩酸、高濃度の塩酸を頭からかけられて無事な人間がいるわけがない。それを聞いた他の兵士たちも剣を構えたがもう遅い。俺は再び塩酸を生成し、全員に浴びせていく。そして浴びせたと同時に次々と倒れのたうち回る兵士達。5秒後には全員が戦闘不能になっていたが安心するにはまだ早い。


「悠一君! 一旦離れるよ!!」


 俺が撤退を促す前に、愛梨は少女をおぶって離脱する準備をしていた。血が垂れていないところを見るに、既にヒーラーの能力で応急処置を済ませていたらしい。この辺り流石元優等生、抜け目がない。


「了解!」


 そう言って俺たちはひたすら安全な場所を目指して走り出したのだった。

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